中心区を避けて
「剣を渡せ、つるぎ」
ラビと呼ばれた男は半分に割れて倒れたテーブルから立ち上がり、手をバーテンダーに差し伸べてからそう怒鳴った。
地面に横たわっていてもわかるほどその口からは酒の嫌なにおいがする。
脚を前に出してテーブルを抜けると、地面まで届くロングコートも揺れる。
「ア、アノ、ベツニ、ベツニケンカ…」
「別になんだってぇ?」
ラビがそういうと、彼に手渡されたのは腐りかけの、剣だった。
刃の部分には”聖剣”とペンで書かれている。
彼が剣を振り回そうと腕を上げた瞬間、窓の方からトングが指示をだした。
”右にいけ”
と、両手と体を使って示している。
ラビが剣を木製の床につっさす前にミツルは横に体を回して、回避をした。
「あっぶねぇ」
と声を出す前にラビは床から剣を外して、その衝動で剣を上にあげて後ろに何歩か下がる。
剣の重さのせいでバランスを崩し、剣の先で天井に絵を描くようにひっかいた。
「青は俺の色だぁッ!」
男はそう言って剣を下に落とそうと一気に腕を振ると、天井のランプの線が切れ、彼の頭に当たる。
剣を落として床にまた落ちる男を見て、酔っぱらいたちがミツルを睨みこんだ。
剣を振るう馬鹿がいないおかげで、彼らは自由に暴れまわることができる。
違う言葉で言えば、ミツルは集団リンチにあう。
「ラビ・ケンゴーのすごさを知らないガキは…ッ! ここで一発やられていろ!」
太った男が一気にミツルの方に突進してきた。
片手に酒のボトルをもって、汚れたタンクトップの腹でミツルを地面に押しつぶす気だったのだ。
とにかく助けを求めてミツルはまた窓の方向を見たが、トングはどこにもいない。
ジャンプして、ミツルに飛び込むデブを回避するためにミツルはカウンターを蹴りつけて床を滑り、回避した。
疲れて過呼吸になっている間にもう一人の酔っぱらいがボトルを投げつけてきたと思ったらミツルの顔にかするだけであたりはしなかった。
バーテンダーが今度はカウンターを超えてデブを踏みつけてからボトルをミツルの顔にぶち込もうとしたが、ミツルは男の脚を強く蹴りつけてボトルを奪った。
「武器はダメだッ!」
バーテンダーが高い声で脚を握って痛がっている間にもう一つボトルが飛んできたが、ちょうどバーテンダーの肩に当たって割れ、酒が彼の服にしみこむと同時に破片が刺さる。
ミツルは逃げなければならないと思って入り口に向かったが、そこには剣を構えたラビ・ケンゴーが待ち受けていた。
「残念だな」
男はそう言って、子供に剣を振るうと、彼の腕と胴体を切り捨てる前に、錆びた剣は当たると砕けた。
「なんだとッ!?」
ラビが声を出して剣を睨みつけていると、ミツルは手に持っていたボトルで彼の頭をなぐりつけた。
そのまま倒れるラビと、疲れ切った酔っぱらいたちを後にミツルは道路へ逃げ込み、走った。
気が付くと、隣についてくる人影がいた。
ミツルが横を向くと、トングは彼に手で挨拶をした。
驚いて足がもつれ、躓いてしまい、そのまま転がり落ちる石のように地面に衝突した。
トングはその目の前で脚を止めて、倒れたミツルにこう言いつけた。
「いい修行だッ! 最高だッ!」
「はぁはぁ…」
「これからは毎日酒場に行って修行をするんだミツルッ!」
「いやだよぉ…」
「修行がしたいんじゃなかったのか? 強くなりたいという願いはどうした? 根性を捨てたかッ?!」
「ただの中学生だよおれ…無理だぁよ…」
「もっと過酷な修行が欲しいか?」
「過酷だとっ!? 無理だ、ムリムリっ!」
「よし、ならついてくるんだミツルよ!」
「いやだよぉっ!」
「さらなる境地に足を踏み入れて、自分の限界を超えてから人は強くなるッ! お前が教えてくれた、お前の国にあるデッドリフトとかもそうなんだろうッ!」
「デッドリフトは関係ない! 最近ネットで見ただけだから」
「ネット?! なんだと、縄がデッドリフトをするのか!?」
「トングっ! あんたが言ってることはさっきからずっと暴論だ!」
「正論と暴論の見分けは簡単だ、相手を黙らせられるかどうかだッ! で、どうだ、お前は今黙ってるだろ?」
ミツルは立ち上がって、トングが貸してくれたお金を彼の胸に突き出した。
