銃を向けてみて
「子供を殺したんだ」
大量のジュコたちの間から、また声が聞こえた。
カーラは黙って周りを見渡した。
「それから、子供から魂を奪うように…なにかを、体に吸い込ませたんだ」
ジュコたちは歩くのをやめないまま、音を立たなかった。
「命のない物を、複製したんだ。俺の力で彼の…精神を。長い間考えても、その回答しか出てこなかった。歩いて歩いて、考えても、俺の中にあるものは全部二重に見えて混乱する」
「あんたはいつも自分の中で何かと戦ってるように見える。理想の世の中がそんなに違ったのか、ジュコ? 優しい世界ばかりを考えて、そのギャップに驚かされたか、ジュコ」
カーラは、目の前に頭を潰されたままのもう一人のジュコを見つめながら言った。
まるで話し相手が、死んだ彼かのように。
「驚かされたよ、正直に。殺したくないのが現実なのに、殺さなければならないのも現実なんだ。どうしてもやりたくないのに、どうしても体がもたないとわかってるのに、悪いことを飲み込んでそのあとすぐに吐き出すんだ。まるで病人だ」
「子供を殺したの」
カーラは、質問をした。
「殺した。子供の頭に銃弾を6発埋め込んだ」
「子供の名前は、わかってたのか」
「…孤独の、ヤト」
「…」
「ジュコ、これからあんたは何がしたいの」
カーラは立ち上がって、ジュコたちと視線を合わせた。
彼女が同じ土俵に立って、周りを見回すとわかった。
全員が彼女を見て、涙をしたが、その涙は赤く濁ってすぐに蒸発した。
全員の視線が彼女に向かったのにも関わらず、何も怖くはなかった。
少し、憂鬱だった。
なんだか、胸が締め付けられて、息が苦しくなった。
「みんなを救えるヒーローになりたかった」
ジュコたちの間から、また声が響いた。
空は灰色に、色をなくした。
「私…嘘を、嘘をついたの。ジュコ…」
「なんの」
「あのさ、奴隷の、子供を養護施設に入れた話をしたじゃない」
「保護してないんでしょ。二人のことだから、予想はついてた。さすがに馬鹿じゃない」
「あぁ、よかった……」
彼女はそう、一言言ってからジュコたちの間に割り込み始めた。
「ジュコ! ショーンのところに戻ろう、もう大丈夫だから」
「諦めたいんだ、もう」
「そんなこと言わないでさ、ヒーローになりたかったんでしょ。なら今からでも」
「今の俺を見てみろよ、カーラ。今の、今の俺を見てみろよッ!」
ジュコたちの視線が一度に変わると、全員がまるで苦しむように、地面に落ちた。
一人だけ、静かに、音を立てずにもがき苦しむジュコたちの上に立っていたのは、一人のジュコだった。
腰のガンベルトには二つの銃が置かれ、シャツは赤く濁り、長く、茶色いズボンはボロボロだった。
ブーツの表面の返り血は灰色の太陽に照らされると反射した。
血の手でかき上げられた赤い髪に、目から、額までに広がる赤色。
ジュコはカーラを、怒っているように睨みついているわけじゃなかった。
目は確かに、殺すような威圧的な目だった。でも、それでも、彼にそんなつもりはないとみてわかった。
「血にまみれた化け物だろう」
「化け物なんて言葉はあんたに似合わない」
彼は、ジュコたちの死体を踏みにじっていくと、踏まれたジュコたちは途端にいなくなり、本物のジュコが通った道を開ける。
「よく見てみろよ」
カーラに近づいて、そういった。
一歩も動かず、カーラはジュコの威圧的な態度に立ち向かうように彼を見つめた。
「みてるさ」
「もっと見ろよ」
「みてる」
「もっとだ」
「みてるって」
「もっとみろッ!」
カーラはジュコをビンタした。
「あんたは何をするの、これから何がしたいの。なんで私があんたを見なきゃなんないのッ? 見られたいなら自分で自分を見てみなさいッ! 復讐がしたいんでしょ、ショーンの腕を斬ったやつをっぶち殺してやりたいんでしょ、あぁ、それなら叶ってるわよ。セイランは死んだ。ならなに、ちがうやつを殺したい? 殺せよ、ヒーローになるにはもう遅いんでしょ? 弱いんでしょ? なら最強にかっこいいヒーローじゃなくて最高に胸糞悪い悪役になってみなさいよッ!」
ジュコは、彼女を見つめた。
「泣いてばっかで、諦めたいとかほざいて、何もしてないのに?! ばっかじゃないの? 本当にばっかじゃないの? 疲れたとか弱音ばかり吐いて強くなれると思ってんの? 乗り越えられるとでも思ってんの? へへへへ!!! あぁ、そうよ、大間違いよ、あんたみたいなガキは一度本物の痛い目をみて、怒鳴られなきゃわかんないのよ、馬鹿だからッ! でも結局怒鳴られて痛い目にあって立ち上がらないの? 立ち上がるためにやられたのに女の子みたいに文句垂らす?」
驚いた顔で、女性を見つめた。
「なら死ねよッ! 諦めろよッ! 生きる価値もねぇよそんなやつはよッ! とにかく立ち上がって立ち上がって戦えよ、戦ってみろよ私の目の前でよッ! ジュコ、あんたは弱いわけでもなければ勇者気取った弱虫でもないの、あんたは戦えるの、自分の独特な方法でだけど戦えるのよ。図書館育ちの坊ちゃんなのに簡単なことにも気づけないまま”諦めたいでーす!”だとッ!? ぶっ殺されたいんでしょ私に」
そんな罵倒だらけの言葉で、世界の空が色を変えるはずがなかった。
でも、ほかのジュコたちは確かにいなくなった。
存在しない大通りに残されるのはジュコと、カーラだけだった。
「出して。ショーンのところに戻るから」
彼女はそうとだけ言うと、次に瞬きをした瞬間に地面に横たわっていることに気が付いた。
目を覚ますと、ジュコは建物の前に背中を預けて立っていた。
「マタナカウォリアーズという、ふざけた名前のやつらのメンバーを殺した。ヤトという子供だったんだ。ヤトは精神を操る力を持っていた」
ジュコがそういう間、カーラは頭を抱えながらゆっくり立ち上がる。
「俺は複製の力で、その操りの力を、複製し、自分のモノにした」
彼は、彼を見つめて立ち尽くすカーラを見てから続けた。
「悪役なら、ヤトだけじゃなくて全員殺すと思うんだ。復讐なんかじゃなくて、もっと生々しい形で」




