第三話~始動~
第三話〜始動〜
僕は悪魔の討伐をすると言ったものの正直、悪魔に対してどう戦えばいいのか分からない。適当に戦うだけではきっと勝てないはず。ヘファイストスは戦い方を教えてくれるだろうか。
僕は夕食を作っている時そんなことばかり考えていた。今日の夕食はカツ丼だ。美味しい上に作るのは簡単という素晴らしい料理だ。
「じゃ、いただきます。」
一口目からガッツリ食べた。
「今日はなかなか美味しくできたな。」
誰も食べてくれる人がいないので自画自賛した。僕はそれから黙々とカツ丼を食べた。食べ終わると食器を片付けて一服するためにソファーに向かった。
(・・・界)
ソファーに座ろうとした時ヘファイストスが僕を呼んだ。
「何?」
(早速お出ましのようだぞ。)
「・・・悪魔か。」
(ああ。)
意外と早く来たことに僕は驚いた。悪魔というのは結構いるのだろいか。
「場所は?まさか住宅地内じゃないだろうな?」
(・・・いや、貴様の学校だ。)
「学校!?」
自分に関係のある場所に驚きを隠せなかった。
(この時間は先生とかいるんじゃないか?)
今の時刻8:05
「多分、新学期の始めで仕事も少ないはずだからいないと思う。」
(よし、では、さっさと行くぞ。)
学校に辿り着くのには5分くらいだった。案の定、先生方も帰った後らしい。
「はあ、はあ、悪魔はどこにいるんだ?」
(恐らく校内だ。)
僕はそれだけ聞くと校内を目指して走りだした。
「夜の校内は暗くて見にくいな。」
夜の校内は月明かりがあっても暗く、今走っている廊下は月明かりのせいで妙に気味が悪い。
(・・・きた。)
ヘファイストスの声と同時に正面の曲がり角から黒い犬のような生き物が現れた。
「あれ、悪魔なのか?」
その生き物は赤い目で僕を見据えていた。
(あれはケルベロスの子どもだ。どうして、こんなところに・・・)
「? じゃあ、あれ倒さないといけないのか。」
ケルベロスの子どもは遠吠えをしてから僕に突進してきた。
「ヘファイストス!」
(分かっている。)
ヘファイストスの言葉に続くように僕の手の中に剣が現れた。
「はああああ!!」
僕は迷わず突進して飛びついてきた悪魔に剣を振りかざし、タイミングを見計らって振り下ろす。
剣は悪魔を真っ二つに引き裂いき、悪魔はすぐに蒸発するように消滅した。
「意外と呆気ないものなんだね。」
僕はもっと激しく苦しい戦いを想像していた。
(界!後ろだ!)
「えっ?」
後ろを振り返った時には既に遅く、僕の腹部に悪魔が突撃した。
「ぐっ!!」
あまりの衝撃に僕は後ろに飛ばされ、少しの間呼吸が出来なかった。
(しっかりしろ。油断するな。)
前を見ると同じ悪魔が四匹いた。どうやら、さっきの遠吠えは仲間を呼ぶためのものだったらしい。
「まだいたのか・・・」
(仕方ない。少し荒技を使うか。)
今度は四匹同時に突進してきた。
(界!剣を振りかざせ!)
僕は言われた通りに剣を振りかざした。そして剣の刃には炎が纏っていた。
(今だ!振り下ろせ!)
