第17話 『死に絶えた時』
世界が無限の回廊でも、血塗られた戦いの連続でも、数字とレベルのゲームでもなかった時代があった。
太陽が単なる理論上の概念ではなく、散らかった小さな部屋のカーテンを濡らす本物の温もりだった時代があった。
『クイチ』
その名には、爵位の重みも「ベテラン英雄」としての責任も伴っていなかった。
四歳の頃、彼の宇宙はキッチンから庭までの距離がすべてだった。
最大の悩みは、隣の家の犬に噛まれないかとか、マッシュポテトの下にグリーンピースを隠しているのを母親に見つからないかといったことだった。
それは小さな断片で構成された人生だった。
父親が新聞を読んでいる背後で流れるテレビの音。
明日を恐れることなく、毎晩深く沈み込む洗い立てのシーツに染み付いた柔軟剤の匂い。
彼らが家にいる限り、悪いことなんて絶対に起こらないという絶対的な安心感。
五歳の時、クイチは世界が厳しい場所になり得ることを知った。
「あ、あああ……っ! い、痛い……!」
歩道でのつまずき、アスファルトのざらついた感触、そして膝に突如として滲んだ赤い血。
痛みは鋭く、突き刺すようで、わずか数年の人生しか歩んでいない彼には恐ろしい未知の体験だった。
だがその時、駆け寄る足音が恐怖をかき消した。
母親がやってきて、汚れも気にせず地面に膝をつき、天上の如き優しさで傷口にふうっと息を吹きかけてくれる。
彼女は傷に絆創膏を貼り、その上にキスを落とした。
「もう大丈夫……痛いの痛いの飛んでいけ、私の勇敢な男の子」
雲を散らすような笑顔で、彼女はそう言った。
その瞬間、クイチはダミアン・ティーボルトが数多の人生をかけて理解することになる一つの真実を学んだ。
いかなる高位の光魔法も、神聖な治癒呪文も、その仕草が持つ癒しの力には決して及ばないのだ。
痛みが消えるのは傷が塞がったからではない。彼女の愛の前では、恐怖がちっぽけなものに感じられたからだ。
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六歳の時、クイチの宇宙は革の球体という形で広がった。
ある日曜の午後、父親がいたずらっぽく目を輝かせ、背中に何かを隠して帰宅した。
「目を閉じてろ、チャンピオン」
息子にそう頼む。
クイチが目を開けると、そこには彼にとって最初のサッカーボールがあった。
「うわあああぁ!」
革は新品の、工房のような、無限に続く午後の約束のような匂いがした。
その日の空気は濃密で、幸福な記憶の中にしか存在しない、刈りたての芝生の香りに満ちていた。
「ありがとう! ありがとう、パパ!」
二人は裏庭へ出た。木々の影が夕暮れの気だるさと共に伸びている。
始める前に、父親は息子の前に膝をついた。
その手は大きく、無骨で、クイチにはまだ読み取ることのできない「苦労」という名の傷跡が刻まれていた。
父親は息子の小さな靴の紐を手に取り、驚くほどの繊細さで交差させ始めた。
「焦るな、クイチ……もっと慎重に。遊びに行くのに急ぐことはないんだ」
深い声が少年の胸に響く。
クイチはその強い指の動きを凝視しながら、揺るぎない安全の壁に守られていると感じていた。
「世界はどこにも逃げやしない。まずはそれをしっかり覚えるんだ。そうすれば、次はもっと力強く地面を踏めるようになる」
「う、うん!」
クイチは絶対的な憧れを込めて父を見つめた。彼にとって父親は、全宇宙で最も強力な存在だった。
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七歳の時、幼少期の結晶の殻にひびが入り始めた。
小学校という場所は、ルールが曖昧で混乱に満ちた戦場として現れた。
クイチが黒板を見ると、数字はダンスを踊り、それを理解できない自分をあざ笑っているようだった。
文字は重なり合い、解き方のわからない結び目のように頭の中で絡まった。
初めて、クイチは失敗という名の冷たく苦い棘を知った。
自分は劣っているのだと感じた。両親を失望させてしまうと思った。
その日、彼は石を詰め込んだかのように重いランドセルを引きずり、重い足取りで帰宅した。
目は血走っていた。努力のせいではなく、他の子供たちの前で泣き出さないための、必死の葛藤のせいだ。
