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伝説の本   作者: 勇気
アリカポル
6/13

ポル塔 内部

「ピチューノ人をすべて上階に運び終えたか」

 ローリオンはポル塔、二階の兵士休憩室でほかの騎士たちに聞いた。

「ええ! もちろんです、ローリオン様。」

 騎士二人が同時に答えた。

「ならいい、それと絶対に誰もこの塔に入れるな。あいつが生きてるってアリカポルの魔導士たちに知られたら…そうしたら、わかるよな」

 ローリオンは唯一石の壁に囲まれた部屋のテーブルにあったナイフを持ち、壁に投げると硬い石に刺さったまま落ちなくなる。

「もちろんです、ローリオン様」

 頬にナイフが通り過ぎ、少しだけ斬れ、血が出る。

 その部屋の唯一の明かりは上の階からこぼれる太陽の光と、騎士たちが壁に飾ったたいまつのみ。

 テーブルの上にはローリオンのために作られた食事が置かれている…

「アリカポルはいいところだ」

 椅子に身を許し、隣を見て体を休める。

「ええ、私もそう思います…」

 頬を斬られた騎士が言った。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 重い扉をおもいっきり押し込み、開ける。

 ジュコが最初に見たのは石の壁と、室内井戸のようなものもあり、濡れたバケツが冷たい床に落ちていた。

「ポル塔の、中…」

 ショーンはつぶやく。

「来たことがなかった」

 ショーンはまたつぶやいた。

「それはそうだろ、ポル塔の中に奪うほど価値のあるものはないだろ?」

 ジュコはショーンのつぶやきに返事をした。

「さっさと行きましょう」

 カーラは早々と中に入っていく。

 カーラについていくように二人も中に入っていく。

 石の壁には飾られた松明だけではなく、緑色のアリアドンテの旗が飾られていた。

「なんでアリアドンテの旗が?」

 ショーンはきく。

「わからない、本で読む限り、アリカポルはアリアドンテと手を組んでるわけでもなければ、クリスタルの輸送をされているところもない、ここに機械はないからね、クリスタルは必要ないんだよ」

