ねらい
本日3話目です。
木材で出来た扉がギィィと鈍い音を散らすドアの開き方に坂木は顔を歪ます。
俺は坂木の後ろに着いていき、目の前のカウンターに直進する。
ここ、酒場という名の飲食店は有名な噂通り大人の雰囲気を醸し出し、シンプルの丸い机、椅子。天井にはシャンデリアとの形でこの空間の現れだった。
「ん? お前さん、今度はツレを連れてまた来たのか」
40前半ぐらいのおじさんが言い、ゴツゴツとまるで鎧でも来ているんじゃないかと思えるほどのファンキーな体格だ。
「ああ、カクテルを俺とツレの分を頼む」
「あいよ、味はどうする?」
「オレンジで」
マスターとのやり取りが手慣れた様子だった。
「……えーと坂木くんはもしかして」
「まぁちょっと待ち、とりあえず座ろうぜ」
そう言うとカウンター越しに坂木は座り、続き俺も座る。
椅子は意外に高く、足が届かないぐらいだ。
「で、その表情からすると俺が手慣れた様子だって言いたいのか?」
「ああ、そうだ」
「うん、その答えは簡単で、ここに来るのは今日で2回目だからだな」
会話の途中ながらお待ちとマスターからカクテル渡され、そこで一旦会話が途切れた。
オレンジ色の液体に氷が含まれたカクテルを口に運ぶと、ふんわりと柑橘の匂いが鼻腔を通る。
「って危な、俺未成年じゃん。なに飲もうとしてるんだよ」
「ん? 健太年いくつだ?」
17と答えると坂木は言う。
「なら大丈夫だ。俺なんて15歳から飲んでたからな」
「いや、俺の家には家訓があって、1つ。未成年は酒を飲まず! っていう言葉が……これを破ると両親が鬼になるっ」
「どこの子供だよ!? おいおいその年で規則を守る青年はいないぜ。……まぁ人には尊重というのがあるからこれ以上は飲ませようとは思わない。てことで悪いなマスター無駄に一杯余っちまった」
ああと答えると、笑みを見せて追加のコップを俺に渡し、見ると中身は水が入っていた。
「こちとら代金さえ支払って貰えれば何の問題はない、それにー」
マスターは、坂木からカクテルの入ったジョッキを受け取り、そのまま自分の口にジョッキを運び喉を鳴らす。
「俺が飲めるしな」
「あんたが飲むのかよ!?」
切れのいいツッコミだった。
プンスカと騒ぐ理由もあるし坂木は正しい。
だが。
確かに店主である人が酒を飲む行為はあまりよろしくもないしツッコミを入れるのも無理はないが、そんなことより俺達にはもっと重大な、この世界に迷い混んだことについて整理をしないといけない。
一刻を争う。
そんな大胆な発言をするほど俺は地球でやり直したいことはとくになにもないが、それは俺にとっての見方であって他の人のことを考えれば。
坂木と遭遇した。
ということは他にもこの世界に迷いだ人がいるかもしれない。
ひょっとしたらミトラが言っていた言葉が本当のことでそういうことだったとしたら、今日本で神隠しにあっている人数、5000人の人達がこの世界にいるとなると、これはもう天災だ。
一刻を争う。
だから俺はこんなのんびりとしてやれる暇はない。
だって中には早く帰りたいと思っている人もいるかもしれない。
そう思うと落ち着いては居られなかった。
「坂木くん、そろそろ本題に入りたいんだが……」
「ああ、そうだな」
真剣な表情に切り替え会話を続行する。
「俺がこの世界に迷い混んだのは3日前。お前はいつからだ?」
「今日だが」
答えるとうんと坂木は頷き言う。
「じゃあまず順に追って行く。本についてもう知っているか?」
「……いや、知らないけど、本がなんだ?」
そう言うと坂木は手で怪しげな動作を始める。
