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伝説の本   作者: 勇気
アリカポル
4/13

アリカポルの雪

 アリカポルの山はラズバノ大陸の中で最も高く、そしてその山の上に作られるポル塔はどんな塔よりも高い。

 アリカポルの城はポル塔の近くで作られており、その高さゆえに雪に包まれており、マルザの塩のにおいのするか風とは違って、アリカポルには鼻を凍り付かせるような風が吹く。

 川は山の上から来ており、後ろから降りて、マルザの横を通り海に水が広がる。

 

「逃げ場はないぞ」

 橋の上でショーンとジュコは兵士に喧嘩を売ってしまった。

 ジュコはこのまま引き下がって橋を渡って戻れば撃たれると思った、しかしここで立ち止まるのもいい案ではない。

 その時だった、ジュコは後ろから誰かが走ってきていることに気が付いた。

 その足音は緩く、しかし確実に橋を蹴り上げ近づいてくるのがわかる。

「飛べッ!」

 走ってくる人は言った。

 その人はショーンとジュコをつかんで橋から飛び、奈落のように深い川まで落ちていく…

 落ちている。

 落ちていると風を切る音しか聞こえてこない、ショーンがパニックになって叫ぶのも聞こえる。

 しかし、あの人は誰なのだろうか。

 そんなこと考えている暇はない、今から派手に落ちて死ぬんだ!

 そうジュコは思った。

「短い間ながらもいい旅だったなぁ」

 ジュコはあきらめ、腕を広げて落ちる間に少しくらいはリラックスした。

「何言ってんのッ?! 死なないよッ!」

 その人の声が聞こえた、そういうとその人は何かを唱え始めると三人が宙に止まった。

 ショーンは下を見て震えている。

 ジュコは上を見てその人の正体を知ろうとする。

 その人は白い服に、黒髪、黒い靴を着ていて黒のベルトを重ねて三つつけている。

 ベルトにはポーションや、ハーブがつけられていて、白色のマントを着ている。

 ジュコにはわかった。

 この人は魔女だ。

 すくなくとも女性だとジュコは思っている。

 宙で回転し始めその魔女は体をピンとしてどこかに移動していく。

 ショーンとジュコの体も彼女の魔法のせいで一緒についていってしまう。

 ショーンを見てみると彼のズボンから何かが垂れていることが分かった。

「漏らしたのかッ!?」

 ジュコは大声を出してショーンに聞こえるように言う、風の音が強く、普通の声量でしゃべれば聞こえないからだ。

「漏らしたなんて言い方、俺には合わない。涙をした、のほうがかっこいい」

 ショーンはそう言ってズボンを抑える。

「魔導書のどこを見てもお漏らしを直す魔法はないよ、残念ながら涙にすることもできないね」

 ジュコは笑ってショーンをバカにする。

「てか、おまえだれだ?!」

 ショーンは無視して魔女に話しかけた。

 魔女は答えずにいた、少したって飛ぶことにも慣れてきたジュコたちだったがやっと地面に足をつけることになった。

 そこはアリカポルの裏山で、すでに少しだけ雪があり、冷たい風が吹いていた。

 ゆっくり地面に足をつけて、靴の底から地面の冷たさが伝わる。

 しかしショーンは喜んでいない。

 彼は明らかに寒さに耐性のない服を着ており、冷たそうにしていた。

 緑色の服をして丸まっているショーンをこのしろい景色の中で見るのも面白かった。

「ありがとう」 

 ジュコはとにかく先にお礼をした。

「ピチューノ人同士は助け合うのが普通よ」

 魔女は言った。

「ピチューノ人なのか」

 ショーンは驚いて彼女を見る。

「…私はカーラ。呼び方はカーラしか認めないわ」

 カーラはそう言った。

「俺らをピチューノ人だと勘違いしてるのか」

 ショーンは小声でジュコに話しかけた、魔女に、いや、カーラに聞こえないように。

「そうみたいだな、ただ、アリカポルに入るのを手伝ってくれるのかもしれない」

 ジュコも小声で言った。

「何」

 カーラは二人の”秘密のお話”が気に入らなかったようだ。

「何でもない、ありがとう」

 ショーンもお礼をした。

「アリカポルに入りたいんでしょ、私だってそう…多くのピチューノの仲間がポル塔に監禁されてるのはわかってるのよね? 助けに行くの、でも一人じゃあとてもできそうにないわ」

 カーラはそう言って手をさし伸べる。

「協力しましょう、ショーンの短剣とあなたの頭があれば簡単だわ」

 ジュコは思った。

 カーラはジュコのことをピチューノ人だと勘違いしている、ならば、ピチューノ人ではないということがばれてしまったら?