自分の部屋に閉じこもり、ベッドの上で丸まった。
世界で一番のバカになった気分だった。
ドアが、かすかな軋み音を立てて開いた。
「……クイチ? 大丈夫?」
神秘的な光などなかった。ただ、廊下の明かりを背負った母親のシルエットがあるだけだ。
クイチは何も言わなかった。
母はベッドの縁に腰を下ろし、その重みでマットレスがわずかに沈む。
勉強の大切さについての説教も、他の子との比較もなかった。
彼女はただ息子を胸に引き寄せ、その心音を聞かせるように抱きしめた。
クイチはもう耐えられなかった。
「……ひっ……ひぐっ……!」
純粋な挫折の涙で母親の肩を濡らし、世界が壊れてしまったと感じる者の力強さでむせび泣いた。
「テスト、うまくいかなかったの? もしそうなら……物事は一度でうまくいくとは限らないわ、クイチ」
彼女は耳元で囁き、催眠的なリズムで少年の髪を撫でた。
その指先は、クイチの背中にゆっくりと円を描く。
「紙に間違いだって書かれたからって、あなたが特別じゃないってことにはならないわ。あなたは私の子よ。どうして失望なんてする必要があるの?」
彼女は息子を少し離し、親指で頬を拭うと、揺るぎない信頼を込めて見つめた。
「明日、一緒に練習しましょう。私があなたのチームになってあげる」
その夜、夕食は学校についての尋問にはならなかった。
空気を察した父親は、自分の知る限りの最もバカバカしく、くだらない冗談を言い続けた。
クイチは真剣な顔を保とうとしたが、食卓の温もりがその戦いに勝利した。
最後には、笑い声が漏れた。小さく、純粋で、癒しに満ちた笑い。
彼らは人生から、再び「笑顔になる権利」を奪い返したのだ。
なぜなら、その小さな木のテーブルでは、クイチは有用性や知能で評価されることはなかったからだ。
ただ存在すること。彼自身であること。それだけで愛されていたのだ。
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それは、深淵から思い出すにはあまりにも残酷なほど、完璧な「日常」の年月だった。
人生における『死に絶えた時』。歴史の教科書には載らないが、魂を形作る瞬間。
穏やかな時。ソファで三人が同じ古い毛布にくるまり、映画を観ながら眠りについた午後。
角の店でどのアイスクリームを買うかだけが唯一の悩みだった、平和な瞬間。
だが同時に、人間の脆さが顔を出す困難な瞬間もあった。
クイチは、高い熱に浮かされ、影の夢を見てうなされた夜を覚えていた。
薄暗い部屋で目を開けると、必ず二人のどちらかが自分の呼吸を見守っていた。
両親は交代で、眠ることもなく、熱い額を冷やすために新鮮な水でタオルを濡らし続けていた。
虚無へと浮き上がってしまいそうな時、父親の手が自分の手を握りしめ、現実への錨となってくれるのを感じた。
彼は条件のない愛に囲まれて育った。外の世界の冷たさから守ってくれる不可視の盾のような愛。
永遠に続くと信じて疑わなかった子供のように、クイチはその愛を当然のものとして受け取っていた。
人生が残酷な砂時計であることを、彼は知らなかった。
一つ一つの笑い、抱擁、サッカーに明け暮れた午後が、誰からも教えられなかった「終わり」へと向かって落ちていく砂の粒であることを、彼は知らなかった。
全マナを、全レベルを、そして過去のすべての人生を差し出してでも、父親が家の鍵を開けるあの音をもう一度だけ聞きたいと願う日が来ることなど、知る由もなかったのだ。
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辺獄の岩のトンネル、結晶の前に立つダミアン・ティーボルトは、もはや戦士ではなかった。
つい先ほど、脱臼を冷徹にハメ直したその肩が、激しく震えていた。
幾多の人生で怪物と死を見届けたその瞳は、この世界の物ではない水分で曇っていた。
「……お、れ……」
十歳の頬を涙が伝い、埋葬されていた古い痛みの真珠となって石の床に落ちる。
結晶の中では、緑の芝生の光景が再生され続けていた。
あまりにリアルだ。自然の香り、家の匂いすら漂ってくる。
そして……
「……あ、あ……」
使い古され、遊びの跡が刻まれたあのサッカーボールが、映像の端へと転がっていった。
それは結晶の境界で跳ね返る代わりに、表面を水面のように波立たせた。
