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伝説の本   作者: 勇気
アリカポル
5/13

ポル塔 潜入

「君の知っている通り、この国がピチューノと戦争をし始めたのはピチューノのせいでもなければ、アリカポルの王のせいでもない。この私だ」

 三人の騎士を後ろに引き連れ、風が強く耳に響くポル塔上階で、茶髪が白くなりつつあるローリオンが地面に丸まった囚人に言った。

 ポル塔の上階には壁がなく、鉄格子の外、兵士が通る道さえも開けていたためか非常に危ない。

 階段を使ってポル塔をぐるぐる回って上階までくるというのは、命を粗末に扱うのと同じ。

「寒いか」

 ローリオンは自分の長いもみあげを手で軽くなでて囚人に聞く。

「ローリオン様、そろそろ戻りましょう。残りの男たちも下で待っていますよ」

 騎士の一人が後ろで言った。

 しかしローリオンは聞かない。

「私は金持ちが大っ嫌いなんだ。だから最初にするべきこと魔導士の多いアリカポルにぬれぎぬを着せて、毎日毎日楽するピチューノ人を戦争に向かわせることだ。ピチューノは私が滅ぼした。この私だッ! 私を見ろッ! 私をたたえろッ! この私を――」

 ローリオンは鉄格子につかまり、彼に見向きもしない囚人に怒鳴りつける。

「ローリオン様!」

 騎士が彼を止めた。

 ローリオンは騎士をにらみこみ、こういった。

「私を邪魔するか」

 騎士の首元を片手でつかみ、宙にあげ、ポル塔から落とすかのように外につかんだままにした。

「私を邪魔するのかッ!?」

 ローリオンはまた聞く。

「い、え…」

 苦しみながらも騎士はそう言うと、ローリオンは首をはなし、騎士を落とした。

 叫び声がポル塔上階からふもとまで響き、そしてあるとき突然止まった。

 地面にぶつかったのだろうとローリオンは悟り、囚人に振り向く

「お前のせいだ」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 ジュコは初めてアリカポルに足を踏み入れ、魔法を風に感じた。

 なんとそこはアリカポル外よりも風がなんと暖かく、しかしそれでも雪は降っていた。

 ジュコは確か本で読んだことがある、雪を暖かくし、風を気持ちよくし、半袖でも外に出れる環境を魔導士たちが作るのに成功したと。

「気持ちいな」

 ショーンは言った。

「そうだね、魔導士に感謝よ。」

 カーラはそういうとまずポル塔に入ろうとした。

「何してんだ? 休もう、今日はもう遅いし指が凍り付いた、それにお前だって魔力の回復をしなきゃだろ?」

 ショーンはカーラにそういうと、彼女は一歩後ろに引く。

 悔しい表情をして、少し動かなくなる。

「でも、仲間が」

 カーラはつぶやく。

「強いやつらなんだろ? 今弱った状態なんだ、ここでつかまったら終わる、休んで確実に上に登れたほうがいいと思う、ショーンに賛成だ、それにそんなに長い休みはしないさ。すぐに出発できる」

 ジュコはカーラを説得する。

「ハーブも買わなきゃだろ?」

 ショーンも説得に参加した。

「わかったわ、でも少しだけよ」

 カーラはなんだか少し寂しそうにも見えた、アリカポル広場につながる階段を下がっているとき、彼女は何も言わなかった。

 アリカポルの広場が見えるとそこには凍り付いた泉と、オレンジ色と白色、灰色の石が合わさってできた芸術のような地面に周りには桜が咲いていた、雪が降っているのにも関わらずここでは積もらない。

