表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の本   作者: 勇気
アリカポル
9/13

歴史は語る(2)

 馬車の中は揺れる。馬は石も砂も超えてどれだけ暑くても自分の名を忘れずに歩く。

「私は酒も、たばこもやらない」

 熱い馬車の中でローリオンは汗をかきながらそう言った。

 彼の目の前には手錠をかけられたカーリーとその隣に手錠をかけられなかったカーラがいた。 

 ローリオンはカーラを見る。

「本当に逃げないな?」

 そういって見下す。

「約束は守るわ、手錠をかけなければ逃げようとはしない」

 カーラはローリオンを見る。

「でも私は違うからな、近づいてみろ、かみ殺してやる」

 カーリーは姉の真似をしようとした。

「私はいつでも動けるようにするために酒は飲まないんだ。」

 ローリオンはカーリーを無視して続ける。

「タバコも、アリアドンテの研究で肺の健康を乱すとされている…」

 ローリオンは下を見て鉄の重いブーツを目にした。

「あっそ」

 カーリーは外を見てつぶやいた。

「私のブーツには何が付いていると思う?」

 少し静かだった馬車内はローリオンの突然の問いによって変わった。

 カーラとカーリーはローリオンを不思議そうに見つめる。

「血と灰だよ、燃やした敵の灰さ。」

 ローリオンの隣に置いてあった剣は少し揺れる。

「私は、君たちも分かる通りだが、お金持ちと私に歯向かう人が大嫌いだ。」

 ローリオンは続ける。

 カーラは男のブーツを見るも、かのじょの目にはただの灰色に輝く鉄のブーツに見えた。

 しかし、外見だけでは過去は語られない。

 カーリーは身勝手に動く剣を見て不思議に思っていた。

「その剣、なに」

 カーリーは聞くことにした。

 カーラはカーリーの問いに少し驚いたが、彼女を止めることはなかった。

「この剣は、昔伝説の本を探し求めて世界一深い海溝に潜った時、大量のパヤと一緒に見つけたものだ。触れるものの生気を奪い、剣主に与える剣。ことばと見る角度を変えれば、呪われた剣だ」

 ローリオンはそう言って自分の剣に手を当てて、これまでに叫び声をあげて殺されてきた人々を思う。

 全く、後悔などしていなかった。

「…伝説の本っていう子供だましを信じてる騎士団長さんなのね、クソガキ…」

 カーラはつぶやいた。

「子供だまし? 違う、本物の本だ。私は見つけて持ち帰ったが、また消えた。あの本には自我がある、ほんの主を選ぶ本だ。」

 ローリオンはカーラを指さし、そう言った。

「アリアドンテとラズバノ大陸の間の海溝の奥深くに、なぜか空気が地上に上がらない場所がある。そこまで泳いでいけばあとは落ちる、そして落ちた先は財宝の山だ」

 腕を広げて外を見るローリオン、カーリーはなぜか彼の話に惹かれていた。

「しかし、いいことだらけではない。私はそこでドラゴンと会い、討伐し、そして首を持ち帰った。もちろん本と一緒にな」

 そういうと腕を広げるのをやめて興味深そうにローリオンを見るカーリーを指さした。

「世界は財宝であふれているが、私は金に興味はない」

 そういって少し落ち着いた。

「もちろん本を狙っていたのは私だけではない――」

「アリカポル騎士団…」

「そうだ」

 ローリオンがしゃべろうとするとカーリーはつぶやいた、そしてローリオンは返事をした。

 さらに続ける。

「ラビという男は私の邪魔をした、私は彼の生気を奪い、死ぬためにあそこに放置した。今もきっと腐った死体が大量のパヤの上で眠っているんだろう」

 ローリオンは言った

彼は外を見つめると太い木が大量にあり、涼しくなってきたと気が付いた。

「そろそろレッコラを通る。シャルザに近い」

 そいってまた黙ると、聞こえたのは馬の歩く音を馬車の進む音だけだった。

 ローリオンは二人を見つめて、いつ何をされるのかと待ち構えていた。

 二人の姉妹はそんなローリオンと目を合わせようとしなかった。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「糞…糞…いつか、いつか。」

