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伝説の本   作者: 西村系
キャピタルヨルグ(アダルマ)

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21/31

体内侵入

「ならしゃべってる理由はないわね」

 セイランはそう言って、ゆっくりと刀を腰から抜いた。

 ショーンも短剣をよく見せて、にらみ合う。


「よ、よ、よろしく、おね、がいします……」

 小さなドルガはカーラにお辞儀をしたが、頭が降りるタイミングにカーラは彼の帽子につばを吐いた。


「いい加減人間みたいにしゃべれ」

 カーラはそう言って、ポーションの中に腰にあったハーブを何種類も入れこんで混ぜ始めた。


「面白そうですが、私は審判をやりたくないです」

 デルモアは両手を挙げて、白旗をあげるように言った。


「命捨ててぇならかかってこいや糞盗賊めぇッ!」

「その指一つ一つが落ちるまで俺はあきらめないぞッ!」


 二人が剣を交わし始めると、ドルガはそれに気を取られて見ていたが、ゆっくりカーラの方を向き、彼女を見上げてから杖を強く握った。

「えい!」

 そういって飛んできた”技”は、ただ、杖でぶん殴るだけ。

 その上弱かった。


「殴るならもう少し強くいった方が、効きますよお客さん」

 デルモアは姿勢を下げてドルガに合わせ、そう囁いた。

「相手に何ヒントあげてるの? 私の味方しなさいよ」

「申し訳ありません、ただ、対等な試合と聞いたもので。こんな弱弱しい子供のような人間がカーラさんという暴力的かつ活発な女性に勝てる見込みが…」


「しね」

「直球ですね」


 二人が会話している間、ドルガは魔法陣を二人の周りにチョークで書き込み、呪文を唱えていた。


「試合ですよカーラさん。油断禁物です」

「禁物も糞もないわ、こんな奴一発殴っただけで多分死ぬわよ」


「morten mortan deuz mateoz now krosh gyrarth…」


「だって…あれ」

 カーラが目の前を見ると、ドルガはいなくなっていた。

「デルモア、引いたほうがいいわよ。酸性の雨が降るから」

「おっと、鉄が溶けますね。ショーンさんたちの試合を見てきます」


 彼はそう言いながら、店の外まで鉄同士がぶつかる音を追っていく。


「でてきなさぁいドルガぁ? 優しいお姉さんよ! 優しいから!」


「う、嘘つきっ! 僕の帽子につばはいたくせに!」

「わかってたのかよ……」


 しかし、声がどこから来ているのかカーラには判断できない、そして同時に魔法陣の真ん中に立っていた。


 危なっかしいと思ったカーラは一歩進んで魔法陣を出ようとしたが、強力なバリアに閉じ込められていることに気が付いた。

 脚が空にぶつかったからだ。


「…」

 地面に座り込み、彼女は瓶を腰から大量に取り出してからハーブたちをすりつぶし始めた。


「このバリア、張っても意味ないわよ。外から攻撃できないじゃないの」

「できなかったら張ってないね」


 すると、ドルガが現れ、大量の服の山をカーラの上に投げたが、彼女はその瞬間に手に握っていたポーションを服に浴びせて溶かせた。

 とけた服はただの色になって地面に落ちた。


「酸よ、得意なの。作るのが。でも、酸はハーブだけからじゃできないから、いいものも大量に持ってるわ。見てみるかいドルガ君? 火薬もあるわよ」


 それから先ほど出したもう一つの瓶の液体を今度は自分の手にかけた。

「馬鹿よ、バカ。全員馬鹿なんだから」

「ぼ、僕はバカじゃないね! 本気さ! ぜったい本気じゃなきゃヤト君に馬鹿にされるんだ」

「ヤト?」

「ぼ、僕の友達だね。初めて来た頃に、一緒にお人形遊びをしたんだね。僕は、僕じゃなくなりたいから…」