「すごい街ね」

 カーラを口を開く。

「…芸術よりも酒を飲んで身を温めたい気分だ」

 ショーンはそういうと周りを見て酒場を探す。

「魔導士は酒を飲まないとか、ないよな」

 ショーンは階段を下がりながらもそんなことを言った。

「飲むに決まってるでしょ、広場には子供もいるから酒場はないだけよ。街を少し歩けばすぐ見つかるわ」

 カーラは泉を見てそう言った。

「ジュコは飲むのか? 寝る前に行こうぜ」

 ショーンはジュコを誘った。

「すまん、酒は飲まないんだ」

 ジュコは誘いを拒否した、小さいころから父はいつもジュコにお酒を一口渡すことがあったがジュコは飲むことができなかった。苦かったのか、それともただ口に合わなかったのか…

 それから19になってもジュコはお酒を試みたことはなければ、酒場に行くこともない。

「飲まないんだ、へぇ。ピチューノ人で酒好きじゃないのは見たことがないね」

 カーラは言った。

 ジュコはそういえばピチューノ人を装ってカーラと接していた。

 まず思ったのは:完璧なピチューノ人を装わなければ。

 と。

「…安酒は飲まないってことだよ、ピチューノで飲んでたお酒はそこらへんで買ったようなものじゃなかった」

 ジュコは言い訳をした、指には力が入り、少し頭が震えた。

 しかしその動作にカーラは気が付かなかった。

「ふぅん、そうか。」

 そう言って、階段に視線を落とし、先に下っていった

 ショーンとジュコは残された。

「危なかったな、でもこのままだと酒を飲まされるぞ」

 ショーンは警告した。

「大丈夫、その時には何とかする。」

 ジュコは言った。

 二人は階段を下り終わり、広場にたどり着く。

 そこはポル塔のふもとよりも暖かく、気分がいいところだった。

「酒場はなくてもハーブ屋さんはあるのね」

 突然前にいたカーラは広場の先にあるお店を指さした。

 ショーンはそれを無視してジュコにこういった。

「カーラは魔女だ、バレたら何とかなるでは済まない。さっさと用事を済ましてカーラを置いてここから出て行こう」

 ショーンはカーラを置いていく気だった。

「…彼女が目を覚ます前に、必要な調べ物を済ませて次の国に行こう」

 ジュコは賛成してしまった。

 なんだか彼女を置いていくのはいけないと思ったが、彼には伝説の本を探すのに150日の猶予を与えられている。

 一日を無駄に過ごすわけにはいかないのだ。

「なら行こう」

 ショーンはそう言って前に進んだ。

 ジュコはついていく…


「それでなッ?! それでなッ!? 俺は言ってやったんだ、愛っちゅうのはぶつかりあって認め合うからこそ愛であるとねぇ」

 酔った男がテーブルの上に立って、深夜の酒場で話をする…

 小柄な体に、短く刈った髪。青黒いジャケットと革靴を身につけ、首には金のネックレスをぶら下げていた。

 男の話を聞いていたのは隣のテーブルで酒を飲むカーラとショーンだった。

「ジュコが忙しくて残念だな、あいつとも飲みたかったが…」

 ショーンはこのロウソクで照らされた薄暗い酒場の中で木製のコップを握ってそういった。

「そうね、残念」

 周りを見回すカーラが息をすると、汗臭い男の臭いとゲロのにおいがした。

「こんなに品のない魔導士たちを見るのは初めてだわ」

