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天使と悪魔のジャズ&リズム  作者: 外道男
僕に守護霊が憑いた日
2/11

第2曲・魔人と悪魔のハードラック

何とか続けたい

「ふっ・・・!」


一閃。


銀製剣の横薙ぎにより、凛と、空気が裂かれた。

神聖儀礼を施された銀剣の閃きは、横薙ぎを受けた死霊分類魔物ゴーストモンスター、グールを容易く浄滅させるに至った。


ロードライト聖騎士団第7編成部隊隊長、クリア・ロゥエルは銀剣に付いた血液を払い、周辺の状況を確認する。


聖騎士団は、最近になって活発になり始めた魔物モンスターの調査と討伐の命を受けた。

彼女の率いる第7部隊は、王国領内最大規模の密林、グロウ大森林の調査を任され、近隣のヒノデ町に駐留している。


第7部隊は、聖騎士団の中では新鋭であり、未だ経験も少ない。

領内でも比較的安全な大森林周辺を任されたのも、納得のいく判断であった。


ーーあいつは、どうにも不服そうだがな・・。


さりげなく、戦闘中の副官を見る。

副官、カイン・レイヤーは不機嫌な様子を隠さず、飛び掛るように植物型の魔物、グリーンパインを斬りつけていた。


カインは信仰心もそうだが、どちらかと言えば剣の腕を買われて聖騎士に選ばれた男だ。

カインからしてみれば、自分の実力に見合った戦闘の場が与えられなかった、とつむじを曲げているのだ。


そこまで考えてクリアは、新たに近づいていたグールを袈裟懸けに斬り飛ばした。


ーーしかし、魔物が増えているのは間違い無さそうだ。


現在部隊は、大森林の周辺を調査中に森から飛び出して来た魔物の群れと交戦していた。

魔物に統制は無く、乱れることなく騎士達は戦えているが、そこそこに数が多い。


ーーこれもやはり、魔王とやらの影響、か。


ことは数ヶ月前、王国一と名高い占い師が王に進言した所から始まる。


闇の領域より、悪魔を束ねる人型が現れる刻

三界の均衡が破れるであろう


これは凶兆に違いない、と占い師が騒ぎ立てたらしい。

今代の国王は特に聖神王教の信仰が厚く、国内に要警戒の触れを出したのがその直ぐ後の事。


クリアは、そこまで占いと言う物は信用していないが、実際に、各地で奇妙な現象の報告が続いているのは事実である。


戦闘開始から何体目になるか分からない魔物を斬り捨て、クリアは声を上げた。


「魔物の数は減ってきている!この調子でいくぞ!」


返事は、しっかりと全員分返ってきた。

否、カインは返していない。


「お前もな、カイン!」


「へ、誰に言ってんですか隊長!」


カインは、魔物の頭を斬り飛ばす事で返事とする。

そうだ、普段生意気な分は働きで示せ。

言って、ほぼ同時に魔物に止めをさした時だった。


「・・・!新手か!・・あれは!」


森から新たに数体の魔物が飛び出して来た。

だが、今まで戦っていた魔物と比べると桁違いに強い。

湿り気のある蒼い鱗に筋肉質な巨躯。

鋭利で赤黒い色をした爪を持つ蜥蜴。

爬虫類型二足歩行種、ハイリザード。


それを見て、真っ先に反応したのがカインだ。


「なんだよ!歯ごたえの有りそうな奴も居るんじゃねえか!」


近場の騎士に襲いかかろうとしたハイリザードの前にカインが割って入った。


「カイン!まったく、嬉しそうにして・・・。お前達、相手は中位相当の強敵だ!気を引き締めて掛かれ!!」


今度こそ、全員分の返事が返ってきた。


ーーしかし、ハイリザード、か。


中位階の魔物の中でも一般的な聖騎士一人で戦うにはかなりの強敵だ。

恐らく、この大森林の中でも中心部、その生態系のトップに位置している筈だが。


爬虫類型の魔物は無理に縄張りを広げない。

自らの巣を中心に行動を組み立てるからだ。


何故、森の中心部から離れた森の外に飛び出して来たのか。


「・・・逃げ出して来たのか?」




まさか、な。

クリアは考えを止めると、ハイリザードに向けて走り出した。




⚫️




【何故、何故だ何故だ何故だ・・・!】


どうも皆さんこんにちは。

笑っていれば大抵の事はなんとかなる。

グレイ・ニュートラルです。



先ほど僕に、守護霊さまが憑きました。



【身体の侵食は完了した、間違いない。なのに何故、乗っ取れていない!いやそもそも悪魔が魂食こんしょくに失敗したなどと聞いたことが無い・・・!】


大樹に寄りかかって倒れていた人に話し掛けると突然、濃い霧の様なもので目の前が真っ暗になり、気が付いた時には倒れていた人は居なくなっていました。


その代わり、と言うのも変だけど、僕の肩の上辺りにフワフワと男の人が浮いていたのです。


暗い紅色の長髪を、逆立つようなオールバックに纏めた男性です。

身体の各所に黒い鱗の様な鎧を付けていて、聖騎士さんとは違った格好良さがあります。



父さんから、聞いたことがあります。

狩人には守護霊がついている、と。


たしか、ヒノデ町の狩人の心構えの最初に、ええと。


狩人は命を懸けて、獲物を狩るべし

命を懸けた狩人は、一人ではない

狩った生命が、先に生きた狩人達が、汝の守護とならん


という一文がありましたね。

つまり、この方は僕の守護霊さまなんでしょう。


【ああ、悪夢だ。こんな人間のガキの後ろで何も出来ないなんぞ。夢半ばで散るよりひでえぞ】


しかし、守護霊さまに話し掛けても反応がありません。

そもそも守護霊さまって喋れるのでしょうか。


ねえねえ守護霊さま。

守護霊さまは、僕の守護霊さまですか?