 アリカポルの小道で木材の家の壁に背を託し、伝説になりつつあったラビ・ケンゴーはまたもや酒を飲んでいた。

 独り言を続けては、昔を思い出す。

「一人で…一人で残されてよぉ。たまったもんじゃねぇよ…」

 酒を口に運ぶ。

 ラビはローリオンから隠れていた、ローリオンがいつか、ここに来たらラビはホームレスのふりでもしてにらむだけと決め込んでいた。

 …しかし、ラビにとってそんな状況の中で飲む酒はうまくなどなかった。

 でも、腕を止めることはできなかった。 

 毎日ローリオンを恐れ、一人で酒に入り浸っては家に帰ることはなく、女房を独りにして道路で寝る。

 もしも戦争が起こっても酔った彼には関係なかった。

 彼に必要なのは小さな勇気だった。

 通りすがる人々はラビを見て汚らしいプライドを捨てたホームレスだといって救おうともしなければ目向きもしない。

 ラビは本当は心のどこかで助けてほしかった。だって、自分ではもうとっくに力尽きていたから…

「…」

 ラビは目を閉じた。明日はローリオンが来ないことを願って…

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「これが船だ。アリアドンテに着くまで2日間、私は二人をしっかり監視させてもらおう。」

 ローリオンは目の前にある鉄の塊、彼が船と呼ぶ機械に向ってそういった。

 そんなローリオンの目の前にはカーラとカーリーは乗りたくないような顔をして突っ立っている。

 二人の後ろでは騎士たちが圧をかけている…

 シャルザの気温はヘイピットのとんでもない暑さに比べて涼しかった、風は塩のにおいがして、聞こえるのは海の音だった。

 そして商業人と、値切りをする人たちの声。

 そんなマルザと変わらないような場所の港には不自然にも大きい船が停められていた。

「機械には頼らないわよ」

 カーラが船を見ながら言った。

「私も乗りたくない」

 カーリーも言った。

「ならボートでこいでアリアドンテアで行ったらどうなんだ?」

 騎士が1人、笑いながらカーラたちにそういうとローリオンは見逃さなかった。

「私語について、私は何と言った」

 ローリオンは歩いて騎士に近づいていく。

「あ…」

 騎士が何かを言う前にローリオンは彼の頭をつかむと、力強く握りこみ――

 グチャァ、という音とともに騎士の頭から血が出始めた。

「握りつぶしたんだ、頭蓋骨を…」

 カーラは静かにそう思った。

「ローリオン、さっさと船に乗れ。アリアドンテが待っている。」

 カーラは後ろから声が聞こえたが振り返るとその人はもうすでに後ろを向いてどこかに行った、その背中だけが見えた。

 カーラは思った。ローリオンにあんな口調でしゃべれる人…どんな人なのだろうか、と。

「シャルザの裏切り者だ」

 ローリオンはカーラの思考を読んだかのように言った。

「そしてお前は、これからピチューノの裏切り者になる。」

 カーラを指さしてそういった。

「私は?」

 カーリーは聞いたがローリオンは答えなかった。

「乗れ」

 そうとだけ言って、仕方なくローリオンについていく…

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 アリアドンテ中心部、ダルマリア塔。

「私は、機械を嫌う人間を嫌う」

 テーブルに座って紫の服をした男が言った。

 その服は何と個性的で肩の部分は膨れており、首元には白いタオルのようなもの…

 これだけ言えば十分理解できるだろう?