 この魔女に何ができるのか、ジュコはわからなかった。

 だからこそ警戒を怠ってはならない。

 ジュコはカーラの手を力強く握手した。

「ポル塔で仲間を救おう」

 ジュコは嘘をついた、ポル塔につかまっている仲間なんていなければ、まずまず行こうとも思っていなかったが今はそうするしかないようだ。

 ショーンも話に乗ったようでカーラと握手をする。

 ショーンは話には乗ったようだが、ジュコみたく、魔女を信じていない。

 何かがあれば首に短剣を刺し込む準備はできている。

「ただ、なぜ俺たちをそんなに信じる」

 ショーンは興味本位で聞いた。

「機転の利く人たちだって、橋の上で後ろから見てて分かったのよ」

 カーラはそういうとショーンは頭をゆっくり上下に振ってわかったという。

「ジュコ…俺の猟銃をどこにやった」

 魔女がすこしはなれて周りを見回す間にショーンはジュコに近づき、耳にささやいた。

「襲ってきたから捨てたさあんなもの、それに銃の撃ち方には慣れていない。方法はわかっても体が慣れてなきゃただのごみだ」

 ジュコはそう答えるとショーンは頭を抱えて落ち込んだ。

 魔女は背中まで届く長い黒髪に、しゃべるとちらっと見えた清潔な歯、黒い瞳、背が高く足が長い彼女のマントは自分を隠すように着られていたためか、いつも逃げているような人なのはわかった。

「あんたたちを飛ばすだけで魔力が尽きた。ここから徒歩よ。」

 …ジュコにはわからなかった、自分の中で魔女のことを”カーラ”と素直に呼べばいいのか、それかそのまま魔女と呼ぶのかを。

「わかったよカーラ、この糞寒い中で徒歩でてっぺんのポル塔まで行けってことだろ。その間にお前のことも抱っこしようか?」

 煽り気味にショーンは言った、彼は魔女のカーラと呼ぶことにしたようだ。

「文句言うなよ、もう助けてもらったんだ、さっさと行こう」

 ジュコはそういうと前に、上に進んだ。

「私は抱っこされたら歩かなくてもいいと思ったんだがな…」

 カーラはつぶやいた。

「期待しないほうがいい」

 ショーンは微笑むとジュコについていった、何でも影のようにジュコについていけば空から落ちる雪はジュコに当たり、ショーンには当たらないと思ったからだ。

 二人にカーラもついていく。

 少しずつ雪のつもりが多くなり、地面を踏むと穴ができた。

 目の前の景色も次第に見えなくなり、全てが雪で覆われていく。

「クッソ!! 半袖で来なければよかった、腕が紫色だぁ」

 ショーンはジュコの後ろでそういった。

「私はマントがあるからあんたみたいにはならないね」

 カーラは煽った。

「喧嘩するなって。」

 大雪の中でジュコが口を開けると冷たい雪の粒が口に入る。

「そろそろポル塔のふもとにつくはずなんじゃないのか? 前が見えなくてわからないんだ」

 ショーンはそういった、しかし前が見えないのは当たり前だ。

 だってジュコの後ろにいるんだから。

「ポル塔に閉じ込められた人は少なくとも20年は上で過ごすことになるの、牢獄の中に壁はなくて開いているから雪にさらされたまま寝て、起きる。アリカポルは一年中雪が降る国よ、閉じ込められれば指は凍り付いて、黒くなり、やがて落ちて死ぬ」

