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伝説の本   作者: 西村系
キャピタルヨルグ(アダルマ)

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22/31

口数の少ない女性

「”私はまだヤトが幼い時に彼を拾い上げた。よく覚えているわ、弱弱しい子供で、やせ細っていて、ろくにしゃべらなかったわ。でも、年が過ぎるごとに、私は彼に才能を見出した。彼にすべてをやったのに、彼は私をマザーとも呼んでくれなかった。でも、痛い目に合えば、全てが治った。だから、彼を私たちのチームに入れたの。ね? ドルガも、子供の頃からあまりいい人生を送ってないわ。お友達になりなさい”」


「よろしく、ぼ、ぼ、僕どるが」

「…うん、僕ヤト」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 セイランは確かに手ごわい相手だった。

 身体的に、追いつけない。

 頭ではわかっていても、簡単な動きをするくせにスピードでかき消してくる。

 …ショーンは、セイランの刀の振りをすべて間一髪で弾き、よけながら後ろに、また後ろに後退していた。


 一歩後ろにまた後退すると、セイランは刀を止めた。

「予想よりもうまいじゃない、でも、刀同士じゃないのは残念ね」

「短剣だからこその実力だ」

「…面白くない返事をするのね」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「”刀の練習かい。お兄さん”」

 ハコシタ大陸の、戦争すら届かない竹藪の中で、誰かが竹を斬って刀の練習をしていた。


「私は女よ」

 刀を振り回す女性は言った。


「”…申し訳ないわ」

 練習をしている女性に、後ろから近づいて、その人はゆっくり周りを歩きながら女性の刀を観察していた。

 刀は一つだけ。その一つを必死に、細い腕で握り振っていた。


「”お名前を聞いても”」

 ひとは女性に聞いた、女性は刀を振り回すのをやめて、人の方を向いた。

 それからじっくりと、人の顔をみた。


「口は、どうしたの」

 女性は言った。


「”生まれつき、ないわ”」

 ひとが手に持っていたのは、一つのペンだった。

 そのペンで宙に何かを書くと、そのものはしばらく実体化し、そして文字が残った。

 

 時間がたつとマナが切れるのか、文字は地面にペタンと落ちる。


「…私は、セイラン」

「”セイラン、美しい、花のような名前だわ。私の名前はミレアよ”」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 刀を一気に、下から振られた時だった。

 血しぶきが刀につられて月の型になり、そしてショーンの左腕が宙を舞った。


「本気よ、マザーに言われた通り。邪魔者は殺すの」

 

 腕が回転し、生々しい音を立てて地面に落ちた。

 しぶき上げるよりも、蛇口のように、切られた腕から赤い液体が流れていた。


「…邪魔者? 邪魔者だと? 俺はお前らを知らない、聞いたこともない。 邪魔をするつもりもないし、何かに介入するつもりもない。 突然現れて俺らを殺そうとしているのはお前らだッ!」


 両目を閉じて、ショーンは下に頭を向けながら言った。


「そういえばそうね、何も説明してない」

 セイランはそう言って刀を肩においてから、もう片手で唇に触れた。


 彼女の髪はとても短く、耳にやっと届くくらいだった。

 男用の浴衣を着て、彼女は戦う。


 時間がたつごとに、一秒過ぎるごとにショーンの腕からもっともっと血が、地面に音を立てて落ちた。


「金を複製して、アダルマの兵士たちに渡してるのがわかったのよ。12万パヤ? ばかばかしい、持ってる人間がいるはずないわ」

「……だからなんだ、金を狙ったってことか」

「違うわ。あんたらの能力を狙ってるの、特にラズバノ・ジュコ。でも、ブックハンターってきいて心が躍っちゃった…! 私たちと同種! 汚らしいのに、どこかすごくうれしいの!」