 ダルマリア塔の中には大量の配管に通気口の入り口、壁にはアリアドンテの旗が飾られていた。

 旗は赤色のベースにダルマリア塔の黒い影が書かれたものだった。

 なぜダルマリア塔なのかわかるかって? 塔の外側には配管が割れたもの、そして配管から出るクリスタルの使われた後の煙が上がるからだ。

 アリアドンテの道路はゴミだらけで、空気には異臭が漂い、空は常に汚染され黒かった。

 そのためアリアドンテの民は太陽を見たことがなかった。

 塔の周りには大陸の終わりまで続く巨大な都市、世界でこんなにも大きい国を作ることができたのはアリアドンテだけだった。

 しかし同時に、世界で最も腐りきった国でもあった。

 ダルマリア塔の中で食事をしている紫の男がいる部屋には細長いテーブルがあり、そこにはありとあらゆる食べ物があった。

 チキンにビーフにいろんな種類のチーズ、ワインのグラスも大量にあり、アリアドンテでしか育てられないようなキノコを使った皿もあった。

「もう一度言おう、しかし短縮にね。」

 紫の服をした高貴な男は鉄のテーブルの上に置かれたワインのグラスをつかむと口に運び、一口飲んでからテーブルに戻す。

「私は機械が大好きだ」

 両手を組んで膝の上に置いてから前を自信で満ちた顔で見る。

 長いテーブルの反対側にはフォークを片手に、もう片手にナイフを持ってステーキを食べる男がいた。

「そんなことより、魔女の到着が遅いと思わないか?ラズベリ…」

 フォークとナイフをテーブルの上に置くと、ステーキを食べていた男はそう言った。

 茶髪の髪はながいが結んでおり、赤い服に茶色のブーツをしていた。

 ワインを飲むとき邪魔になりそうなほど高い鼻に、白髪の混ざった髭をしていいた。

 疲れているような目つきをして、口は常に開いていた。

「ハハッ、魔女の到着なんてどれだけかかってもいいだろう? 別に急いでなんかいない」

 紫の男、いや、ラズベリが言った。

 すると突然右の扉が叩かれた。

「入れ」

 ラズベリは言った。

「ストロベリ大佐! ラズベリ大佐、今、魔女たちが到着しましたッ!」

 鎧を着た騎士のような男が扉を開くとそういった。

「やっとか…」

 赤の服をした男、いや、ストロベリが言った。

 二人は椅子を引いて立ち上がると膝の上にあった白いナプキンを取って騎士に向かって歩き出す。

「捨ててくれ」

 ラズベリは命令して、ナプキンを騎士に渡した。

「ああ、ついでに私のも」

 続いてストロベリもナプキンを騎士に手渡した。

 二人はダルマリア塔を下りていく…

「魔女はきちんと仕事をしてくれると思うか?」

 クリスタルで動かされたエレベーターの中でガラスからアリアドンテの景色を見渡してストロベリは言った。

「きっとしてくれるだろう、少しずつだが、確実に私たちの国も終わりに近づいている…」

 ラズベリは真剣に外を見ながら言った。

 ダルマリア塔の中から見える都市の景色は、きれいとはいいがたかったが、彼らにとってはこれまでに見てきたものよりもきれいだった。

 その景色にうつっていたのはクリスタルで動かされた車たちと、紙やごみであふれる道路。

 汚染された空気により発作を起こす人々の姿や、それぞれの建物から出てくる煙…

 何よりも止まらない薬物取引が上からでさえも見えた。

「…クリスタルが必要だ。それだけだ、それ以外はすべて…」

 ストロベリが言おうとするとエレベーターは止まり、一瞬汚染された空気が揺れたように思えた。

 扉が音を立てながら開かれるとダルマリア塔のホールが見えた。

 右と左に一人ずつ、受付を置いて、中心には客が座るためのソファーが置かれていた。

 そんな赤いソファーには誰も座っていなかった。

 ホールの端にはそれぞれ観葉植物が置かれていた、しかしもちろんこんなところで植物は育つわけもなく――

 その観葉植物でさえも鉄で作られ、色をきれいに塗られていた。

 二人の大佐は同時に脚までそろえて歩き出す。

「魔女は外にいると思うか?」

 ラズベリは聞く。

「ホールにはいないんだから外にいるに決まっている」

 ストロベリは答えた。

 二人はソファーとすれ違った。

 しかしストロベリは右に、ラズベリは左を通った。

 ソファーを過ぎるとまたそれぞれ隣あって歩いた。

 ホールを過ぎるとガラスの扉を二人で、一人ずつ片手を使って開けた。

 外にはローリオン騎士団と魔女が二人いた。