【さっきから五月蝿えぞ!それに守護霊じゃねぇ!】


ぴゃー。怒られちゃいました。

でも良かった良かった。ちゃんと喋れるのですね。


【いや、そうかガキと話せるのか!おいクソガキ、その身体の主権を俺に寄越せ!】


しゅけん?すいません、良く分かりません。

こんな経験、初めてなものですから。


【俺だって初めてだよこんな事!!】


そうなんですかー。

つまり、お仲間さんですね。いえい。


【ああっ!?イライラさせるガキだなぁオイ!】


イヤですね守護霊さま。

ガキだなんてそんな水臭い呼び方。

もっと、ふれんどりーに話しましょうよ。


【うっがああ!!何なんだこのクソガキ!ああ良いぜ話しやがれ!てめえ何者なにもんだ!!】


良くぞ聞いてくれました!

明るく楽しく元気良く、をモットーに。

僕はグレイ。

グレイ・ニュートラル。16歳。

これからよろしくお願いします守護霊さま。

ニッコリ。


【そんな事が聞きたいんじゃねえ!例えば、そう!特別な先天性技能レアスキルを持っているか!】


れあすきる?

そんな凄そうな物は無いと思いますよ。

あっ、死んでも治らないくらい前向きって言われた事があります。


【それはお前、馬鹿にされてんだろが】


ばかもん。

後ろ向きよりは褒め言葉だい。


【なら、重要な役割を負った人間だとかは?】


役割ですか?

そうですねえ、町に入って来た人に、

ここはヒノデ町だよ!

って喋りかける役目を貰ってたりします。えへん。


【お前、役立たずなんだな・・・】


ばかもんばかもん。

町に一人は必要な役なんだぞ。


そんな事より守護霊さまの話が知りたいのです。

さあさあ、お名前をどうぞ。


【守護霊じゃねえっ・・・チッ。俺はゼット。悪魔だ】


へー、守護霊さまは悪魔さんでしたか。

どうして守護霊さまは僕の守護霊に?


【俺が聞きてえよ!何でこんなボーッとしたガキに縛り付けられてんだか・・・】


ばっかもーん。

物事に何にでも理由があると思ったら大間違いです。


【・・・ハァ。もういい。俺に話し掛けるな】


ええっ。

寂しいじゃないですか。

お話しましょうよー守護霊さま。


【だから守護霊じゃ・・・。ああ?】


おや?

森がざわめきたってますね。

森の全てが共鳴したように、揺れ響いています。


これは、狩人の経験からすると。

強大な外敵の出現により、全ての動物が警戒している?


はっはっは。なんてね。

そんな事が起こるなんて、10年に1回くらいのもんです。


【じゃ、てめえはその1回を引いた訳だな】


ほぇ?



⚪︎




「ギィシャアアアア!」



ほわあっ。

びっくりしたあ。

突然周囲に火の粉が降り注ぎましたが、僕の狩人センスを舐めてはいけません。

ほいほいほいっと、火の粉を躱していきます。


【服の裾、焦げてんぞ】


ほわちゃあっ。

やってしまったあ。

こういうの、一度焦げると直すの面倒ですよね。


まったく、誰ですかこんな酷い事するのは。

森で火の粉をばら撒くなんて非常識にもほどがあります。


【・・・・・・】


あ、なんですか守護霊さま。その顔は。

何を考えてるか当ててあげます。

ズバリ、お前も非常識だろ。です!


【大当たりだよバカ!来るぞ!】


何がですかー。


守護霊さまが叫ぶと同時に、近くの林から炎が立ち上がります。

炎は、まるで生き物のように揺らめいて、大きく膨れ上がると一瞬で消えてしまいました。


「ギィシャアアアア!」


消えた炎の中から出てきたのは、どうやら魔物のようです。


見た目は黒く、赤い目をしていて、ハイリザードに似ています。

でも、おかしいなあ。

普通のハイリザードよりも少し大きいし、たしかハイリザードは炎を苦手としているはずです。

この大森林に、こんな魔物いましたっけ?


