全て支配は神の手に
世界に突如現れる偽人。
偽人とはすなわち、別の世界から訪れた人がその世界をさ迷うこといい、それが発生する条件は諸々沢山のある。
その1つを述べると、誰もが幸せを求め幸せを勝ち誇る為に誠実な人、人のため世のためにと光り輝かす聖の力。
欲を解放させて残忍を楽しみ人を人とも思わぬ邪悪な光を灯す魔の力。
これらの衝動の力がぶつかり合うことで時空の因果が乱れてしまうわけだった。
健太達は例外に何らかのイレギュラーでこうして世界の因果をさ迷うことになっていることであるわけだが、
さて。
その健太達のいる『インフィニティワールド』という世界で生身の肉体は少し厳しすぎる環境だ。
だからこそこのゲームの中で本という存在はとてつもなく必要不可欠な物。
誰が何のために本の存在を作ったと聞かれたらそれは誰にも分からず。
じゃあ、何故そんな物を作ったかと聞かれたら、それが生みの親にとって都合がよかったからかもしれない。
もしかしたらこの現象こそが本を作った生みの親なのかと、まぁ大事なのはこの本がどんな役割を果たしてくれるのかという話が重要であって、今はそんな話は置いておこう。
魔法の世界。
炎を操れば料理を作り、土を操ればどんな攻撃にも鉄壁なガードを施し、雷を操れば動力にも使えてしまう。
『インフィニティワールド』の人々は当たり前のように魔法を使えて、家庭でもよく使われていた。
本には、健太達のように生身の肉体では決して操れない魔法を補う(おぎな)役割を持っている。
だから健太達のいる世界では何不自由無く暮らしていけるのだが。
その人達がそれでいいはずがなかった。
当然偽人達にとって自分の世界があり家がある。
元の世界に帰りたいのは当然の心情である訳で出来る限り出来るものは行動に移すだろうし、実際本にも元の世界に帰れる方法は書いてある。
だが、それは何の解決法にもならないただ単に人の心情をもて遊ぶかのような内容だった。
全てを死に自分だけが助かる、そんでもって一人だけが元の世界に戻れる。
人はこれをデスゲームという最低最悪の結末が起こりうる可能性を秘めたものだ。
それが本の中に書かれていた内容。
5000人にも及ぶ規模は、この世界に集結されていて尚のこと一人しか生き残ることが許されない……というのは少し大袈裟になるが少なくとも偽人がこの『インフィニティワールド』という世界で息を引き取らない限り、4999人が元の世界に戻ることは出来ない。
ただ、4999人が本当に死ぬ訳ではないらしく、きちんと5000人は元の世界、地球へと帰還出来るということ。
どんな現象で人が死に無となった存在を有にするのかはそんなこと考えてもわかるはずもなく、地球全体に散らばった落ち葉の中でたった1つのボタンを探せなんて言葉と同等なくらい馬鹿げた話だ。
まぁそんな例え話はさておくとしてこれは喜ぶべし内容だった。
だって死ねば帰れるんだから、死ねばいい。
モンスターにわざとらしく攻撃されてしまえばものの見事にポリゴン如く砕け散らばり生滅出来る。
一見落着な案に誰もが地球に戻る為に続行する手段であると思うがでも、それでも地雷のような落とし穴がここにもあった。
これはゲームじゃない。
一見パソコンからダウンロードしたゲームだからそういうゲームらしきことは実現するかもしれない。
だからこそ健太達はまだ気づいていないのだ。
この世界がゲームでないことを。
斬れば痛みは走り痛覚がある。
嗅覚も視覚も五感という物が全てがあって、その状態で死のうとすればどうなるか、それはまるで自殺を試みる感情を引き出すようなことと同じであり、当然のようにそんな自殺という痛みを味わうのは誰もが嫌でもあり、その判断が人々を逡巡させてしまうのだった。
これはもう偽人を破虚させる天災。
もうここに住んでしまえと言わんばかりにどうしようもない、どうしたらいいのか分からない感情が心中にドス黒く濁っていく。
