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第7話 『風魔法の極意』

 アイリアナは、彼女ほどの格の神性からすれば、想像もできないほど屈辱的な姿勢をとっていた。


 聖域の滑らかな石の上に横たわり、片足を上げ、俺から視線を逸らしている。その裸身は、期待と羞恥心でかすかに震えていた。


「し、信じられない……本当に私にこんなことをさせるなんて、クイチくん……」


 彼女は顔を真っ赤に染めて、消え入りそうな声で呟いた。


「契約を持ち出したのはお前の方だろ」


 俺は低く構え、両の掌にマナを集中させながら答えた。


 ぷぅ〜〜〜♡!


 湿り気を帯びたオンセンの空気の中に、長く尾を引く放屁の音が響き渡った。


 時間は無駄にしない。俺は即座に両腕を突き出し、新しく手に入れた流暢なマナの循環を用いて、拡散する前の風を遮断した。


 指先で素早く円を描き、ガスのエッセンスを捕らえて、茶色く輝く半透明の球体へと圧縮していく。


 それは濃縮された風のオーブ。一瞬の油断で暴発しかねない、精密な流体操作を要する技術だ。


「くらえ!」


 叫びとともに、聖域の端に設置した石の標的に向かってオーブを放つ。


 ドォォォン!


 乾いた重い衝撃音が響いた。圧縮された空気の圧力によって石に亀裂が走り、修行場には特有の刺激臭が立ち込めた。


 その結果を目にしたアイリアナは、気恥ずかしさを抱えながらも、どこか競争心に火がついたようなトランス状態に入った。


 ぷぷ、ぷ……ぷぅ〜〜〜〜〜♡!


 より速く、より力強く放たれる連発の風。その推進力は、俺に俊敏な回避と対応を強いるほどだった。


「速いな……」


 神聖な熱を帯びた風が耳元を掠めるのをかわし、その勢いを利用して連続する二つの風を捕縛する。


 俺の両手はつむじ風のように動き、次々とオーブを生成し、バカ神の「本質」を高圧の弾丸へと変換していった。


 突然、アイリアナが動きを止め、床に座り込んで両手で顔を覆った。肩で激しく息を切らしている。


「ち、ちょっと待って……お願い……」


 その声は小さく、赤面による火照りで今にも窒息しそうだった。


「……ああ、分かった」


 俺はマナの供給を止め、純粋な好奇心を持って彼女を見つめた。


「でも、なんでそんなに赤いんだ? いつも自分から放しておいて今更だろ」


 彼女はすぐさま、怒りと羞恥が入り混じった叫び声を上げ、エルフの耳を震わせた。


「だ、誰かにそんな風に正面から頼まれるのは全然違うのよ! 何を考えてるの、あなた本当に十歳なわけ!?」


「まあ……肉体的には、そうだな」


 俺は頬を掻きながら、至極正直に答えた。


「う、ううっ! この体なのは分かってるわよ!」


 彼女は不満げに、だが愛らしく唇を尖らせた。


「恥ずかしいって言ってるの! もしかして……あなた、私のこれが好きなの!?」


「……まあ、その」


 俺は口ごもり、頬に広がる熱を隠せぬまま、女神の追及するような視線を避けて天井を仰いだ。


 一滴の雫が水面に落ちる音だけが、重苦しく気まずい沈黙の中に響いた。


 アイリアナは目を見開き、自分の出した突飛な仮説が、あながち間違いではないことを悟ったようだった。


「……もういいわ! 今の話はなし!」


 彼女はこれまでの会話をこの世から消し去るかのように、空中で手を激しく振った。


 妙に従順な態度で髪を整え、辛うじて残っていた威厳を取り戻そうとしている。


「ところで……どうして、こんな修行法を……?」


 彼女は少し気後れした様子で、自分の後ろ側に手をやりながら尋ねた。


 俺の表情から、先ほどまでの軽やかさが消えた。無限の回廊での最後の戦いを思い出したからだ。


「この前外に出た時、妙なゴブリンに会ったんだ。風魔法を使うやつらに」


 アイリアナは真剣な表情で耳を傾けた。その緑色の瞳から遊び心が消え、俺の物語に焦点が合う。


「強力な風の突風で攻撃してきた。速くて鋭い。低レベルのモンスターが持つべきじゃない圧力だった」


 俺は溜息をつき、あの小さくも致命的なクリーチャーたちに苦戦を強いられた感覚を反芻した。


「ただのゴブリンが魔法を使うなんておかしい。これまでの三つの異世界でも見たことがない。ゴブリンなんて、ただの肉壁のはずだ」


 拳を握りしめ、あの時感じた無力感を噛み締める。


「五体いた奴らをなんとか倒しはしたが、惨めだったよ。俺の経験なら、あんな連中、造作もなく片付けられるはずなのに」


 聖域の光の先、闇へと続く通路を見つめ、予感に背筋を震わせた。


「でも、同時に面白いとも思った。この無限の地獄には、無限の可能性がある。雑魚があれだけのことをしてくるなら、俺はもっと良くならなきゃいけない。もっと強く……ああ、なんだか使い古されたセリフだな。はは……」


 アイリアナは黙って俺を見つめていた。彼女の頭の中で、俺のパーソナリティの断片が新しい形に組み合わさっていく。


(信じられない……こんな辺獄にいて、三度も死んで、こんな品のない場所に閉じ込められているのに。クイチくんは、まだ英雄でいようとしてる)


 ダンジョンの魔法の変化を見抜く洞察力と、弱さに甘んじない不屈の意志。彼女はその姿に心を打たれた。


 アイリアナの胸に、酒の熱さとは違う、自分の小さな戦士に対する純粋な称賛の念が湧き上がった。


 彼女は慈愛に満ちた、滅多に見せることのない穏やかな微笑みを浮かべた。


「……ん? 何だよ、顔に何かついてるか?」


 急な彼女の態度の変化に、俺は戸惑って尋ねた。


 アイリアナは言葉では答えなかった。彼女は身を乗り出し、神聖なまでの優しさで、俺の額に温かいキスを落とした。


「なんでもないわ。クイチくんは、本当に面白い人ね」


 それは守護を約束するかのような、柔らかな囁きだった。


「あ……」


 予想外の仕草に、俺は心臓の鼓動を早め、彼女の触れた場所に残る奇妙な温もりを反芻しながら硬直した。


 だが、俺が反応する間もなく、アイリアナは再び元の位置に戻り、不敵な笑みを浮かべて足を上げた。


「さあ、続けるわよ! 実は、ずっと前に食べた別世界のピザのせいで、まだガスが溜まってるんだから。覚悟しなさい!」


 彼女が自分の腹を叩くと、はっきりと腸が鳴る音が聞こえた。


 俺はキスの混乱を振り払い、すぐさま掌にマナを集中させて構えた。


「……ああ、分かった」


 次なる神聖な一撃を待ち構えながら、俺は標的に意識を研ぎ澄ませた。


 ぷぷ、ぷ……ぷぅ〜〜〜〜〜♡!


 ぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜♡!


 聖域に響き渡る、強烈で、品がなく、それでいて力強い放屁の音。


 光の聖域の中心で、どうしようもない女神の眼差しを受けながら、レベル10を征服するための俺の修行は、さらなる熱を帯びていった。

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