俺から初めての手作りプレゼント
今回は、紫音くん目線です
三月に入ったある日。
俺は、何気に街をブラついていた。
もうすぐ、ホワイトデーだなぁ。
梓に、何やろうか?
目につくものすべてに梓と重ね合わせる。
そして、ジュエリーショップのウインドーに飾られてたネックレスに目がいく。
これ、あのブレスレットとお揃いのやつじゃ・・・。
一目見て、これにしようと思った。
・・・が、値段があわない。
これは、まずい。
俺は、直ぐ様、姉貴が経営してるカフェに走った。
「いらっしゃいませ」
従業員らしい人の声。
と同時に。
「あら、紫音。どうしたの?そんなに慌てて」
呑気な姉貴の声。
「姉貴。今すぐ俺を雇ってください!お願いします」
俺は、姉貴に頭を下げた。
「ハハーン。さては、ホワイトデーのお返しに買おうとした品物が、思ったより高かったのね」
見てたのかよ。
「いいわよ。紫音が手伝ってくれたら、店の売り上げも増えるしね。その代わり、彼女、紹介してよね」
ニコニコ顔が怖かった。
その日から、俺は、姉貴の店に立った。
授業が終わると、直ぐに姉貴の店に向かった。
そこで、接客の仕事をして、たまに話し相手をし、時には、付き合えと誘われながらかわし、梓のために頑張った。
「紫音。プチケーキ、作らない?」
突然、何を言い出すんだ?
「彼女に自分が作ったプチケーキ、ご馳走したら、喜ぶんじゃないかなぁ」
姉貴の言葉に俺が作ったケーキをほうばる梓の笑顔が浮かび上がる。
「・・・うん。そうだな。それいいかも」
俺は、姉貴に提案に乗った。
それから、姉貴に教わりながら、ケーキ作りの特訓が始まった。
そうこうしてるうちに、ホワイトデー前日。
不覚にも俺は、梓を誘うのを忘れていたのだ。
俺は、昼休みに梓の教室に行った。
「梓」
教室の入り口で、梓を呼び出す。
梓は、朋ちゃんとお昼を食べていた。
俺を見ると渋々席を立ちこっちに来る。
「どうしたの?」
不思議そうな顔をしてる。
「明日、空けておいて欲しいなぁ・・・なんて・・・」
今頃言い出しても、空いてるよな。
明日は、ホワイトデーなんだし・・・。
「ごめん。明日は、バイトが入ってるから、無理だよ」
エッ・・・。
空けておいてくれなかったのか・・・。
「終わってからでいいから、俺に時間ください」
俺は、頭を下げた。
どうしても、明日、渡したいから・・・。
その為に頑張ってたんだから・・・。
「・・・うん・・・」
梓が、了解してくれたのを聞いて。
「バイトが終わる時間に迎えに行くな」
それだけ言って、自分の教室に戻った。
とりあえず、約束は取り付けられたんだ。
よかったことにしよう。
ホワイトデー当日。
俺はとりあえず、姉貴の店に向かった。
「紫音。これ」
姉貴に封筒を渡された。
?
「あなたのバイト代。それで買うんでしょ?」
そうだった。
「先に買っておいで、それからでも大丈夫だから」
姉貴に言われて、そのまま買いに出た。
俺は、ジュエリーショップのウインドーを見た。
よかった。
まだ、残ってた。
店に入って、店員さんに。
「ウインドーに飾ってある、ネックレスをください」
「どちらのですか?」
「ピンクのハートのチャームがついてるのです」
「わかりました。少々お待ちください」
店員さんが、ウインドーへ近寄って、品物を持って戻ってきた。
「こちらでございますね」
俺は、それを確認する。
「はい。それです」
俺は、つい食いついていた。
「包装しますので、今暫くお待ちください」
店員さんが、クスクス笑いながら、奥に行く。
仕方ないじゃないか。
梓がつけたところを想像してたから・・・。
「お待たせしました」
店員さんが、俺にそれを手渡し、支払いをする。
「ありがとうございました」
やった。
これで、後はケーキを・・・。
と思っていたら・・・。
「流崎くん?」
振り返ると、藤堂有美がいた。
やな奴に会った。
「それ、私にですか?」
何を勘違いしてるんだか。
そう言って、俺が手にしてる袋を取り上げていく。
「そんなわけないだろ。返せ!」
俺は、藤堂から取り返す。
「私のは?」
「あるわけないだろ!俺は、あいつのためしか買わない」
俺は、それだけ言って、背を向けて店に戻った。
休憩時間に俺は、ケーキを焼いた。
「おっ、紫音。やってるね」
姉貴が、厨房に入ってきた。
「これ、どうかな?」
「うん。見た目は合格。味は・・・」
そう言って、姉貴がフルーツタルトを手にとって、食べ出した。
「味も、合格だね。一週間でここまでやるとは、さっすが、紫音」
バシッ!