悪魔が飛びついてきたタイミングでヘファイストスが言った。
「うおおおお!!」
僕は力の限り振り下ろした。
剣を纏っていた炎は振り下ろした時に巨大化し、悪魔を一掃した。
「・・・すごい。」
(今のは豪爆炎といって、神術の一つだ。剣に纏っている炎の瞬時に巨大化させることができる。)
ヘファイストスは落ち着いた声で言った。
「でも、これヤバくないか?」
肥大化した炎は廊下ごと燃やしていて、廊下は全焼し焦げくさくなっていた。
(やり過ぎたかもしれんな。)
「早くここから逃げよう。誰かに見られたら大変だよ。」
警察に通報なんかされたら、僕の人生は終わりである。
(・・・ああ、そうだな。)
僕はヘファイストスの曖昧な返事に違和感を感じたが、気にせずその場を去った。
家に着いた時は10:00頃だった。僕はすぐに風呂場に向かった。
「あ〜動いた後の風呂は気持ちいな。」
日頃運動をしない僕はあまりこういうことを感じることは滅多にない。
(おい、貴様に聞きたいことがあるんだが。)
「こんな時になんだよ。」
(貴様、あれ程やる気なかったくせに今日はノリノリだったじゃないか。)
悪魔討伐の話かと思っていたが、全く違った。
「それは・・自分でもよく分からないけど、悪魔は倒さないといけないって思うんだ。だから身体が動いてしまうんだよ。」
(そうか。)
ヘファイストスはそれだけ言うと黙っていた。
僕は風呂から上がり、歯磨きなどをした。
それを終えてからテレビを見ようとしたが、明日のためにも今日は寝て疲れた身体を休めることにした。
「あーよく寝た。」
翌日、いつもより早く寝たせいか通常の一時間も前の6:00に起きた。
「暇だしテレビでも見るか。」
朝のテレビはニュースが多かった。
仕方ないのでニュースを見ることにした。
ー今朝方、東京都新木市内の高校から焦げくさい臭いがすると住民から通報がありました。警察の調べによると、学校の二階の廊下が全焼しているのみで、警察は調査を急いでいますが今は原因不明とのことです。ー
「・・・・・」
どうやらもうバレてしまったようだ。
(やっとか。)
「捜査とかで学校はしばらく休みかな?」
その後連絡網が回ってきた。ニュースで出てきた事件の話だった。案の定、学校は休みになった。学校が始まる日時は未定らしい。
(学校も休みになったし、悪魔討伐に専念できるな。)
「はあ、やっぱりそうなるか。」
ヘファイストスが何を言うかはだいたい予想できた。
(だが、今回は待つのではなく探す。)
「なんで?」
(恐らくこの周辺には本来現界してはならない悪魔が現界している。)
「・・・・・」
僕はそれがどれだけ大変なことか察した。
(地獄の番犬ケルベロス。こいつだ。)
「じゃあ、昨日のやつはそのケルベロスの・・・」
(ああ、そうだ。だからケルベロス本体もこの周辺にいる可能性が高い。)
「・・・これからケルベロスを探すのか。」
(一刻も早くな。)
ヘファイストスがこれほど言うのだから、今まで戦った悪魔とは比べものにならないくらい強いのだろう。僕は不安だった。
「どうやって探す?」
(とりあえず、この周辺を散策する。私たちにやつが近づいたら指示を出そう。)
「じゃあ、外に出よう。」
外に出たのはいいものの、目的地がないとどこに行けばいいか迷ってしまう。
(ねえ、ほんとにこれでいいの?)
(あ、ああ。今はこれが最善だ。)
ヘファイストスの言葉はどこか頼りなかった。
(悪魔の活動は日没後だ。日の出ている間は現れない。)
(え・・・。っていうことは今は探しても意味ないんじゃ・・・)
ヘファイストスが何を考えているのかよく分からなかった。
(いや、やつが現れた形跡があるか探す必要がある。)
(へぇーそうなのか。)
とりあえず僕は町外れの裏山に向かった。なんとなく僕のイメージでは裏山とかにいそうな気がした。
(こことかどうかな?)
(まずここらから探すか。)
ヘファイストスは反対すると思っていたので僕は驚いた。
「ねえ、もしかして、君たち
ケルベロスさがしてる?」
「!?」
(!?)
正面の木の太い枝の上に若い男が立っていた。
だが、僕たちが驚いたのはその少年が言った言葉だ。
「・・・あなたは一体・・」
「おっと失礼。僕はアキト。君と同じ神の器さ。」
男は自己紹介をすると木の上から飛び降りた。
「神の器!?」
「そんなに驚くことはないだろう?神が一人とは限らないさ。」
「確かにヘファイストスもそんなことは言ってなかったけど・・・」
「君の相棒はヘファイストスなんだね。」
僕の独り言にアキトという男は反応した。
「ここで会ったのも何かの縁だし、協力してケルベロスを倒さないかい?」
はたしてここで会ったのは偶然だったのだろうか。
(今はこいつの誘いに乗るのも悪くない。)
(お前が言うなら・・・)
「分かりました。でもどこにいるのか分からなければ倒しようがないんじゃ・・・」
「大丈夫。今夜、新木市の中央公園に必ず現れるから。じゃ、今夜9時に中央公園入り口で待ってるよ。」
そう言ってアキトという男は山の奥に消え去った。
(・・・あいつ、ただものじゃないな。)
やはりヘファイストスもそう思っていたみたいだ。
(僕もそう思う。)
僕の頭の中はケルベロスよりアキトという男のことでいっぱいだった。