勝利のために何をなくすか
彼女はお店を抜けて、走って外へ出た。
誰もいない長い道路で先に…人二人倒れていることに気が付いたカーラは、走って二人に近づいた。
一番近かったのは、口を開けて、死んだまま絶叫しようとするセイランの死体だった。
カーラはそれを無視し、壁の近くに横たわって血を流していたショーンに、必死に近づいた。
大量の血を見て、カーラはパニックになった。
男は右腕を失っていたのだ。
「あ、あぁ、ショーンッ!! 起きて、お願いショーン!」
男を振って、カーラは起こそうとした。
「い、今回復魔法と、傷口を…傷口をふさぐから…お願い、生きてショーン!」
彼女は男の斬られた箇所に、買ったドレスを結びこんで出血を止めてから、彼の胸に片手を置きながらもう片手を腰にやってポーションを探し始めた。
「大丈夫、大丈夫死なせないから…ショーン、死なせないから」
ショーンは目を開けていなかったが、小さく、しかし確かに息をしていた。
それでも、安心できないカーラは何とかポーションを探そうとしたが、探るごとにポケットがぐちゃぐちゃになっていく
それでも、彼の胸の上に置いた手を離せなかった。
離せば、終わると思ってしまったから…
声を荒げて、祈って、ハーブを探し出した。
「強い男が好きって言ったの、強い男がッ! ここで死なれると困るの、あんたが一番役に立つの、ねえショーンッ!」
彼女は叫んで、涙を流して、片腕だけで彼を抱き上げようとしたが、力が足りなかった。
ポーションを見付けると、彼女は慌てて彼の傷口に垂れ流し、それから両腕で彼の上半身を強く抱き上げた。
「死なないで、約束して。お願いショーン…」
その声は少しずつ、小さく、つぶやくようになっていく。
叫ぶ力を失って、彼女は涙を流しながらすすり泣いた。
目を開けない彼の青ざめた顔を眺めて、彼女は顔を近づき、キスをした。
それから、彼をまた抱いた。
「死なないで」
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ジュコの手は血だらけだった。
目元の皮膚にも血が飛び、眼球に血がしみこんでいた。
前髪は、かき上げられ、赤く濁っていた。
ゆらゆらと、まるで戦場を歩く兵士のように歩いた。
背の高いキャピタルの残骸たちの中心を歩き、そのビルたちを無視しながら地面をみて、一歩ずつ進む。
踏む石には、ブーツの裏についた血がしみこむ。
彼は血の足跡を残しながら、中心区に戻っていく。
「どうしたんだ」
誰もいない道路たちを超えて、様々なお店の前を通った。
でもジュコは、人の死体を抱いて、すすり泣くカーラの前で足を止めた。
「そいつは誰だ」
ジュコはまた口を開く。
「…」
カーラは何も言わず、ショーンの顔を上げて彼に見せた。
「片腕は」
「セイランが、セイランがやった」
「セイランは誰だ」
そう聞かれてカーラは後ろを指さした。
そこには、女性の死体が落ちていた。
「あいつがショーンを殺したのか」
「死んでない。ショーンはまだ息してる」
「…信じたいものを信じろ」
ジュコはそう言って、垂れた燃料が落ちた地面を追って先へ進んだ。
進むにつれて、鉄のスクラップが落ちていることに気が付いた。
先にあった、壊された服屋には機械人が子供のように小さい男性を両腕で宙にあげて、頭を握りつぶしたままの光景が広がっていた。
「…」
ジュコには、それがだれなのか知らなかった。だから、無視して先へ進んだ。
日が暮れ始めるころだった。ジュコは足を止めて、地面に体を強く当てた。
「殺してくれええええオルフェンッ! 俺を殺せオルフェンッ! もういいんだ、復讐なんてしない…殺してくれ俺をッ!」
「存在しなかった家族を思い出すんだッ! 存在しなかった人生を思い出すんだッ! 父親が生きてたんだ、生きて、俺と一緒にいつも遊んでくれてたんだ」
「夢の中だと俺たちは図書館を持ってなかった。お父さんはいつも、時間を持て余して俺と遊んでくれた」
「お母さんはいつものように優しくて、戦争に出るって言ったときも俺を止めたんだ」
「舌をなくして生まれたジュリアンとも小さいころからずっと友達で…俺を、俺といつも楽しんでくれた」
「幸せな過去をお前らはぶっ壊してくれたんだッ!」
「人生を返せッ! 俺のもう一つの人生を返せッ!」
「お父さんが生きていて、俺に友達がいて…」
「本物だって言ってくれッ! オルフェンッ! 俺を殺せぇぇぇぇぇぇ!!」




