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石の記憶 番外編 私だけの庭


石の記憶 番外編

私だけの庭

蝉の声が窓の外から聞こえてくる。

夏休みまであと少し。

高校三年生の砂川晶は、机に積まれた参考書を見つめ、小さくため息をついた。

「今日はここまでにしようかな。」

勉強が嫌いなわけではない。

でも、この夏から本格的に始まる受験を思うと、胸の奥が少しだけ重くなる。

気分転換にタブレットを手に取った。

動画を見るでもなく、SNSを見るでもない。

いつものようにアクセサリーや天然石のECサイトを眺める。

「きれい……。」

画面にはガーデンクォーツのペンダントが並んでいた。

丸いもの。

しずく型。

四角いもの。

どれも同じガーデンクォーツなのに、中の景色は一つひとつ違う。

まるで、小さな世界を閉じ込めたようだった。

晶は指を滑らせながら、一つずつ眺めていく。

「……。」

その時だった。

指が止まる。

木の葉のような形をしたマーキスカット。

中には灰色や白色の内包物が静かに広がっている。

山にも見える。

森にも見える。

霧が流れる庭にも見える。

「……この子。」

思わず小さくつぶやいた。

理由は分からない。

でも、なぜか目が離せなかった。

値段を見る。

「……買える。」

高校に入ってから使わずに残していたお年玉。

少し迷ったあと、晶は購入ボタンを押した。

数日後、小さな箱が届く。

そっと開けると、ペンダントが光を受けて静かに輝いた。

「チェーンも付いてるんだ。」

少し嬉しくなる。

鏡の前で胸元に合わせてみる。

派手ではない。

でも、不思議としっくりきた。

机へ戻り、ペンダントを手のひらに乗せる。

石の中を覗き込む。

同じ景色なのに、その日の気分で違って見える。

今日は静かな森。

明日は雨上がりの庭かもしれない。

世界に一つしかない景色。

この石だけが持つ、小さな庭。

晶はふっと笑った。

「私だけの庭だ。」

肩の力が少し抜ける。

石が受験を代わりに頑張ってくれるわけじゃない。

未来を約束してくれるわけでもない。

でも、この小さな庭を眺めていると、不思議と心が落ち着いた。

晶はペンダントを胸元へ下げ、参考書を開く。

もう一度だけ石を見つめる。

「よし。」

「頑張るか。」

窓の外では、夏の青空がどこまでも広がっていた。

― おわり ―


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