 カーラはそう言い終わると再びテーブルにのった男が何かを言い始める。

「ヒックぅ、酒はいい、酒はすごくいいんだ、俺に殴りかかってくる女房の顔を忘れさせてくれるぅ」

 そういうとテーブルから落ちて座っていたもう一人の酔っぱらいに衝突し、二人とも椅子と一緒に地面にぶつかった。

「魔導士の全員がいい人生を歩んでるわけじゃないみたいだな」

 ショーンは言った。

 カーラは苦笑いして一言「そうね」と、だけ言って酒を一口飲んだ。

 コップをテーブルに置くとショーンに話しかけた。

「あなたはジュコの兄弟か何かなの?」

 カーラはそういうとショーンは腹から笑って、それから答えた。

「いや、いや、兄弟じゃない…」

 ショーンは自分の素性を彼女に知ってほしくはなかった。

 見捨てる相手に、なぜ自分について教える。そうショーンは思っていた。

「そうね、あなたは緑の瞳をしているのに、彼は茶色だものね」

 カーラはテーブルに視線を下ろしてそういった。

 きちんと答えてもらえないことに少しだけ気分が悪くなる。

「カーラは、仲間を助けた後何をする?」

 ショーンは自分については語らなくても、彼女について知りたかった。

 …ショーンは椅子をテーブルに近づかせて距離をほんの少しでも近くする。

「私…? ピチューノに戻って国を取り戻すわ、仲間と一緒であれば何年かで建物は戻るしきっと政治も元通りに――」

 カーラが前を見るとロウソクに照らされ、きれいに輝いてるショーンの瞳が彼女を見ていることに気が付く。

 それでも彼は目を離さなかった。

「本当に?」

 ショーンは聞く。

 カーラは目をそらして地面に落ちたままの酔っぱらいを見る。

「俺はジュコと、旅の途中に出会った。俺はもとは盗賊で、多くの人から金品を奪った」

 ショーンは自分の過去の一部を告白した。

 カーラは目を閉じて、コップを強く握る。

 すると――

「え?」

 カーラは目を開く、目の前には身をかがめたショーンがいた。

 しかし、ショーンは次の瞬間に自分の椅子に座った。

 カーラは確かに何かを期待してしまったが、口では到底いうことはできなかった。

 ショーンは顔を赤らめて酒を飲み続ける…


「どうした?」

 ジュコは二人を見てをそういった。

 一瞬ショーンと目が合ったが彼はすぐに周りを見回し始めた。

 アリカポル魔法学校の図書館で魔導士と勉強していたジュコのところに二人が来た。

「そろそろ寝にいこう」

 ショーンは周りを見回して、アリカポル生がいることに気が付いたのか手を振った。

 明らかによっているのがわかる。

「そうだね、すぐに行くよ」

 ジュコは言う。

「こんなこと勉強してるんだね」

 カーラは机の上にあった本を一本取って、見てみる。

「まぁ、お休み」

 ショーンはそう言ってふらふらになって図書館から出ていく。

「宿で待ってるわ」

 カーラもそういってジュコを残す。

 …何かあったのだろうか、カーラは目を合わせてこなければ、ショーンはドロドロによってたし。

 まぁ、ショーンは酒好きという可能性もあるが…

 ジュコはそう思ったが、あまり深く考えないようにした。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 アリカポルの国の中で、朝っぱらから道路をうろつく男がいた。

