コロシアム
ミツルは武器屋の裏口から抜けて大通りに出た。
「人生は選ばれた、敷かれた道を歩むだけではないと私はそう思うんです」
すると、カフェのようなお店の左隣に大量の観客たちがだれか、箱の上に立つ男性を囲って淡々と話を聞いていた。
男はところどころ青色に響く何かをもって、大きく響く声で演説をしているようだった。
「それぞれの”人”に、自由の意思が、必要だと思うんですッ!」
左手を上にあげて、何かをつかみ取るように言った。
「観光客には飽きたッ! 大通りを汚すゲロと、酒を見るのに飽きたッ! 自由、それは選ぶ自由、私たちはアダルマから他国人を追い出すべきだッ!」
男の隣には、ダザマ・クロイと書かれた旗があげられていた、
「今こそ反逆の時だ。立ち上がれ、我々の国のために、我々の文化のために――」
観光客が特に多い大通りで、するような演説じゃなかった。
道行く人々を敵にするようなことだった。
「私の名前はダザマ・クロイ。アリカポル出身の貴族だ、あなたたちと同じ身ではないが、気持ちは十分に理解し、その上で皆が黙っているのをみて、部外者ながらも口を閉じたままではいけないと思ったッ!」
「清き一票、その一票で私たちアリカポルは自分たちの世話もできていないアダルマの政府をぶち壊し――」
「そして、アダルマのための、アダルマの国を、造り上げます」
クロイとよばれた男の演説が終わると、人々は手を上に振って、まるで「バイバイ」と、お別れをするように道を開けて、クロイを通させた。
「ありがとうございます」
男はミツルに近づいてくると、そうとだけ言って裏道に入っていった。
暗闇に飲まれていく男を、手を振っていく人々が見た。
「雑な演説のくせにようかっこつけるな」
観客たちの中からそう声が聞こえた。
ミツルは振り返って、解散していく人々に目を向けた。
「外国人はアダルマを支配したいんだ」
今度は民衆の声に飲まれた女性のつぶやきが聞こえた。
「冗談じゃない。アリカポルはピチューノを滅ぼしたくせに」
全員が、手を挙げて、彼を支持するような態度をとっても、裏では嫌み、嫌っていた。
そしてついには、クロイが立っていた箱だけが残り、そして人はいなくなった。
ミツルは、なんとも言えない気持ちで大通りに出て、コロシアムの方向へと歩いて行った。
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背の高い男だった。
体は骨が浮き上がるほどにやせ細っていて、まるでいつでもその繊細で、白い肌を突き破れるようだった。
薬と、死の体臭を周りにまき散らすその人物の腕も、少し動かすだけで泣くように骨を鳴らす。
胸にはみっともない毛が生えいていて、腹にはまるで何も入らないようだった。
肋骨はくっきりと形が見え、何もない腹の異常さを掻き立てる。
男の顔も頬の骨が突き出しており、唇は薄く、そして紫色だった。
太陽を浴びたことのないその完璧な白に近い肌に、青い目が目立つ。
髪の毛は整えられていなく、額は非常に広かった。
爪は常に伸ばしっきりにしていて、内側が黒かった。
男は何も言わずに、裏通りを歩いていく。
アダルマも、結局他国も、全部腐っていると信じていている。
周りを憐れむと同時に憎しむような目で見つめて、民衆に目を向けられている時だけは自分の体を隠して太陽に出る。
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コロシアムはキャピタルの残骸に包まれていた。
残骸から想像できるキャピタルの風景は、高いビルたち、天に手を差し伸べようとして失敗した人類。
だけど結局は過去を敬拝し、そして尊重する。
罪なくせしてよくもこんなことができる。
鉄ですべてが作られたわけじゃなかった。石の積み上げと、魔法がまだ存在しなかった時代から人々の労働によって生まれたキャピタルだった。
建物同士全てがつながりあっていた、地面を歩く道路はきっとなかったんだろう。
太陽までとどく建物を作っても人々は影を選んだ。
しかし、抹消された文化だった。
現在の人々は、過去をこうやって、表面上でしか知らない。
だから伝説の本は、全てを変える。
伝説の本が、古代の空いた歴史を埋めることができる。
コロシアムの入り口には、やせ細った男性がいた。
ミツルはその男性に、端まで呼ばれて話を聞いていた。
「…申し訳ないですけど、だれですか?」
男がコロシアムと、伝説の本、そしてアダルマについて話している途中、ミツルが遮った。
「クロイさ。アリカポルの、ワイトの息子クロイだ」
クロイは、骨と神経が浮き上がる手をミツルに差し伸べた。
「…俺の後をついてきたんですか?」
ミツルは正直あまり状況を気に入ってはいなかった。
クロイは、暗闇で見ているととても不気味な男性に見えた。
そんな人物と突然また会うのは、あまり気分はよくなかった。
「アダルマはつながりが多い。私はトングの友達だ、コロシアムまで向かっているのを見て心配になった」
「政治家と友達?」
「政治家とは違う。私はただの宰相だ」
「宰相?」
「アリカポルの王、カイロ様の宰相だ。ここでは権力はないがね」
「トングは君のことを心配しているが、彼にはやはり不器用なところがある。コロシアムの試合に出るのかい?」
クロイはローブから手をまた出して弱くミツルの腕をたたいた。
「…出ようと、思ってましたが…」
ミツルはまるで言いたくないようにつぶやいた。
「思ってた? 行かないのか」
「お金が必要なんだ、行くしかないってわかってるけど…」
「怖いか」
「…」
「大丈夫だ、新しいことをするには必ず勇気がいる。私も、はじめて王城で仕事ができた時、感動と同時に脚が震えた。あぁ、今でも覚えてるさ、ガクガクだったね」
クロイは軽く笑って、ミツルを慰めた。
「コロシアムと、王城は確かに違う。でも、唯一違わないところがある……殺されることだ。私はいつでも吊り首になれた。いつでも矢をうたれて廊下で死ぬことができた。王が私を気に入らないのかもしれない、ヒットマンに狙われるかもしれない。それなら、コロシアムは何だ? 正々堂々と勝負じゃないか。王城には、言葉が通じる人間しかいない。そして、通じるからこそ、最も汚れる。強くなりたいなら剣を握れミツル」
「トングの願いか?」
「道路の真ん中で腹筋していたのはお前だミツル。トングじゃない。覚悟があるのならいけ、私は私の方法で応援してやる」
ミツルにそういってから、またニヤリと笑みを浮かべた。
「入り口は君の後ろ、廊下をまっすぐ行ってから左に行くと、職員がいるから。そいつに話しかけてからほかの戦士たちと準備をしにいけ」
「わ、わかった」
振り返って、廊下をよく見てから。
つばを飲み込んで、
前に進んだ。