「君たちが、カーラとカーリーかな」

 ストロベリは二人を見ると同時に言った。

「…」

 カーリーは二人の圧力に押されて何も言わない。

 カーラは黙っているだけだった。

「しゃべれ」

 ローリオンが命令しても二人は黙ったまま。

「道中、私はカーラじゃないッ! みたいなことは言われたか? 偽物の可能性も…」

 ラズベリがそういってカーリーに近づいて顔をよく見てみるとカーリーがつばを吐いた。

「…魔女たちで間違いないようだな」

 ストロベリはその光景を見てそう言った。

 騎士が1人、ラズベリにハンカチを渡すとラズベリは喜んで受け取った。

「ああ、もう近づかないことにする」

 そういって顔についた唾液をふき取る。

「凶暴な魔女だな」

 ストロベリは笑ってそういった。

「…招待って、なに」

 すると突然カーラがしゃべった。

 二人は少し驚いてカーラの方向を見ると、すぐにストロベリがしゃべった。

「中に入って、食事をして、ゆっくり休んでから話そう。ダルマリア塔には風呂もある」

 そういって中にカーラとカーリーを招待する。

「私も顔を洗わなければ…」

 ラズベリはハンカチを騎士に渡すと再びダルマリア塔の中に入っていく。

 ストロベリも後ろからついていくとカーラとカーリーは止まったままだったが、騎士に蹴られてすぐ歩き始めた。

 ホールを過ぎて、エレベーターに入り、都市と見て、そして上階に行きつく。

 カーラとカーリーはそれぞれ隣に座ると、ストロベリは右の端に座り、ラズベリは左の端に座った。

 カーリーにつけられていた手錠も取られ、彼女は自分の腕を痛そうに片手で撫でていた。

「私たちは、それぞれの国の実力者たちに目を向けている」

 ラズベリが両手をテーブルの上に置くとそういった。

「実力者というのは、どんな分野の実力者でも構わない、君たちのような魔女も喜んで私たちのチームに入れる」

 ストロベリが付け加えた。

「裏切り者に、なりたいか?」

 ラズベリが続けた。

 カーラはラズベリを見た。

 しかしカーリーは下を向いたまま。

「…裏切り者って何、断れば帰ってもいいわけ?」

 カーラは聞いた。

 すると右からストロベリがしゃべるとカーラは首をみぎに向けた。

「それぞれの国に、一人か二人ずつ、裏切り者を置いた。裏切り者とはその国を破滅させて、私たちに手渡してくれる人たちだ。もちろん参加すれば新しいアリアドンテで金持ち生活ができる。しかし断れば…」

 ストロベリは口が詰まると今度はラズベリが続けた。

「断れば…簡単に言えばアリアドンテから出ることは許されなくなる上に、私たちの監視が付く」

 ストロベリは頭を上下に動かすと「ありがとう」と言ってからまた続けた。

「裏切り者になればすべての国の裏切り者の名前と顔が乗った紙が渡される。仲間同士での通信も可能になるから簡単だ。」

 そういって手にナイフとフォークを持つとステーキを斬り始めたが、やけに固い。

「冷たくなっている、新しいの作れ」

 壁の前にいた騎士にそういって皿を地面に投げつけるとつづけた。

「冷めた肉なんて、だれが食べるものか…」

 静かにつぶやいた。

「報告は君たちに渡される紫のクリスタルからすればいい、紫のクリスタルは最近見つかった新種のものだから耳に残らないと思うが、慣れてくれると嬉しい」

 ラズベリが言った。

「断る。私はここに住んでもいい、でも国は裏切らない」

 カーラは言った。

 眉間にしわを作ってストロベリを見る。

「…さっきのはやめだ。お前の態度が気に入らない」

 ラズベリが反対側から言った。

「拘束しろ。」

 ストロベリがそういうとワインを一口飲む。

 騎士たちはカーリーを捕まえた、しかしカーラは椅子に拘束された。

「お前はあの子供より実力があると見抜いた。裏切り者になれ、じゃなければあの子供を殺す。」

 そういってナイフをカーラに向ける。

「いや、家族全員殺そう」

 ラズベリはグラスを向けてそう言った。

「やめてッ!!カーラッ!」

 騎士たちにつかまれてカーリーは叫ぶ、しかし彼女は運ばれて部屋から少しずつ声が遠のいていく。

「妹に何をするの」

 腕すら動かせないカーラは二人をにらみこんで聞いた。

「あとはローリオンに任せるだけだ、お前が使命を果たしたら生きて帰らせてやろう」

 ラズベリが言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