再会
「…ショーンのところに戻りましょ、デルモアも修理が終わってると思うから」
そこはまだ隔離されていない中心区だった。
機械人たちが動き始め、そして壁を立て始める少し前。
市民たちは家に避難し、”テロリスト”たちの攻撃から身を守ろうとしていた。
「デルモア? 誰だ」
「…機械人よ、ボロボロの服屋の中に修理されてる機械がいたでしょ、私を守ってくれたデルモアなの。彼がいなくても、勝てたとは思うけど…彼のおかげでショーンの止血を――」
「そうか、ショーン…」
「死んでないわ」
「…本当に?」
「本当、戻ればわかるから」
中心区の天気は曇りだった。
とりどりだったはずの建物たちは妙に色をなくし、全てが灰色と、うすい、茶色に見えた。
空にも例外はなく、同じく灰色に浸食された軽い青色だった。
地面を汚していた偽物のジュコの血はなく、ただの通りになっていた。
カーラは立ち上がり、そしてすでに立って、待っていたジュコの前まで行くと
ジュコは壁から背中を離して、カーラについて行くように歩いて行った。
「…先生と呼べばいいのか」
「どうでもいいわよ」
ジュコの質問を、カーラは軽く笑って返した。
「本当にごめん、いつも俺のせいで迷惑を…」
「大丈夫よジュコ、旅はまだまだこれからだから。それに、私は助けてもらった恩があるの。あの、ほかの奴隷たちと一緒にいた時”助けないで”って、怒鳴られたじゃない? 私もイライラしてたの」
「…?」
「なんで逃げるチャンスがあるのに、つかみ取らないんだろうって! 奴隷の印だって隠せるし、肌ごと削ぎ落せれば…」
「…」
ジュコは、足を止めて申し訳なさそうにカーラを見た。
「だから、あんたが助けてくれた時ものすごくうれしかったけどさ。気付いたの、あんたもイライラしてるって、あいつらに恥を…かかせたかったの。あんたをバカにするためにバーサークを使ったわけじゃないの」
「でも、その光景がさ、異様に面白くて」
カーラはどんどんしゃべっていく。
「とにかく…ショーンがあんたを捨てない限り、私もついて行くから」
「ありがとう、カーラ」
すると、カーラも振り向いて、店の方向へと歩いていくが、ジュコは足を止めたままだった。
「どうしたの」
カーラもまた足を止めて、彼の方を向いた。
「なに? まだ言いたいことでもあるの? まさか、感動で泣いちゃ――」
「泣かないさ」
「…?」
「もう泣かないさ、迷惑をかけないから。ほぼ知り合ったばかりのカーラに、世話になりすぎた気がするんだ。どれだけつらくても自分で立ち上がるから、もう泣かないって決めた」
「嘘はよくないよ、ジュコ」
「本当さ、もう疲れたんだ。ショーンと、君みたいに俺も立派に戦うさ。授業を続けて魔法も使えるようになるから。どれだけすごいヤツが俺たちの目の前に出てきても俺も戦うんだ」
「…」
「子供って言うのは、急に成長するものなのね」
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「できるだけのことはしましたが、えー…部品を何品か、変えなければまず動きそうにありません」
モルデウスは振り返って、ボロボロの服屋の入り口に立つジュコとカーラを見てそう言った。
「デルモアは意識を取り戻せないの?」
カーラは聞く。
「戻せません、部品を変えない限り。アダルマは非常に変な構成になっていまして、中心区は主に働く機械人たちの休憩場や、家になっています。それと対して、西区の海近くの残骸たちや町はとても盛んになっています、商業も、全て。マグロさんは中心区を抜けて壁の近く、東区の屋敷に住んでおります」
「マグロ?」
カーラが聞き返すと、今度は地面に横たわったショーンが目を開けて、一言放った。
「機械人の修理をする人だ。俺も聞いたことがあるが、実際は行ったことない。俺の家は南東区にあるから、近いのは確かだが、薄暗い地域で子供の時から近寄りたくはなかった」
「起きてたのかショーン!」
ジュコは走ってショーンに近寄った。
「腕を失ったがな」
止血された、何もない腕を見せられて、ジュコは一度恐怖するように息をのんだ。
「…機械人を修理する人なら、ショーンに新しい腕を作ることも?」
「もちろんデス」
機械人のモルデウスはジュコの方を向いて言った。
「ですが、無線から連絡が届いています」
モルデウスがまた、何かを言い始めた。
「連絡? なんのことだ」
ショーンが頭を上げて、モルデウスに聞いた。
「たった今から中心区に緊急警報が鳴っておりまして、閉鎖されています。あともう少々で大量の機械人たちが中心区を抜ける手前の道路に、壁を作り始めます」
「は?」
カーラはデルモアを調べていた途中、声を出してしまった。
「どういうこと?! 中心区から出れないってことなの?! それに警報なんて鳴ってないわよッ!」
「そういうことになります、警報は機械人にしか届きません。人間の避難は人間の方で勝手にやってくださいとの命令です。警報が静かになった時点で機械人たちが動き始め、そして中心区を閉鎖し始めています」
「マタナカたちも残ってる」
ショーンは立ち上がろうとしたが、失った片腕を使おうとして、落ちた。
「何してんの!?」
カーラはそう言って、ショーンに駆け寄った。
「…腕の感覚があるんだ。少しだけ…」
「……」
ジュコは黙っていた。
状況をしんじられない以上に、彼はマタナカたちに怒りを感じていた。
もう諦めるという感情はなかった。
仲間は傷つき、目の前はすべてゆがむようだった。
復讐という炎がまたジュコを包み込んだ。
あの時、ヤトを殺したとき――
オルフェンを逃がした。
でも、あいつも中心区から出ることはできない。
「ちょうどいい。中心区から出ることはできないのであれば、マタナカウォリアーズのやつらも、逃げることはできない」
ジュコは立ち上がったまま、前を見て、そういった。
「…やるつもり、ジュコ?」
「中心区に閉じ込められたのは、運命なのかもしれない。あの”糞野郎どもの頭を地面たたきつけろ”っていう、神の命令かもな」
「…ジュコ?」
ショーンは、あんなに怒りを覚えたジュコを見たことがなかった。
これまでに、ジュコは平和主義でいた、そのギャップが、ショーンを驚かせる。
「モルデウス、マタナカは何人残ってる」
カーラはショーンの隣に座ったまま、頭を上げて機械人に聞く。
「知りません。何人殺しましたか?」
「操りのヤトが一人目」
ジュコが言った。
「魔法使いのドルガ…二人目だわ」
カーラが、地面にしみこんだ敵の血を見ながら言った。
「侍のセイランで、三人目だ」
ショーンが目を閉じながら言った。
モルデウスは静かに指を数えてから、上を見て、そしてカーラの方を向いた。
「残り二人です。マザーと呼ばれた女性、ミレア。と、力と破壊の狂信者オルフェンでございます」