いったい首謀者は偽人に何をさせたいのか。
剣と魔法溢れるこの世界で健太達はこれからどういった行動を取るのか。
それらの疑問は誰にも分からない。
分かるのは首謀者だけであった。
空は意外とまだ青い。
結構な時間が流れたと思っていたんだが、とうにもこの世界で時間が長いと言うわけではないらしい。
坂木の推測なんだか時間の酔いだろうと。細かく言えば麻痺。
酒場から出て俺達は今市場を歩いている。
目的地は門の外に生い茂っている草原で、まぁ外側が草原と俺の目で確認したわけじゃないが、要するにそうあってほしい俺の願望だった。
そんなことより俺は坂木から大まかに説明を受けていた。
実際果てしなく現実離れした内容だ。
もし、こうして1日2日と時間が流れて行ってしまえば、何かしらのやばい物語が仕上がるかもしれない。
そんな話を聞いて、とにかく今は冴えないブルーな気持ちでいる俺が居てそんな気分に陥っている中、次の目的へと歩いているわけなのだが、じゃあどうして門の外に行こうとしているのかと聞かれたらそれは単純に坂木の興味本意だった。
ギブアンドテイク。
元はそういう話だったから一方的に俺だけ情報を貰うのはなんだか下是なかったし、だから見回りしたこの街の事柄を教えたのだけど、どうなんだろう。
坂木は妙なテンションになった。
ー武器があるなら当然モンスターだっているよな!
、
流石得体の知らないスイッチを押しただけの器者だと思う。
この訳の分からない現象が起きて尚、冒険心があるのかとツッコミたくなるのも無理もない。
だけど確かに前を進まない限りなにも出来ないし答えも見つかる訳もない。
だからとりあえず坂木の、門の外に出てモンスターを見てみようぜと言う案に賛成した。
なんというか、俺達に危機感という言葉は知らないようだ。
「ところで健太、大事な事を思い出したんだけど俺達この服装のままで外に出るのか」
「それは……いくらなんでも危なくないか? ただでさえ未知な生き物と遭遇しようとしているのに、武器や防具を無しで遭遇するというのはどうなんだろう」
「襲われたら死ぬんじゃないか、俺達」
「シャレになってない……」
ということでまず先に武器屋によることにする。
勇敢な坂木(城の件で緊張はなれたらしい)は人に訪ねてそれらしき店を聞く。
聞いてきた話によるとこの道を戻らないといけないらしい。
歩いていた道を迂回して知らされた通り俺達は歩き始めた。
屋根が透明で長方形型ビニールだった。
中はちょっとした空間になっている。
隅っこに置かれている無数の壺には沢山の剣が入っており、木で出来た台にはナイフが置いてある。
木で出来た壁諸々に高そうな武器が並んで、なんというか思っていたイメージと大分違うというのが俺の素直な感想だった。
じゃあどんな想像をしていたかというと、こうもっと清潔にされていたり商人が凄く美人だったり。
というのが俺の想像であり願望だったりもするわけなのだが……実際は30過ぎに髭を生やしたおじさんだった。
「はぁ~」
「おいおい、店にため息でも売りに来たのかあんちゃん等。だったら帰り、こっちはため息なんて買ってないんでな」
台に頬杖しながらおじさんは機嫌悪くして言った。
「ああ悪い悪いおじさん、別にそういう訳じゃないんだ。俺達は武器を買いに来ただけさ。売ってくれるだろう?」
「そういうことだったら時間かけて選んでくれっ」
坂木がフォローするとさっきと勝手が違い、微笑ましい笑顔を見せるおじさんは分かりやすい性格をしているとこのとき思った。
「この壺の入った剣はどれも1本1万ジュムだ、頃合いの値段だ」
言うとニカッと笑う。
俺が思うにさっきとはとうってつけに優しそうに見えたのが、なんだか印象的だった。
ジュムについては次回説明をさせて頂きます。
その他感想や疑問に思ったことがありましたらいつでも受け付けているのでよろしくお願いします。