 ジュコは知識を披露するとショーンは興味深そうな顔をした。

 すると階段の下でカーラが止まっているのをショーンが見ると話しかけようとするが、手で口をふさがれた。

 ショーンは離すように手でしぐさしたが、カーラはすぐに説明した。

「上に誰かいる」

 そう聞くとショーンは真剣な顔をして壁に近づく。

 ジュコもそれを聞いてショーンとカーラとは違って、聞こうとはせず、階段に近づかないようにした。

 ジュコは井戸に興味があった。

「この井戸、水がないぞ」

 ジュコが井戸の中を見て、ショーンとカーラに聞こえるような小さな声で言った。

 井戸は深く、しかし一番下に光があることに気が付いた。松明なのか、彼にはわからない。

 その間、上の会話が聞こえた。

「ローリオンまた上階であの囚人に会いに行ったのか?」

 上にいた誰かがそういった。

「ローリオン?」

 ジュコは聞きなれた名前に反応する。

 ローリオンはマルザで生まれた騎士だ、ジュコの生まれと同じ場所。

「ローリオン騎士団がいるみたいね、でもなぜ?」

 カーラも囁くように言う。

「マルザ出身の唯一の騎士、平和ボケした国からあんな化け物が出てくるとは誰も思わなかったな。少なくともローリオンが騎士になったころはみんなそう思っていた」

 ショーンは昔を思い出すように言う。

「強いとは聞いてるけど、化け物と呼ばれるほどなの?」

 カーラは聞く。

「ピチューノ人たちはそのさらに上だったよな? 凍り付くような寒さなのによく耐えれる奴らだよな」

 上にいた騎士の一人がそういうと笑い始めた。

「私の仲間を笑いやがって…」

 悔しくて、カーラは目を閉じる。

「今から助けに行くんだ、心配すんな」

 ショーンはカーラの背中に手を置く。

 ジュコは井戸の中を見ていた。

 何か、影が動いていることに気が付く。

 井戸の石を握って中を見るために少し体を前に出すとボロくなった井戸の一部が中に落ちていく。

「あッ!」

 ジュコが声を出す前に石は地面に落ち、激しい音を立てた。

 井戸の中の影はなくなり、光すら消された。

 石が落ちる音が上まで届き、騎士たちが反応して下に来る。

 ショーンとカーラは階段から離れ、ジュコと一緒に井戸の前にいる…

 最初に見えたのは剣の先っぽと、鉄の鎧を着た脚。

 少しずつ、ゆっくりと、しかし確実に階段を下りる騎士。

「魔導書を強く握りなさい、バカッ!」

 カーラはジュコに対して怒る。

「まぁ、まぁ。」

 ショーンは両手に短剣をもって構える。

 すると剣を片手に持った騎士が三人と目を合わせるとそのまま固まった。

 口を半開きにして、構えた三人を見る。

すると少しずつ後ろに引いていくが、ショーンは見逃さなかった。

「戻すかアホッ!」

 短剣を即座に投げると次の瞬間には騎士の脚に刺さり、騎士は階段から落ちる。

 上にいた騎士たちはそれを聞いて何か鐘のようなものを鳴らし、ほかの騎士を呼び集める。

「もうバレたか」

 ショーンは地面に横たわって短剣を抜こうとする騎士に近づき、短剣を抜いてまた構える。

「誰のせいなのかな」

 カーラは片手にポーションをもってそういった。

「ごめん」

 ジュコは正直に謝る。

「上に突っ込むぞッ!」

 ショーンは振り向いてそう怒鳴ると、ジュコとカーラは驚いて彼を見て、それから一緒に階段を上っていく。

 騎士が1人、後ろに二人、そのさらに後ろにもう三人…

 ショーンは階段を下がっていた騎士の脚に短剣を一つ投げて動きを止め、二階にいた騎士にスライディングで近づき剣を回避、騎士の指を瞬時に切り落とし、同時にアキレス健も斬り騎士を地面に落とす。

