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科学少年と文学少女  作者: 黒江 莉茉
罪人
3/7

罪人Ⅰ

 二年四組の三時間目、席替えが行われた。

 二年四組の担任教師、小林明美は学級委員長である月乃にどう席替えをするか提案した。

「どうしましょうか?」

 書記の日村佳菜子は黒板から見た座席を綺麗に書き終え、ふうと一息つく。彼女は背が低く、黒板に何かを書くときはいつも背伸びをしている。身長は自称150cmだが、この前150cmのクラスメイトの女子と比べたら、その子より小さい事が分かった。おそらく145cmだろう。

 書道部なだけあり、彼女は字がとても綺麗だ。

「じゃあ、何で決めたいですか?」

 月乃が言う。すると、一人の男子生徒が手を挙げた。その男子生徒は、高橋迅だった。

「迅君、どうぞ」

 しまったと思った。つい癖で彼の事は名前で呼んでしまう。

「あみだくじって、どう?」

 迅君がそう提案すると、佳菜子ちゃんがそれを書く。

「普通のくじ引きじゃつまんなじゃん?なら、あみだってどうかなって思ってさ」

 迅が笑顔で言う。それに周りの男子が同意するように声をかける。

「じゃあ、決定でいいですか?」

 そう言うと、皆が頷いたり、いいよと優しく声をかけてくれる。

「では、くじを作るので少し待ってください」

 私は先生の机の上から二番目の引き出しから少し大きめの紙を出した。

「佳菜子ちゃん、この紙にあみだを書こう。私も手伝うよ」

「ありがと、ツッキー」

 ツッキーとは私のあだ名。小学生高学年。正確に言えば、小学五年生の時、担任の先生にツッキーと呼ばれていた。私はそのクラスでも学級委員長を務めていたわけで。よくツッキーと大声で言われていた。それが定着し、今に至るわけだ、

 恐らく、私の事をツッキーと呼ぶ人は学年の四人に一人はいるであろう事を保証する。

「できたー」

 佳菜子ちゃんがのんびりと声をあげる。白い紙の上には四十人分の線が書かれている。できはまずまずだ。

「じゃあ、席の四隅の人はじゃんけんして」

 副学級委員長の宮下陽介が言う。彼はクラスのムードメーカ的存在だ。いつも明るく、ギャグセンスのある宮下君は女子までも笑わせる事ができる。私も彼と学級委員長になってから、何度も笑わせられた。

 そして、じゃんけんが終わり、右側の一番後ろの席の人からあみだを選ぶ事になった。

 私の引く順番がまわってくる。私は適当な所に自分の名簿番号を記入した。席はどこでもいいし、隣は誰でもいい。私は割と適当な人間なのかもしれない。

 皆が番号を書き終えた。あみだを見れるのは三役だけだ。佳菜子ちゃんが黒板にさらさらとクラスメイトがどこの席に着くのかを書く。佳菜子ちゃんは字が汚い、と呟いたが私には理解できなかった。

 席を動かしに三役も動く。私は窓側から縦二列目の一番後ろの席だ。一番後ろの席は小学校以来だ。

 すると、隣の人がやってくる。その隣の人は、朝に出会った彼だった。

「北岡君?」

 聞こえないように言う。すると、北岡君と目があった。無表情でこちらを見つめてくる北岡君。私は初めて北岡君に声をかけた。

「北岡君、隣の席だね」

「ああ、またそうだね」

 また?それはどういう意味?北岡君と私が同じ席の時って、あったっけ?そう考えていると、佳菜子ちゃんに声をかけられた。

「ツッキー、掃除分担とクラスの役割決めするよ!」

「あ、うん!」

 席を立ち上がると、ガタリと椅子が揺れる。私は再び人の前に立った。



その後、掃除分担を決め、クラスの役割を決めた。掃除分担は私達の班は理科室。クラスの役割は学級委員長と私はもう決まっているので、これは決める必要がなく、私達三役は黒板や名簿に書き込むだけなので案外楽だった。

 掃除分担は、確か迅君と一緒だったっけ?あとは瑞穂ちゃんとかのグループだっけ。夏休みが開けて、三学期になるまではこのグループで清掃分担をする。何曜日に誰が何をするかも決めないと。

「理科室の掃除の人、ちょっと集まってくれないかな?」

 私は理科室の掃除の人に集まるように頼んだ。残りの時間は自由時間だから、この時間を使って決めよう。

「理科室の掃除の役割を決めたいんだけど、いい?」

「いいよ、今決めた方が後々楽だしな」

 迅君が言う。その後に続いて瑞穂ちゃんが頷いた。

「じゃあ、決めようか。月曜日は何がやりたい?」

 私が振ると、瑞穂ちゃんが先に答えてくれた。

「そうだね、私は――――」

 後に続いて皆の意見が出る。それをメモ帳に書き、プリント用紙に曜日と、誰が何をするかをマジックペンで書いた。そこで気が付いた。ごみ捨てを誰がやるか決めていなかった。時間はあとわずか。黙って私はごみ捨て係の項目を書き、自分の名前をそこに書いた。

「理科室のゴミ箱って四つだろ?俺も手伝うよ」

 迅君が私の手にあるマジックペンを取り、そこに自分の名前を書き込む。

「ありがとう、迅君」

「いいって」

 誰にでも優しい迅君は人気がある。バスケットは上手だし、成績もいい。彼はなんでもこなせる。

 それに比べて、私はつくづく凡人だ。こうして学級委員長をやれているのはこのクラスの皆のお陰であり、このクラスが荒れていたらきっと私はクラスメイトをまとめられずにおどおどしていたかもしれない。

 授業終了のチャイムが響く。紙に分担は書けたし、もうやる事はない。次の授業の準備を始めた。


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