まるで目の前にスイッチでもあるかのように人指し指で空気を押すと、瞬間、カウンターの机に突如煙が現れ、ほんのコンマの間で煙が消えた。
そしてそこにはないはずの、長方形にして分厚い本がそこにはあった。
「坂木くんは魔術師だったのか!?」
「なわけあるかっ」
突っ込まれてしまった。
さっきあれほど真面目にかかろうと思っていたのに、でもなんの前ぶりもなく変な動作で本を現したらそれはだれでもビックリ仰天だ。
魔術師と勘違いしても仕方がないことだ。
「お前はニブチンなのか、それともわざと気づかないフリをしているのか、どっちなんだ?」
「……なんのことだ?」
点で坂木の言いたい事が分からない。
「右斜め上に小さな丸い点があるだろう……」
「あっ」
小さく呆けた声を漏らすと、坂木に呆れた表情をされた。
直径1センチほどで青い二重の輪を描かれた小さい点。
確かにそこにあり、ピコピコと光ったり消えたりしている。
「何で気づかなかったんだろう……」
「こっちが聞きたいぜ、まぁ押してみろよ」
そう言われてゴクリと喉を鳴らす。
恐る恐る人指し指で点に接近した。
触った瞬間、
「うあっ!?」
「いちいち驚くなよ、事前に知ってただろう」
愚痴られたが軽く受け流す。
カウンターの机には坂木のも含め、もう1冊の本があり、それは紛れもなく俺が出した物だった。
だけど。
「こんな摩訶不思議な事が起きていいのか……?」
「最初のリアクションはそうなるよな、分かるぜ」
「俺は、坂木くんが何でこんな得体の知らないスイッチを押そうとしたのか分からない、もし爆弾類だったらどうするんだよ」
「俺もそう思ったんだけど、思う前にもう押してた、終わったことは気にしない」
「……坂木くんは自分の命に軽くないか?」
「機能性だ」
「機能性じゃねぇよ! もっと自分の命を大切にしやがれコノヤロー! お袋が泣くぞ、いいのか!」
そんな会話がしばらく続いた。
なんだろう、自分でもよくわからないが胸がスゥーと軽くなっている気がする。
10キロぐらいの重りを着けながらフルマラソンを走っていて、急に重りを外したようなこの軽々さが今の俺だった。
ただ会話がとても楽しく思えてきて堪らない。
こんな気持ち、久しぶりに感じていた。
いつ以来だったか。
それは多分、奏が病に陥らず正常な状態の時の話に戻ると思う。
二人でデートして私服を選んであげたり、一緒にクレープを食べたり。
そんな思い出が俺の脳に仕舞い込まれている。
この坂木との状況とは少しそれに似ていた。
と言っても別にそういうホモ趣味をしている訳じゃなく、ただなんだろう。
暖かく居心地がいい。
その想いがあの頃と同じに思えてくる。
「どうしたんだ? ニヤけついて気持ち悪い顔になってるぜ健太」
「ああ、気にしないでくれ坂木くん。そんなことより本は分厚いんだな。いったいなにが書かれているんだ?」
聞いても坂木は黙りだった。
表情から見るとどこか不機嫌に見える。
「どうしたんだよ、坂木くん?」
「その君付けはいい加減止めにしようぜ健太。なんだか距離を感じてあまりいい気持ちじゃない」
とのことだった。
ほんと嬉しいこと言ってくれる。
「そうだな、ああ、その通りだ坂木」
「なんで嬉しそうなんだよ……まぁ、いいや、そんなことより本の内容だよな、一度見る前に覚悟を決めなくちゃならないぜ健太、俺が昨日一昨日のこの2日
はまるっきり動けずにいたからな、正直今も精神的にかなりきてる」
「……そんなに内容悪いのか?」
「おおまかに説明してやるよ」
「あぁ頼む」
そういうと坂木は了解と言い、本の内容を大まかに語りだした。