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第2話 『聖なる温泉』

「クイチくん、そんなところで突っ立って女神の尻を眺めてないでちょうだい。みっともないわよ」


 石の縁を叩く徳利の音と共に、アイリアナの声が聖域の静寂を破った。


「聖なる燃料が切れちゃったわ。入り口の横の祭壇にあるから、持ってきて」


 俺は溜息をついた。体内にはまだシャドウ・ドッグとの戦闘で出たアドレナリンの残滓が漂っている。


 足は慣性に従い、安全圏の境界を示す小さな石の祭壇へと向かった。


「そこからたった十メートルの距離だろ。自分で出て取りに行けばいいじゃないか、このバカ神」


 言い返してはみたが、十歳の体が持ち合わせていないエネルギーを、口論で浪費するのは無意味だとわかっていた。


「なんて残酷なのかしら! 裸の淑女を冷たい床の上で歩かせるつもり?」


 博識の神には似つかわしくない勢いで、腹をぐうと鳴らしながら言った。


 ぷぷ、ぷぅ〜〜〜♡!


「んん〜、やっぱり騎士道精神のある男の子は素敵ねぇ……ひっく♡」


 長く響くその音は、透明な水の中に黄金色の気泡を幾重にも残し、ゆっくりと消えていった。


 俺は何も言わず、木樽から一本取り出した。彼女が神聖なエッセンスか何かのように飲み干す、安物の酒だ。


 ボトルを差し出すと、怠そうな笑みを浮かべて受け取り、デリカシーの欠片もなくラッパ飲みし始めた。


「ぷはぁ……生き返るわ。さあ、クイチくん、その汚いボロ布を脱ぎなさい。焦げた犬の臭いがするわよ。早く入りなさい」


 目の前で赤く点滅し続けるシステムインターフェースを眺め、一瞬躊躇した。


【ステータス:疲労 - 78%】

【警告:聖なる温泉内ではスタミナ回復速度が50%上昇します】


 リネンのチュニックと短パンを脱ぎ捨てた。この脆い体でいることが、どうしようもなく滑稽に思える。


 数メートル先に浮かぶエルフの背中の曲線を無視しようと努めながら、反対側の端からお湯に浸かった。


「……もう少し、水の使い方に気を使ったらどうだ。ここは聖域なんだろ?」


 腕のすぐ近くでまた一つ気泡が弾けるのを見て、俺はぼやいた。


 ゆっくりと振り返り、岩に背を預けた姿。豊かな果実が湯気の下でわずかに揺れている。


 酒で濡れた唇を舌でなぞりながら、怠惰な悪戯心を宿した瞳で片眉を上げて俺を見た。


「そんなに固くならないで、クイチくん……まさか、感じないの?」


 俺の方へわずかに身を乗り出し、絹のような声で言った。


「何を感じるって?」


 水中にある腰のラインではなく、彼女の瞳に視線を固定しようと必死になりながら問い返す。


「治癒効果に決まってるじゃない」


 いたずらっぽく笑い、水面をなぞるように手を動かした。


「私の神聖なガスは、あなたの小さくて疲れ果てた筋肉の再生を早めるのよ。とても複雑な錬金術的プロセスなんだから」


 俺は沈黙した。


「嘘つき」


「そんなに冷たくしないでよ!」


 彼女は可愛らしく唇を尖らせて締めくくった。


 温泉そのものの魔力で回復しているのは百も承知だが、本人はそれを、自分を律しないための言い訳に使っているだけだ。


 情けない話だ。この聖域で最も強力な避難所は、自分の放屁を高級なセラピーのように売りつけようとする女神に私物化されている。


 ぷぷぷ……ぷぅ〜♡


 またしても彼女の近くから気泡が湧き上がり、あの特徴的な音が空間を満たして緊張感を台無しにした。


 目を閉じ、厚顔無恥な振る舞いを無視しようと努める。だが、不本意なことに、レベル10の疲労感はあのみっともない「出汁」の中で確実に溶け始めていた。


 世界で最も賢い女と二人きり。そして、彼女の最大の知恵とは、羞恥心を微塵も持たずに生きる方法であるらしかった。

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