 カーラはポル塔について説明した。

「そこに仲間が閉じ込められたならもう…」

 ショーンは言い始めるとカーラが遮った。

「私の仲間はそんなに貧弱じゃないわ、雪国であるアリカポルでも余裕よ。」

 そう、自慢げに言った。

「…ならその強い仲間をさっさと助けないだな…」

 ジュコの眉は凍り付き、重たくなっていた。

 唇は紫色に変色し顔は雪でいっぱいになっていたが、それでもしゃべった。

 すると突然目の前に石の壁があった、それに気づかずジュコは頭をぶつけてしまう。

「目が見えないのか?」

 ショーンはジュコに聞く。

 ジュコは凍り付いた壁に手を当てて右に進むか、左に進むかを決めようとする。

 彼らは今、どこにいるのか、そこがポル塔の壁なのかもわかっていなかった。

「右よ、右に入り口があるわ。アリカポル人は全員右利きなの、本で読んだ」

 雪の中でも長い髪は風に振り回され、浮いていたのが見える。

 後ろを見るとショーンの緑の瞳が輝いていたのが見えた。

 全員自分の特徴があるというのにジュコには何もないように思えた。

 ジュコは別に背が高くなければ低くもない、髪をセットしていなければ流しているわけでもない、服はどこにでも見かける茶色の旅人の服に、ぼろ臭いリュック。

 盗賊でもなければ、魔導士でもない。

 …自分にはどこか”オリジナリティ”が欠けると思っていた。

「なら右から行こう」

 ジュコはそんな考えをぶっ飛ばして一言言って右に進んだ、もちろん二人はついていく。

 大量の本を読んでもジュコには”アリカポル人は全員右利き”という情報を見たことがなかった、カーラは相当特別な本を読んだのか、それとも嘘をついているのか…ジュコには到底わからなかった。