ポスッ
ボールは固形のはずの障壁を通り抜け、トンネルの埃っぽい地面を転がり、ダミアンの足元で止まった。
彼は松明の光に照らされた合成皮革のボールを見つめ、凍りついた。
「ねえ、おじさん……」
魂の静寂を破ったのは、小さく高い声だった。
ダミアンは顔を上げた。
結晶の向こう側で、幼いクイチが立って彼を探していた。
「あの……おじさん。ボール、取ってくれる?」
少年は無垢な恥ずかしさを湛えて尋ねた。
ダミアンは喉に塊が詰まったような感覚に襲われ、呼吸すら困難になった。
「おじさん……? 俺は、ただの……」
言葉を最後まで紡ぐ前に、彼は止まった。
自分の小さな手、短剣、英雄のチュニック。この少年から見れば、自分は見知らぬ人間だ。悲しい瞳をした、壊れた鎧の旅人。
一瞬目を閉じ、胸を引き裂くような慈愛に満ちた、痛々しい微笑を唇に浮かべた。
論理に抗おうとはしなかった。時間が死に、回廊が果てしなく続くこの場所では、不条理こそが唯一の通貨なのだから。
ダミアンは短剣を地面に置いた。肩の痛みも喉の渇きも無視して、屈み込む。
両手でボールを掴んだ。本物の感触。ボールがあるべき重さ。幼少期の感触そのもの。
「ああ……」
ダミアンの声は優しく、無限の感情を湛えていた。
「ほら、受け取れ。幼き俺」
そっとボールを押し出す。ボールはまるで空気を通るかのように再び結晶を透過し、陽光溢れる庭へと転がっていった。
ボールを受け取った小さなクイチは、どんな魔法よりもトンネルの闇を照らす笑顔を見せた。
「ありがとう、おじさん!」
少年は叫び、そのまま映像の奥へと駆け出し、陽炎のように消えていった。
ダミアンはゆっくりと立ち上がり、チュニックの袖で涙を拭った。
溜息をつき、歩き出そうとする。
「……よし。行くか……」
その笑顔を記憶に刻み、闘争へと戻る前の、運命からの最後の贈り物として受け取って立ち去ろうとした。
だがその時。声が聞こえた。
「……まあ。本当に大きくなったわね、クイチ」
ダミアンは硬直した。焦熱の骨の猛攻にも耐えた心臓が、完全に停止したかのように思えた。
耳が自分を裏切ったのではないかと恐れながら、苦痛を伴うほどの遅さで結晶へと振り返った。
「……あ、あ……」
そこに、いた。
庭の中央で、父親が両手をポケットに入れ、ダミアンが夢の深淵で覚えているあの静かな誇りに満ちた眼差しで立っていた。
その隣で、母親が魂を射抜くような優しさで彼を見つめていた。
「そうね」
彼女は天上の音楽のような小さな笑い声を漏らした。
「私の可愛い子が、立派な冒険の英雄になるなんてね、うふふ」
ダミアンは石化した。
手から松明が落ち、地面で火が消えたが、どうでもよかった。結晶から放たれる光だけで十分だった。
「……っ!」
もはや涙を止めることはできなかった。それは、あまりに長い間、あまりに多くの人生を通じてたった一人で、誰の肩も耐え得ぬほどの重荷を背負ってきた少年の、魂を切り裂くような慟哭へと変わった。
レベルのことなど忘れた。マナのことも。アイリアナのことも、無限の地獄のことも。
肉体が原始的な本能で動くかのように、魂の意志が物理的な現実よりも強固であるかのように、彼は結晶へと駆け出した。
「パパ! ママ!!」
千々に引き裂かれた声で叫んだ。
彼は硝子の表面へと跳び込んだ。
衝撃はなかった。痛みもなかった。
結晶が彼を飲み込んだ。時間と空間の障壁を突き抜け、もはや存在しないはずの現実へ、太陽の沈まぬ永遠の庭へと、彼は真っ向から飛び込んだ。
そして、二人の腕の中に落ちた。
必死の、絶望的な力で二人を抱きしめた。父親の胸に顔を埋め、自分を包み込む母親の温もりを感じた。
感じられる。彼らだ。血の通った、本物の二人だ。おがくずのような父の匂い。母の柔らかな香水。
長い年月を経て、ダミアン・ティーボルトは消滅した。
そこにはただ、クイチだけがいた。
二人の真ん中でしがみつき、左手で母のブラウスを、右手で父のTシャツを握りしめ、外の世界がどうでもいい塵のように消え去る中で、ただ泣き続けた。
「パパ……ママ……会いたかった……会いたかったよぉ……っ!」
トンネルには静寂が戻った。地面で松明が燃え尽きた。だが結晶の中、その永遠の抱擁の中心では、時間は永遠に止まっていた。




