第4話 『境界の向こう側からの贈り物』
オンセンの静寂を破るのは、絶え間なく滴る水の音と、酒を煽るたびに漏れるアイリアナの満足げな溜息だけだった。
俺はただそこでお湯に浮き、戦闘の疲れが熱い水面の下でゆっくりと溶け出していくのを感じていた。
急ぐ必要はない。時間が流れない場所において、「時間を無駄にする」という概念はもはや存在しないのだから。
何時間話し続けていたのかは分からないが、俺たちはそうしていたし、これからもそうするのだろう。
「ねえ、クイチくん……。別の世界で食べた料理が恋しくなることってない?」
アイリアナが、珍しく穏やかな声で静寂を破った。
「時々はある。二度目の人生の王都で食べた煮込み料理は悪くなかった」
俺は目を閉じ、羊のローストの味を思い浮かべながら答えた。
「バカねぇ。私が言ってるのは、あなたの最初の世界の甘いもののことよ。あのクリームたっぷりのカラフルなケーキとか」
俺は彼女を横目で見た。アイリアナは、深刻な話題から砂糖に関する些細な話へと一瞬で飛び移る才能がある。
「良かったとは思う。たぶん」
「残念ねぇ。神様なら英雄が見たものをすべて味わえるはずなのに、ここではメニューが限られてるんだもの」
「メニューが限られてるのは、お前が栄養のあるものの代わりに、エネルギーを全部酒樽を呼ぶのに使ってるからだろ」
実際その通りだった。彼女は何でも具現化できる。
皮肉なことに、彼女が召喚するのは酒や多種多様なアルコールばかりだ。
普通の食べ物や飲み物を出すのが珍しいわけではないのだが、彼女はいつも、数え切れないほどの酒の備蓄にそのエネルギーを費やすことを選ぶ。
だが騙されてはいけない。こいつはバカ神だ。エネルギーは無限にあるくせに、嘘をつくのが好きなだけなのだ。
彼女は水面を揺らすほどの高笑いを上げ、悪戯っぽく指先で俺の額に水を飛ばした。
「お酒は精神の栄養なのよ、無知な坊や。それに、私が出す気泡は消化が良い証拠なんだから」
ぷぅ〜〜〜〜〜♡!
言葉を裏付けるように、黄金色の気泡が立て続けに湧き上がり、お湯に沈んだ彼女の腰回りを包み込んだ。
「ほら、嗅いでみて。レベルアップに効くって保証するわ」
「黙れ」
それから何時間とも思える間、俺たちは話し続けた。回廊の怪物の話から、空の色に関する議論まで。
それは英雄らしからぬ、雨の午後に口うるさい親戚と交わすような、ありふれた雑談だった。
だが、酔いどれで怠惰なエルフという表向きの姿の裏で、アイリアナはやはり神なのだ。
素人目には、ただ聖なる水をその品のない習慣で汚している美女にしか見えないだろう。
しかし、彼女の力が無限であるのは、銀河を破壊できるからではない。ただそこに存在するだけで、一つの現実を維持できるからだ。
彼女は異なる世界の物体を実体化させることができる。俺が生まれた世界、並行世界、あるいはもはや存在しない世界。
それは「記憶のヴェール」を介して、かつて存在したあらゆるものの断片を手繰り寄せる力だ。
オンセンを玉座とし、安酒の瓶を冠に選んだ女神による、受動的な全能。
「そういえば……。今日は特にヴェールが薄かったのよ」
彼女は伸びをしながら、怠そうに声を漏らした。
「あなたにプレゼントがあるわ」
彼女は岩の縁に身を乗り出した。その際、尻や……まあ、そのあたりが露わになった。
俺は顔を赤くして視線を逸らした。本当にこのバカ神には羞恥心というものがない。
やがて彼女は、薄い紙に包まれた長方形の物体を取り出した。
「受け取って。あなたが大好きだったあのシリーズじゃないかしら」
俺は好奇心に駆られて彼女の方へ泳いでいった。それを受け取ると、数百年ぶりに感じるサテン紙の感触があった。
包みを破ると、最強のラスボスですら引き起こせなかったほどの衝撃が心臓を貫いた。
それは漫画の単行本だった。全部で7冊。だが、ただの漫画ではない。
『スパークル・デスティニー! キュアキュア・パワー!』
手が震えた。湯気のせいか、見開いた目が熱い。
それは俺が元の世界で生きていた頃に愛していたアニメの続編だった。
最初の人生では、オリジナルシリーズが終了し、公式な続編が発表される前に俺は死んだのだ。
「これ……本物か? 続編が出てたのか!?」
三度の戦場を潜り抜けたベテランの厳格さは、どこかへ消え去っていた。
表紙を見ると、主人公たちは新しく、より輝かしい衣装を纏っており、隅には輝く赤い帯があった。
『アニメ化決定!』の文字が金色に躍っている。
「ア、アニメ化決定……! アニメになるのか!」
神の前で全裸であることも忘れ、俺は子供のように叫んだ。
「あ義、そんな風になっちゃって可愛いわねぇ、うふふ〜♡」
俺は石の床の冷たさも構わずオンセンから飛び出し、線香の光のそばに膝をついて食い入るように見つめた。
大人の精神は完全にシャットダウンしていた。この瞬間、俺は英雄ダミアンではなく、『スパークル・デスティニー』を愛するオタクの少年だった。
宗教的な献身さでページをめくり、一コマ一コマ、すべての台詞を貪り食う。死んだと思っていた生命の火花が、再び灯るのを感じた。
アイリアナはお湯の縁に顎を乗せ、後ろから俺を眺めていた。その表情は、これまで見たことのないものだった。
いつもの嘲笑も、だらしない色気もなく、ただ穏やかで、どこか慈愛に満ちた眼差し。
十歳の苦りきった戦士が、一冊の本を前に少女のように興奮している姿に、彼女は純粋で無垢な愛おしさを感じていた。
生存や力とは無関係な、純粋な笑顔を俺が見せたのは、これが初めてだった。
魔法少女たちの冒険に完全に没頭し、床で読み耽る俺を、彼女は静かに見守っていた。
「本当に変わり者ね、クイチくん」
彼女は優しい微笑みを浮かべて呟いた。
アイリアナが全宇宙で最も品のない女神だとしても、心から感謝したくなる瞬間が、確かにあるのだ。