「嘘をついたわ、アリカポルの人は全員右利きじゃない」

 右に進むと、高い石の壁に行く手を阻まれた。入り口もなければ穴もない。

 カーラはそういうとショーンは彼女のかおをよくみた。

「非常にうそつきのにおいがするな。」

 そういって周りをクンクンと嗅ぎ始めると鼻に雪が入ったみたいで、両手で鼻を温める。

「適当な判断でもあってるときはあってるでしょッ!? ちょっと間違えたくらいでそんな――」

 カーラはショーンの一言にイラついたのか、腹を立てて怒鳴り始めた。

「まぁ、まぁ、落ち着けよ。大丈夫だ、左に進もう、それだけだ」

 ジュコはそう言って左に歩き始めた。

「やっぱりな」と、最初にカーラが嘘を告白した瞬間にジュコは思った。

 今度はみんな黙って左に向かう。

 30分くらいでまた壁に当たった。

 ショーンの指は凍り付く寸前、カーラの髪の毛すらも凍って宙に固定されそうになっていた。

「また壁かよ…」

 ショーンは自分の指を舐めて温めようとしながらそう言った。

「汚い…」

 カーラのつぶやきが吹雪の中でも聞こえた。

「アリカポル人は右利きなのかもな」

 ジュコは言った。

 なぜかというと壁に触ったらよくわかった、もろいのだ。

 右の壁に比べて少しもろい、魔法を当てればこんな壁くらいすっ飛ばせる。

 ジュコはそう思い魔導書を白くなったリュックから取り出しページをめくる。

 笛を作る魔法、壁を作る魔法、植物を成長させる魔法、そしてやっと見つけたのが空気を飛ばす魔法。

 少し語彙力が足りないかもしれない、説明しよう。

 目の前にある空気に衝撃波を送り、前に飛ばす。

 強さは使用者の経験と、使う魔力によって違いが出る…

 アールフォルテ、魔法の名前だ。

「ジュコ、それは私でもろくにできないものよ」

 ジュコの魔導書を覗いて、彼のひたすらに見ていた魔法にカーラは気が付き、口をはさむ。

「いいだろやらせれば。」

 ショーンはカーラにそういうとカーラは一言「わかったわ」と言って後ろに引いた。

「頑張れよ…」

 ショーンも魔法の強さに気が付いたのか、カーラと一緒に後ろに引く。

 ジュコは壁に手をかざし、魔法を唱える。

「できると思うの? あの子供が?」

 カーラは隣で丸まったショーンに聞いた。

「本を読んで育ったやつだ、実践の経験はないが知識はある…これは知識でどうにかなるものでもなさそうだがな。」

 ショーンもそう期待はしていなかった。

「アールフォルテ、アールフォルテ、アールフォルテッ!!」

 ジュコの声が聞こえるが今のところ壁は吹っ飛びそうにない。

「私の魔力が尽きていなかったらここでファイアーを唱えたんだけど…」

 カーラはショーンに言った。

「ファイアー? 火を作る魔法が存在するのか?」

 ショーンはきいた。

 カーラはショーンを見て頭を上下に動かす。

「ならそれをジュコに最初っからやらせればよかったじゃないかッ! こんな寒い思いをしなくても―――」

「違うわよ、魔力を温存してたの。いざというときに使えなければおわりなのよ?!」

 腹を立てたショーンにカーラはそう言った。

「チッ」

 ショーンはまだわかっていなかった、だから舌打ちをした。

 カーラにはジュコが成功する見込みがないと思っていた、膝まづいて何かを雪の地面に置く。

 丸いグラスと、ベルトについたハーブを何種類かとってからグラスに入れる。

 液体が欲しいとカーラは思った、瞬時に思いついたのがこれだった…

 雪を取ってグラスに入れる、手から弱いファイアー魔法を出す。

「できるのかよ」

 ショーンはそれを見るとこういった。

「でもあなたたちを温められるほどではないわ、それにすこししかできない」

 そういうとカーラはポーションの続きを作る。

 ファイアーで雪を溶かし、丸まった葉と小さい葉の入ったグラスを熱し始め、雪は液体になる。

「ここの新鮮な雪ならいい水ができるのよ」

 カーラはそう言って、緑色の液体を、いやポーションをもってジュコに近づく。

 ジュコの背中をトントンとたたき、振り向くのを待つ。

「今魔法を――」

 ジュコが振り返って言おうとするとカーラは彼の口にそのポーションをぶち込んだ。

「うごッ!?」

 ジュコは驚いてもきっちり飲み込んだ。

「何してんだッ!? おいッ!?」

 ショーンは止めようとカーラの腕を握ったが、ジュコは飲み干してしまった。

「何飲ませた」

 ショーンは聞く、ジュコは前で咳をして首に手を当てている。

「一時的に魔力の力そのものを高めるポーション、回復はできないけどこれでちょっとの間はマシな魔法が撃てる」

 そういうとカーラはジュコのほうを向く。

「もう一度やってみて」

 カーラにそういわれてジュコはまず右手を前に出し、その後に左手を前に出そうとするが――

 バァン!!

 右手だけで、そのうえ魔法を唱えずにアールフォルテが発動された。

 石でできた壁は崩れ、先に進めるようになった。

 壁の先は石の地面に足跡が残っており、その先に階段があった。

 きっとアリカポルの街に続く階段なのだろう、すぐ右にはポル塔の入り口があった。

「すげぇ、片手で…」

 ショーンは見る目を疑った、片手でこんなに強力な魔法を唱える人を見たことがなかった。

 カーラも隣で驚いているように見えた。

「…ポーションの効果があってもあれくらい強くなるはずがない…もとから相当魔力がなければ…」

 カーラは言った。

「実践経験がないだ」

 自慢をするように、ショーンはそう言って壁を越えた。

「ポーションを複製すればよかった、あんなに強い飲み物、これからも使えるはずだというのに」

 ジュコは口の周りを腕で乾かしてそういった。

「味は悪かったが結果はよかった」

 ジュコは続けた。

「よかったわね、あとはアリカポルでハーブを買いなおさなきゃ、もう何もないわ」

 カーラもそういってジュコを残し壁を越えた。

「…俺も行くか」

 ジュコはとうとう、アリカポルに踏み込んだ。

 ピチューノとの戦争、ローリオンの陰謀、そしてラズバノ大陸の秘密。

 同時にこれらすべてに、踏み込んだ…

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