「一パヤも使ってない。返す。もうあんたの家にも要はない! 自分でこれからは生き残ってやる」
「知らない街で? それこそ暴論だ」
「暴論の意味わかってないでしょッ!」
トングはミツルの決断を鼻で笑ってから
「今夜戻ってくることくらい知ってる。あんたは一文無しのガキだ! 奴隷商人に見つかって売られるか、野垂れ死ぬぞッ!」
「どうでもいいっ!」
トングに背中を向けてミツルは去った。
両手のこぶしを握って、地面を強く踏みつけながら歩く。
「へっ」
トングはそう笑って、同じく背中を向けてからポケットからクリスタルを出した。
そのクリスタルは紫色のモノで、よく光る。
「今逃げられた」
トングがそう、クリスタルに向って言うと、クリスタルの内側から声が響いた。
「残念だ。ラズベリ様が喜ぶとは思えない…」
「監視は続けるから問題はない。そっちはどうなんだ同志」
「今、マニーとポーカーの試合をしているんだ。暇で暇でしかたなくてね」
「そうか…ほかの裏切り者たちは?」
「それも問題ない。他の国の者たちも徐々に計画を進めている」
「ならよかった」
トングはそう言って、クリスタルをポケットにしまった。
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「ふん! 俺だって生き残れるさ、全く知らないところでもね」
まだ昼だった。師匠だと思っていたトングと別れて丸1時間もしない。
「必要なら石だってくうさ! 人間の歯はダイアモンドよりも強いって言うしなぁ!」
「そうしたらアメリカ人みたいななんでも食べる人っていうイメージが付いちゃうかな」
「いや、ダメだ。イメージじゃない、俺は全く知らないところで目が覚めたんだ! イメージじゃなくて生き残りを優先しなくちゃ!」
すると、暗い裏通りに入ったままだったミツルは、先に光が見えた。
「あ、商店街かな。人と出会えるかも、なんならバイトもできる…かも!」
彼はそう言って、小走りで光まで行くと
そこは確かに商店街――
大量の商人たちと客が集まり、政治家が演説をし、芸をする人もいる。
「よってらっしゃいみてらっしゃい!」
商人のテントの裏からミツルが現れ、商人に不思議な顔をされたがそのまま道路に出た。
「すげぇ、東京でもこんなにエグイ場所なかったぞ」
圧倒的に高い建物たちの間には縄で線が引かれ、そこには服がつるされていたり、乾かされていたりしていたし
窓には女性と男性が外を眺めていたり、女性が下の客さんたちに挨拶をしたりしている。
地上では、財布を出そうとしてポケットに手を突っ込むがスられたと気が付く観光客
変なクリスタルを売りさばく商人たち
変な格好のグループに、機械人たちも買い物をしている。
生き生きした場所で、ミツルは見たことがないほどの人の量に圧倒された。
テント同士の間には看板たちが置けれ、それぞれ方向、道の名前、場所、建物の名前などといろいろ書かれていた。
その中にもミツルの気を完全に奪ったのは”コロシアム”だった。
「あの、コロシアムってなんですか」
テントの中に座って緑色のフルーツを売る商人に話しかけた。
男は人々の熱気と太陽光で焼かれるテントの暑さに耐えられないみたいで、上半身を脱いでフルーツたちの片付けに値段の確認をしていた。
「コロシアム? ここまっすぐ行って右だよ」
「いや、そういうことじゃなくて、コロシアム自体をしらないんです。何をする場所なんですか?」
「…え?」
「え?」
「キャピタルの残骸に入ったところにあるよ」
「だから、何をする場所なの」
「…ふざけてんのか?」
「いや、ふざけてないって」
「戦士たちが戦う場所に決まってるだろう。賞金も出るんだ」
「申し訳ないです、ありがとう」
ミツルはそう言ってテントを離れようとすると、商人に声をかけられた
「買わないのか!? カイシャ! とってもおいしいカイシャフルーツだよ!」
「だいじょーぶでーす!」
ミツルはそう叫んで、とにかくコロシアムに向かった。
賞金が出るなら、見る価値はある。
賞金が出れば、ミツルは食っていけるし、それに生きていける!
人々の群れの中を抜けてミツルはコロシアムと呼ばれた場所へ向かった。