【いねえだろうな】


守護霊さま、何か知ってますか。


【ふんっ、ありゃブラックフレイムリザード。上位階魔物、それも悪魔の眷属だ】


な、なんだってー。

悪魔の眷属ってなんですかー。


【分かりやすく言うなら悪魔に力を与えられた魔物だ。悪魔ってのは人間が殺したいほど大嫌いでな、当然その眷属も、人間を見つけたら殺そうとする以外にねえだろうな】


へえ、凄いんですねえ。


【てめえが何も理解してねえのは分かった】


失礼ですね守護霊さま。

僕にだって分かってますよ。

あの魔物が強い事とか、僕を執拗に炎で狙っている事とか。


【それが分かってるなら早く逃げろォ!!】


あっはっは。

いやあ、炎が次々に飛んで来て火の海になってます。


でも、どうしましょうか。

このトカゲちゃんを放っておくと、この大森林が焼けて無くなっちゃうかも知れません。


そうなったら、みんな困っちゃいますよねえ。


【・・・おい!?立ち向かおうってのか、死ぬぞ!?】


いやあ、僕も狩人ですから。

やっぱり、命を懸けてなんぼの職業なんです。

これで無様に逃げようものなら、後で父さんにぶん殴られちゃうぜ。

さあ、トカゲちゃんを頑張ってどうにかしましょう。


【(クソ、この場を凌いで何とかクソガキの身体を乗っ取る方法を探そうとしてんのに、わざわざ死を選ぶかよ!本当に、悪夢だ!!)】


「ギィシャシャシャシャ!!」


ありゃ、トカゲちゃんに笑われてます?

まあ、確かに手持ちの狩猟道具では心許ないですけど。

思わず苦笑いを溢すと、背後からとんでもない圧力を感じました。




【ーーー何を笑ってやがるゴミ共がよお・・・!】




あれ、どうしたんですか守護霊さま。怒ってます?


【死にたがりのクソガキも、身の程を弁えねえトカゲも!全部気に入らねえ!ぶっ潰してやるよ今ここでなァ!!】


守護霊さま、滅茶苦茶怒ってますね。

声が大きくて頭がガンガンしてしまいます。


【クソガキ、てめえを潰すのは後回しだ。今からてめえに戦える力を教えてやる、あのトカゲをぶっ壊す力をな】


ホントですか、やったー。

嬉しいけど、大丈夫かな。

教えられた事をすぐに出来るでしょうか。

僕はひ弱な少年グレイ君ですし。


【安心しな、てめえはもう、その力を手に入れてる。使って無いだけだ。俺が力の出し方を教えてやる、後はてめえであのゴミトカゲをぶっ壊せ】


了解です!


【フンッ。行くぞ!】


守護霊さまがそう言うと、黒い霧が僕の身体から噴き出してきます。

な、なんだこりゃあ。

いつから僕はビックリ人間になったんだ。


【その霧が力の源泉、魔力だ。体の内から湧き出すイメージで形成しろ。トカゲが来るぞ!】


何時の間にやらトカゲちゃんが大きく息を吸い込んでいる。

多分、大技を出す気ですね。


ギィシャアアア(火炎大放射)!!」


トカゲちゃんの吐き出した炎は一帯をまとめて焼き払うかのように僕に向かってきます。


【俺の魔力を使うてめえはもはや人では無い、魔人だ!こんな小さな火じゃ届かねえと思い知らせてやれ!!】


はあい。

・・・あれ、魔力ってどう使うんですか。


【チッ、仕方ねえ俺の技を使わせてやる!合わせろ!】


ばっちこーい!



バーストグリッター(ばーすとぐりったー)!!】




⚫️




「な、なんだあれは・・・!」


隊員と協力し難敵ハイリザードを討ち取った瞬間であった。

クリアが、安堵の息を吐こうとすると同時に、大森林周辺に凄まじい爆発音が響いたのだ。


その刻、全ての隊員が空を仰いだ。

森林から轟音と共に飛び出し空に消えていく煌めき。


「黒い、光・・・?」


「おい、なんだありゃあ・・・」


カインの呟きに答えるものはいない。

答える事が出来なかった。クリアでさえも。


聖騎士として魔物と対峙してきても感じる事の無かった、背筋の凍るような圧倒的な力の残滓。

それを目の当たりにし、聖騎士達は言葉を失っていた。




⚫️




けほっけほっ。のどがちくちくします。

いやあ、あんなに爆発するとは思いませんでした。


【ふん。この俺の技を使ったんだ。当然だ】


強かったんですねえ守護霊さま。

この辺り、大樹以外ボロボロですよ。


【俺も予想外だった】


え?


【本来なら悪魔が人間の身体を乗っ取れば一時的な弱体化は免れない。だがさっきの一撃は俺の技と比べても劣っていなかった】


はあ、ほお、へえ。

ええと、つまり?


【・・・・・】


あれ、守護霊さまぁ。

返事してくださぁい。


【・・・おい、グレイだったか?】


はいそうです。グレイです。

明るく楽しく元気良く、をモットーに。

グレイ・ニュートラルです。


【お前、俺と一緒に世界を征服しねえか?】



⚪︎


どうも皆さん、グレイ・ニュートラルです

どうやら僕は、凄い事に巻き込まれているようです。


本編に描かれなかった部分の補足



何故ブラックフレイムリザードに放った光線が空に向かっていたか。


これは、光線の直撃で生じた爆風でグレイ君が尻もちをつき。

かつ、咄嗟に森を傷付けないように向きを変えたからです。

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