 青黒いジャケットに、革靴、小柄な体に、短く刈った髪。

 男は片手に酒の入った袋をぶり下げてふらふらと歩く。

「くそぉ」

 男は深夜に酒場にいた男だ、飲みつかれたのか、それとも追い出されたのか…

 まだ大人が仕事に行くような時間ではなく、太陽も上ったばかりで皆寝ている。

 それでも青黒いジャケットの男は起きていた。

 この世で一人だけだと思っていたのに目の前で若者3人が通り過ぎた。

 男2人に女1人。

 一人は緑のマントをしていて、茶色の長いブーツにくるくるの髪の毛、緑の瞳をしていた。

 緑のマントをした男の鼻は筋が通っていてきれいな鼻をしている。

 もう一人は旅人の茶色い服を着て、ボロボロのリュックに手袋。

 彼の顔は極めて普通でなにか決まった特徴はないが、白い髪の毛をしている。

 もう一人は魔女のような女、黒く、長い髪に腰にはハーブをぶら下げていて赤い唇に長いまつげがよく似合う。

 …

「今から登るのか…お前ら二人で行ってくれよ、下で見張りしてるからよぉ」

 緑のマントをした男が言った。

「二日酔いはあんたのせいだ、昨日あんなに飲んでなけりゃポル塔なんてへっちゃらなのに」

 魔女が言った。

「二日酔いでも上に登って手伝ってもらうぞ、鍵開けができるのはお前しかいない」

 白髪の男がそういった。

 すると青いジャケットの男は途端に気持ち悪くなり、道路に酒を吐き出した。

 それを見て三人は驚いた。

「可哀想だな」

 緑のマント男が言う。

 白髪の男は足を止めてからジャケットの男に近づく。

 魔導書をリュックから取り出し、何かを唱える。

「ベビ、ベビヌンカ」

 そういうとジャケットの男が突然酒場で飲んだ酒をすべて吐き出し、酔いは覚め、体が動くようになる。

 しかし男の口にはまだ苦い味が残る。

「ありがとうな」

 ジャケットの男は言う。

「どういたしまして」

 白髪の男はそう言って二人の元に戻ってポル塔まで歩いていく。

 酔っぱらいは後ろからついていくことにした。


「まず、ショーンがカギを開けてそれからカーラの魔法を使って上から下に飛ぶ。魔力は回復したから使えるだろ?」

 ジュコは二人に説明すると同時に聞いた。

「魔力は回復したわ、ポル塔上階から飛ぶのは簡単よ」

 カーラは答えた。

 三人はポル塔につながる長い階段を上る、しかし上るのは下りるよりも簡単なことではなかった。

「ちょ、ちょっと待てよぉ」

 後ろに取り残されたショーンが言った。

「なんで二日酔いの回復魔法をあんな奴に使ったのに、俺にはつかわないんだ?!」

 ショーンは文句ばかり言う。

「お前は自業自得だからだろ、あの酔っ払いもそうだけど他人を助けるのは善ってやつだろ?」

 ジュコは答えた。

「それもそうね」

 カーラは階段をのぼりながら言う。

 それからみんな黙ってポル塔のふもとまで歩いていった。

 息切れの中で少しずつ風が強まり、冷たくなっていく。

 アリカポルにかかっていた風を暖かくする魔法はここにはないようだ…


 ポル塔の木製の扉は見るだけで重たいとわかった。

 三人がその重たい扉の前に立つ。

 階段の途中にはさっきの酔っぱらいが三人の後をついていた、しかし三人は気づかないまま。

「今、行くからね」

 カーラは上を向いてつぶやく。

 彼らがポル塔の階段を上る前、宿にて…

 酒場と同じくらい薄暗くロウソクで照らされた部屋の中でショーンは酔っぱらっているのにも関わらずなぜか目を閉じることができなかった。

 それに気づいたジュコは体を藁のベッドから出して、足を地面に置いて話しかけた。

「寝れないのか」

 ジュコは聞く。

「俺たち、会ったばっかりだよな。」

 ショーンは立っていないのにふらふらする。

「それがなんだ」

 ジュコにはどこも変だとは思わなかった、一日でショーンと親しくしていたが、確かに、おかしかったのかもしれない。

「やっぱり、カーラを置いていかないことにするよ」

 ショーンは話を変えたのか、それとも酔っぱらってて変な質問をしただけなのか。

 急にカーラを置いていかない決断をした。

「…わかったよ、友達がいればいるほど伝説の本とのつながりも見えてくるかもしれないし。人助けをしながら大陸を回るのも悪くない。」

 ジュコはそう言った、もともと心のどこかでジュコはカーラを置いていくのは悪いことだと思っていた。

 しかし、早く旅を続けるには仕方ないと思った。ショーンがこの決断をしてくれてジュコは嬉しかった。

 

 そしてその日の朝。

 ジュコは魔導書を手に持っていつでも兵士とやりあえるようにし、カーラはすでに作られたポーションを腰に置いていた。

 ショーンは膝の近くにある短剣を抜き、マントの中に隠す。

「準備は、できてるよね」

 カーラは二人に聞く。

「もちろん」

 二人は同時に答え、そして重たい木製の扉を三人で押し始める―――

 

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