不必要な叫びに
「…ジュコ?」
カーラは後ろを向いて、ジュコがいないことに気が付いた。
「……」
眉間を寄らして、彼女はショーンを何とか抱き上げようとしたが、男は彼女には重すぎた。
力が足りないので、ショーンを運ぶために助けを呼ぼうとした。
まず最初に走って服屋まで戻った。
デルモアがドルガをもって固まったままだった、燃料不足なんだろう、それに胸には大量の穴が開いている。
何が起きたんだろうか、あの女は、デルモアが殺したのだろうか?
カーラはとにかく一度デルモアを置いて店の奥に入ってから、会計用の機械人(34番)を発見した。
戦闘から逃げて隠れていたらしく、角にうずくまって震えていた。
「起き上がれ」
カーラは小声で言った、声が震えていたが、それでも強く、相手を威圧しようとした。
機械人は自らシャットダウンを試みると、カーラは走って機械人まで駆け寄り、胸に足をつけて腕を引っ張った。
「引きはがしてやるッ! シャットダウンしたら引きはがしてやるッ! 起き上がれって言ったんだ糞の塊目がッ!」
「ハイ! ハイ! 起きました、起き上がりました、パーツに支払うお金がないです御やめ――いたたたたたたたッ!!!」
「次逃げようとしたらぶっ殺してやる」
「ハイ」
「なら立て」
「ハイ」
カーラは34番を立たせ、それからデルモアの方まで34番を案内した。
「何が起きたんでしょうか」
「…質問はするな、私の命令に答えろ」
「ハイ」
「まず、外にショーンが眠ってる。彼を店内まで持ってきてから、治療をしてほしい。生きて何年だ34番」
「12年でございます」
「薬の知識は」
「ある程度…」
「機械学は」
「バツグンでございます」
「ならショーンの止血をしてからデルモアを治せ」
「ハイ」
さっそく店の外に出てショーンを優しく抱き上げ、店内に入ってから処置を始める機械人を見てから、カーラは腰にあったハーブを何本か残した。
「回復魔法ができないならハーブを何本かやる。これを使って、ショーンを治せるなら何でもやって」
「何でも…でしょうか」
「何でもだ」
彼女はそう言い残して店を出てから、ジュコの向かった方向へと歩いた。
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しばらくして、ショーンは目を開けた。
咄嗟に短剣を出してデルモアの部品を漁っているっ機械人を殺そうとしたが、右腕が、丸ごと、なかった。
立ち上がれなくて、ショーンは天井を見た。
「あ、目を覚ましましたか」
「…なんだ、お前」
「34番モルデウスでございます」
「34番? 名前があったのか、お前」
「もちろんです」
ショーンは安心して、体を冷たい地面に託した。
そのまま左腕で、右腕を触った。
そこはきれいに斬られていて、一つも凹凸がなかった。
指でなぞろうとすると、痛んだ。
「しばらくは立つのもやっとかもしれません」
「呼吸が持たないってことか?」
「違います。重さの両立です、腕の重さがないので、前のように立つには難しいかもしれないです。猫がしっぽを失うのと同じでね」
「はぁ…」
ショーンはしばらく機械人のモルデウスを観察してから、質問を飛ばした。
「何してるんだ」
「治してます」
「なんで」
「…命令ですので」
「誰の」
「お客さんの」
「だから、だれの?!」
「…カーラさんです」
ショーンはまた黙りこくった。様子をみてから、また質問をした。
「腕はどうなった」
「道路に転がってます」
「…つけ返すことはできないのか」
「多分手遅れになります」
「あ…そう。義手は?」
「機械学者のマグロさんに話を聞けば腕を作ってもらえます」
「検討するよ」
ショーンはそう言って、目を閉じようとしたその時
「寝てください」
と言われた。
ショーンは何も言わずに、ただ単に寝始めた。
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「ジュコ」
道路の真ん中で横になって、泣く男がいた。
「仲間をほったらかして、何をしてるの」
すすり泣く男は返事をしなかった。
「何をしてるんだって、聞いてるんだよッ!」
カーラは強く地面を踏みつけながら泣く男に瓶を投げ当てた、ビンは男の背中に当たって割れる。
そのままジュコの名前を怒鳴りながらカーラは男に近づき、彼の顔を見ようとすると
そこには何もなかった。空だった。
顔の代わりには無機質な黒だけが残り、カーラの視線を飲み込むようだった。
恐怖して、ジュコのはずの男を自分から突き放し、しりもちをついた。
「は?」
彼女は小さく、声に出した。
すると、影が彼女のうしろを通る。
「疲れてるんだカーラ」
声が、彼女の頭の中に響くようだった。
気が付くと、建物内たちから大量のジュコたちが扉を開けて、一人ずつ外へ出てから大通りを歩き始めた。
全員が同じような、表情のない顔でただただ歩き回り、しりもちをついたままのカーラを無視する。
「自分の中で、何人もいるんだ。何周も何周も何周も回りながら歩いて俺の頭の中を混乱させるんだ」
また、ジュコの声が彼女の頭の中に響くと、カーラは出て行けとでも言うように頭を自分で殴りつけた。
大通りにいるジュコたちはどんどんと増え始めると、まるで祭りでも起きているのかというほど大勢が集まった。
大通りの中がぎゅうぎゅうに詰まって、ジュコたちがお互いを押しあう。
全員が、あの世界で一人だけ違うカーラを無視してひたすらに前へと歩いた。
すると、目の前でジュコが一人転んだ。
彼はカーラをよく見つめてから、地面に手を当て立ち上がろうとすると、ちがうジュコに頭を踏みつぶされた。
血が吹き飛び、カーラのローブに染みつく。
「自分は何も特別じゃない。ただの複製品だ。唯一無二の人間なんかなら、もっと特徴的な人間になれた」
「なのに、なのに世界は皮肉にも特別なものを特別じゃなくする力を与えた。まるで俺をゴミとでも呼ぶように」
次々とジュコたちが転び、そして踏まれていくのをカーラはジュコたちの脚の隙間から見た。
地面は赤く彩られ、そしてカーラの手にも届くようになる。
「ジュコ、ジュコふざけないで。これ何よ」
大量のジュコがいる空間なのに、そこは妙に静かで、カーラの声もジュコたちの間を通って響いた。
「魔法も打てない、銃の扱いも――」
「だから直すって話を――」
「でも直せてない。」
ジュコは静かに言った。
「瞬間的な結果を求めるならたしかにあんたはガキね。だれもが簡単に上達するならこの世はローリオンクラスの猛者だらけよ、弱い弱いとか泣き叫ぶ前にもう一度やってみろよッ! 起き上がれよジュコッ!」
ジュコたちの間で、一つだけ足音が響いた。
全員が静かに歩き、足音さえも響かない空間なのに、一人だけが、本物の一人だけが歩き始めたようだった。
「この世界は何だ。かーら」
「わかんないわよ、あんたが教えて」
「…俺も、わからないんだ」
「大量のジュコたちは?」
「わからない」