姉貴が、俺の背中を叩く。
「痛いって!手加減しろよな」
そう言って、姉貴を睨む。
「あっ、そうそう。店、貸してあげるから、彼女、連れていらっしゃい」
姉貴が、珍しいことを言う。
「ありがとう」
「ほら、休憩終わり。店出て頂戴」
「わかったよ。その前に、これ片付けさせて」
「はいはい」
俺は、出来上がったケーキをしまって、ホールに出た。
午後八時半。
「姉貴、悪い。迎えに行ってくる」
「ああ、もうそんな時間か・・・。行っておいで・・・」
姉貴の許可を得て、店を出た。
梓のバイト先で、梓が出てくるのを待っていた。
梓、喜んでくれるだろうか・・・。
って、梓の笑顔が見たくて、頑張ったんだもんな。
空を見上げると、満点の星が瞬いていた。
視線を感じ、振り向くと梓が居た。
「お疲れさま、梓」
俺は、笑顔で梓を迎える。
「うん・・・。で、今日は、どうしたの?」
梓がそっけなく言う。
「梓。もしかして、今日が何の日か忘れてる?」
梓の顔を覗き込む。
梓の頬が緩む。
忘れてないみたいだな。
「ここで話してても仕方ないから、行こうか・・・」
俺は、梓の手を繋ぎ指を絡ませた。
「・・・紫音くん。どこに行くの?」
梓が、声をかけてくる。
「うん。ついてくればわかるよ」
俺は、はぐらかすように言った。
姉貴が、店仕舞いをしていた。
「閉店みたいだけど、いいの?」
梓が、戸惑いながら聞いてきた。
「いいの。梓は、ここに座ってて」
道沿いのガラス張りの席に座らせた。
俺は、そのまま厨房に向かった。
「なかなか、可愛い娘じゃない」
「煩いなぁ。でも、本人、自覚ないぜ」
俺は、手を動かしながら、言う。
「ヘェー。結構、モテるんじゃないの?」
「確かにモテるんじゃないのかな。まぁ、俺が居るから、そう近づかないと思うが・・・」
「アハハ・・・。それこそ、自信過剰だ」
姉貴が、楽しそうに笑う。
かってに笑ってろ。
「店の電気を落とすよ」
「うん」
俺は、ケーキとミルクティーをお盆にのせて、梓のところへ戻った。
暗闇の中、テーブルに並べ。
「お待たせ」
俺は、梓の横に屈んだ。
「どうしたのこれ?」
梓が不思議そうに聞いてきた。
「俺が作ったんだ」
梓の事を想いながら・・・。
「とりあえず、食べてみて。味の保証はするから・・・」
微笑みを浮かべながら向かいの席に座った。
早く梓の笑顔が見たいから・・・。
「う・・・うん」
梓がフォークを手にして、フルーツタルトに手を伸ばした。
一口、口にして。
「美味しい!紫音くん、上手だね」
梓が、笑顔で言ってくれる。
この笑顔が見たかったんだよ。
「ありがとう、梓。その笑顔が見たかったんだ」
俺は、梓の笑顔で、自分が笑顔になっていく。
梓が、俯いた。
「なぁ、顔見せてくれよ、梓」
それでも、梓は顔をあげてくれない。
「梓・・・」
俺は、梓の顔を覗き込んだ。
頬が少し赤い。
俯いたままの梓に。
「梓には、もう一つあるんだ」
そう声をかけた。
すると、梓の顔が上がる。
「これ・・・」
さっき買った、ネックレスをテーブルに置く。
「開けてみな」
俺は、促すように言う。
梓は、ゆっくりと丁寧に包装紙を剥がして、蓋を開ける。
梓が、驚いた顔をする。
「それ、クリスマスにあげたブレスレットと同じものだから・・・」
俺が、補足すると大きな目が、さらに大きくなった。
やった。
サプライズ、成功!
心で思いながら。
「着けてあげる」
俺は、梓からそれを受け取って、後ろに回って、着けた。
うん。
やっぱり、このシリーズは梓に似合う。
一人納得してると。
「ねぇ、最近、紫音くんの態度がおかしかったのって・・・」
やばい。
不安にさせてたか。
「うん。梓にネックレス(これ)をプレゼントしたかったから、バイトしてた」
俺って、いつも一言足りないなぁ・・・。
そう、反省してると。
「私、てっきり、他に好きな子ができたんじゃないかって、不安に思ってた」
梓が、口にした。
「ごめん。ちゃんと言わなかった俺が、悪かった。梓以外に好きな奴なんていないから」
後ろから梓を抱き締めながら、俺の口からきちんと言うことにした。
「梓、好きだよ」
「私も、紫音くん、好き」
梓が、恥ずかしそうに、でもはっきりと言う。
「うん、知ってる」
俺は、クスクス笑う。
すると、突然、俺の頬にキスをした。
今回のストーリー、梓目線が活動報告にのせてあります。
暇潰しに読んでください。