「お前は何なんだ」


「複製のクリスタルが欲しんだって言ってるんだろうがドブカスめが。 ものすごく危ない能力は、私たちがもらうこと、それも政府とお話してるの♡」

「…俺にこんな話をしていいのか? ばらしちゃうぞ」

「死人に喋る口はないわ」


「デルモア」

 ショーンの一言で足りた。

 デルモアを呼び込み、そして戦闘に介入した。


「味方だと約束してしまったものなので、審判の役はやめさせていただきます、お客さん」

 デルモアの機械の腕からは鋭い刃物が両指の隙間からゆっくり、落ちるように姿を現した。


「ずっと後ろにいたのかスクラップ?」

 セイランは刀を下げ、そして構えをとった。


「いいえ、先ほどまではカーラさんのところにいましたよ。肉の塊さん」

「見下すな。私は神だ」

「見下すな。私はいきている」


 二人はにらみ合った。


 セイランが最初にデルモアへ向かって走り、上半身を切り捨てようと刀を振った。

 デルモアが刀を回避し、膝を地面につけると鉄がぶつかり火花が散った。

 後ろを向いてセイランを見るデルモアは左腕を広げて彼女に向けた。


「ブルズ・アイ」

 そういって指先から出てきたのは細長いフレシェット弾で、高速で風を斬りセイランの背中の骨に当たろうとしたが、鉄とぶつかる冷たい音が鳴って、弾は地面に落ちた。


「二つ目の刀を忘れていたようだな、スクラップ」

「…」


 彼女は片手で刀を持ち、もう片手は何も持たずに広げた。


「何をしている」 

 スクラップと呼ばれた機械人は聞く。


「見せている。私の刀を」

 しかし、その手は何も握っていなかった。


 彼女が実在する刀を振ってまたデルモアを斬ろうとすると、彼は二歩後ろに下がって間一髪で避ける。

 しかし、二つ目の”風”が飛んできた。

 胸の鉄と神経をつなげるケーブルが微妙に斬られた。


「…水が入ると大変だ」

 デルモアは独り言を言った。

 

 飛んでくる刀に、今度はよけずに右手の刃物を前に出して防御した。

「逃げるばかりでは、いけませんからね」

 彼はそう言って、強く刃物を突き出して彼女を押し倒そうとするが、女は強く対抗する。


 左手を彼女に見せ、そういった。

「マジック!」

 ゆびの先からはまたフレシェット弾が放たれたが、今回も風でフレシェット弾がはじかれるだけでなく、半分に斬られた。


「マジック」

 セイランはニヤニヤしながら言った。


「それも駄目ですか」

 デルモアはそう言って力強く女の顔を殴りこんでから後ろに引き、腰のベルトからフレシェット弾をとり腕に装弾した。


「入れられる数、少ないの?」

「いいえ、24弾は入れます。しかし、装弾できるときにしておかなければ」

「…だから機械人も嫌いなのよ」

 頬に手を付けて、赤い個所を撫でた。


「なんで殴ったのよ、刀と剣の試合だと思ってたわ」

「私は剣士でもなければ侍でもありません。ルールに従う理由も、戦い方に縛られる理由も見えませんね」


 女は頬から手を離し、刀をまた振った。

 デルモアはまた、回避する。

 その間、ショーンは地面に倒れ込んだまま血を流していた――


 顔は青くなり、目を開けられる時間も限られるようだった。

 

 一つの斬撃がデルモアに向かうと、彼は彼女へ向かって走りこんで回避したが、もう一つの斬撃が飛ぶと、回避しきれずに肘の一部と、小指を失った。


 血こそは出ないが、確かに部品は失っていた。


 彼女に近づくと、腕をつかみこんでから地面に放り投げた、背中が力強く地面と衝突するとセイランは刀を振って機械人を遠ざけようとした。

 それは一時的に効果的だった、最初の振りはデルモアの首の鉄を削ぎ落し、二つ目の斬撃が飛ぶとまたもや神経をやられてしまう。


 このままだと、デルモアが動けなくなるのは時間の問題だった。

 

 彼はセイランの腕を強く握って、指を彼女の肉に入れ込んでから大量のフレシェット弾を放出した。

 骨を貫通し、神経を貫通し、肉と肉同士を引きはがす。


 女は確実に、右手では刀を持てなくなった。

 悲鳴を上げて、もがき、デルモアの機械の腕から放たれようとしたが――

 つかむ力が強すぎるが故、神様のセイランでも抜けることはできなかった。


 ついにデルモアが彼女の腕を離すと、今度は右手の刃物で彼女の腹を刺し、地面にまで届かせるほど強く押し込んだ。

 その瞬間――

 デルモアは背中から大量の刀に突かれるように鉄の体に、穴が開いた。


 胸から燃料を垂らし込んで女に落とす。

 デルモアは、刃物を腕から離脱させ、女を刺し込んだままにし

 そのまま立ち上がり、服屋の方向へと走り込んだ。


 セイランは、もう息をしていなかった。

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