 指が切断され、血が吹くのと一緒に剣が床に落ちる。

 騎士は痛がるだけで動けなければ利き手で剣を握ることはできない。

 階段からは短剣を抜いて下がってくる騎士が見える。

「とっつかめろぉッ!」

 一人が言うとカーラはとっさにポーションを投げて騎士に当てる。

 それは鉄すらも溶かす液体だった。

 鎧は溶かされ、皮膚に液体がたどり着くと剣を落として2人の騎士が液体を拭こうとするがゆっくり倒れていく。

 さらに上から溶かされた仲間の死体を踏んで突っ込んでくる騎士がいた。

「ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、お願いうまくいってくれッ!!」

 ジュコはそう言って片手に魔導書をもってもう片手をかざして魔法を撃とうとするが何も出てこない。

「魔力の使い方をわかっていないのであれば魔法を使わないでッ!」

 カーラはそう言って落ちていた鉄の剣をジュコに投げると彼は見事にキャッチした。

「斬れッ!」

 ショーンは叫んだ。

 人を斬ったことのないジュコは躊躇した、銃の使い方は本で読んだが、彼は剣の構え方すら知らなかった。

「使えない奴めッ!」

 カーラはそう言って走って近づき、ジュコの剣を奪って前に剣を振ると一人の騎士の頭を切り落とす。

 血がジュコの顔についた…

 もう一人近づいてくると短剣が騎士の頭に投げられる。

「カーラが殺すのであれば俺も殺すことにする」

 ショーンは言った。

「…」

 使えない奴め、か。

 ジュコはカーラの言葉について考えた。

「魔法が使えないなら魔導書を閉じて、とにかく剣を握って。今は使えなくてもいいから持ってて」

 カーラはそう言って血で濡れた剣をジュコに強引に渡すと死体を踏みにじりながら上に上がっていく。

「俺は短剣しか使えないから教えることはできないけど、ヘイピットに行ったらいい先生が見つかる。それまでは俺が援護してやる」

 ショーンはジュコの肩を優しくたたいてそう言ってから、彼も死体を踏んで上がっていく。

 ジュコは、確かに使えない非戦闘員だった。

 魔法もろくに使えなければ、人を殺すことに躊躇してしまう。

 ショーンの言っていた通り、マルザ人は平和ボケしているのかもしれない、その証拠がジュコ自身だ。

 …しかしそれも乗り越えて騎士になったマルザ人がいる。

 ジュコも、いつか騎士よりも強くなりたいと思ったが、それはただの願いであって目標ではなかった。

 魔導書をボロボロのリュックにしまって、剣を握ったジュコは死体を踏んで上に上がっていく。

 上は風が強く吹き、階段には雪が積もっていたが踏まれており、明らかに人が通った後がある。

 階段の隣には鉄格子に囲まれた部屋、一切壁はなく、半袖半ズボンで丸まって地面に横になる囚人がいた。

 ジュコはかわいそうだと思ったが、今は上に行くのが先だ。

 階段を上がって、吹雪をの中でも一歩ずつ確実にカーラの仲間に、ローリオンの居場所に近づいていく。

 騎士たちが言っていた、ローリオンが上にいると。

 それが本当であれば戦わなければならなくなる…

 ジュコは剣を強く握った。

 しかしジュコは足を止める。

 思いついたことがあった。

 リュックからガラスの瓶を取り出し、鉄格子近くの階段に置く。

 瓶の近くにはカーラが複製を許可してくれたガンパウダーを置く、普通ガンパウダーは盗賊か、魔法の使われない国でしか使われないが、カーラは魔女なのにもかかわらずベルトの袋に持っていた。

 少量だったが、ジュコはものを複製できる。

 魔導書のページを切り取り、ビンに入れる前にささやく。

「ファイヤー…」

 切り取られた紙にジュコは自分の血をしみこませ、それから瓶に入れた。

 立ち上がり、二人に追いつこうと上へあがる…

 すべての階にいっぽんずつ紙とガンパウダーの入った瓶を置いて、カーラとショーンに追いつくことができた。

 二人は、鎧を着た大男とにらみ合っていた。

 ジュコは後ろに立っていたが、それでも男の影が見えるほどだった。

 男は長いもみあげに、ほんの少し曲がった鼻、色あせた唇に腰には剣がぶら下がっていた。

「ローリオン…」

 ジュコはすぐに分かった。

「下がってろジュコ、こいつとは戦わずに上に行く…」

 ショーンが言った。

「でもどうやって?」

 ジュコは焦っていた。

「ポーションに弱い人間はいないわ、何とかなる」

 カーラもそういう。

「私を侮辱するために、ここまで来るか。」

 胸を張って、剣すら握らず、ローリオンはそう言った。

「私の仲間を閉じ込めといてッ! 糞野郎ッ! 剣を握れよッ!」

 カーラはローリオンに怒鳴った。

 しかしローリオンは二人に見向きもしない。

 …ジュコを見た。

「マルザ人か」

 ローリオンはジュコに聞いた。

 ジュコはつばを飲み込み、吹雪の中で冷たい汗を流した。

 怖がっているのに、ローリオンから目を離せなかった、ローリオンがそうはさせなかった。

「剣を握ったマルザ人が見れるなんて、何年ぶりだろうか」

 ローリオンはもみあげを片手で撫でて、ジュコを見つめる。

「剣を握ろう、しかし戦うのはその若者だけだ」

 ローリオンはそう言って剣をゆっくりと、音を立てて抜き、そして彼のその細長い剣をカーラとショーンの間に置いた。

 一歩動けば剣は二人の頭を切り落とすことができる。

「そのマルザ人を犠牲に、お前らは前に進む」

 ローリオンはそう言った。

「させるかッ!」

 ショーンは対抗しようと短剣で立ち向かおうとするも瞬時にはじかれ、ポル塔から短剣を落としてしまう。

 そしてショーンはローリオンを見た。

「…」

 一瞬のことだった。

 ローリオンはショーンをポル塔から突き落とし、ショーンは叫び声をあげて落ちて行った。

 ジュコは両手で剣をもって震えを止めようとするも剣は勝手に動いていた。

 悔しくて、さみしくて、仲間を失った。

 ジュコの震えは決してもう恐怖ではなかった。

 ローリオンの非情な行動が、ジュコの内に眠っていた何かを揺さぶったのだ。

 一方、カーラは片手に持っていたポーションを落としてしまい、粉々に砕けて液体がゆっくりと泡立ちながら階段の一部を溶かしていった。

 震える声で何か言おうと口を開くが、言葉は出てこない。

 カーラの瞳には、もはや戦う意思は映っていなかった。

 彼女の心は疲れ果て、戦いへの情熱は消えかけていた。

 

「先に進め」

 ローリオンはカーラに言う。

「ごめん、ジュコ」

 その言葉の通り、カーラはジュコを置いてローリオンの隣を通って先に進んでしまう。

 ジュコは震えた剣を握って、階段の途中でローリオンと目と目を合わせる。

 非力で、魔法も使えない。

 そんなジュコがどうやって勝てばいい…

 

カーラは、ジュコが死ぬということをわかっていて、彼を見殺しにするように進んだ。しかし、仕方のない選択だったのかもしれない。

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