「ふーん」

 次の瞬間飛んできたのは大量の光攻撃魔法だった。

 矢に近いものがカーラをめがけて一気に来るが、バリアを貫通して入ってくる前に彼女は立ち上がり一つずつ手でしのいだ。


 華麗に飛んできた光たちを手にあて、飛ぶ方向を変えて跳ね返した。

 すると、光魔法はバリアを内側から抜けた。

「へぇ、これはいけるんだ。独特な魔法ね、ドルガ」

「僕のことはハルって呼んでほしいね、そっちの方が居心地がいい」

「もっと光魔法飛ばして、どうでもいいわ」


 彼女はそう言って今度はブーツの底にハーブと、何かの粉を水と一緒に塗り付けると、大量の光魔法が飛んでくる前にバリアに足をつけ、壁に立った。


「簡単ね」

 彼女はそう言って丸いバリアの中で天井さえも歩き、魔法を弾き返しながら回避した。


「ヤト君なら、ち、ち、ちゃ、ちゃんと評価してくれたのに」

「私はあんたの言ってるヤトじゃないし、友達でもないわ」


 しかし、今度はカーラの喉の奥に何かが引っかかったようだった。

 何か、何かの先端のような――


 彼女はバリア内で息ができなくなって、脚を張り付けずに離すと地面に背中から落ちた。


「駄目ね、油断禁物ね」


 ドルガの姿はなかったが、すぐに、どこにいるのかが分かった。


 カーラの口から出てきたのは、木製の杖の先端だった。

 少しずつ膨れ上がった喉の奥から吐き出されるように杖が押し返されていくとそこから杖を握る手が現れた。


「こんにちは」


 声が聞こえたのは、カーラの体内からだった。


 首を爪でひっかいて引っかかったものを、少しずつ出てくるものを出したがっているカーラだったが、どれだけ止めようとしても顎が外れ始め、口元が裂け始める――


 彼女は地面に残った瓶を一つ手に取ってから口内にすべて垂れ流した。

 

「ぎゃああああああああああああああああッッッッ!!!」

 ドルガは絶叫して、カーラの体の中から姿を消した。


 口を閉め、息を整えようとしたカーラ。

 唾液と一緒に血が口の端から垂れ込む。

「あんた殺してやる。ここで殺してやる」

 カーラは口元を拭いてそう言った。


「ぼ、僕を燃やしたな…肌が、は、肌が解けて――」

「酸だよ、へへへ!」

「目が、目が、あんた、吐き出せ、こぼれた、僕の、僕の目を、は、は、吐き出せえええええええええ!」


 喉奥から吐き出されたのは、無傷の目玉だった。

 カーラはそれをもって、握りつぶしてから男を煽った。


「目の周りが焼けて、玉丸ごと落ちたか。へへ、へへへへへへ!」


「あぁ、変われるよ。僕、変われるよ」

 バリアの周りを、淡々と歩き続けながらドルガはしゃべり始めた。

 唇はとけて顎をつたり、ぽたぽたと音を立てて垂れていた。


「人形さんみたいに、かわいくなくても、か、か、変われるよ。や、ヤト君…」

「気持ち悪い思想について語るなら壁に向かって話せばどうだ? ほんっと迷惑な魔法を持った”大人”の男性ね。人の体内に入り込むって何よ? サイコパス? 私はポーションのプロ以上に、酸のプロでもあるのよ、酸についても耐性ができるくらいね。飲み込んでも下痢になるだけ、問題ないわ! もう一度うちン中はいってみろよ、”ベイビー”!」


「…魔女のカーラ。魔女? あぁ、ま、ま、魔女。魔女ね。ぼ、ぼ、僕。かーらを殺してあげる、酸で溶かせなくても、魔法が今のところまだ、き、き、効かなくても…殺してやる」


「バリアなんて、不公平ですぞ」


 入り口の近くに、首元に火花を散らしながらやってきたのは、ズタズタ歩くデルモアだった。


「ふ、ふこう¥¥」4#%>」

「…?」

 デルモアは完全に神経をやられ、身体を動かすどころか、口を動かして脳信号を伝えることすら怪しくなっていた。


 バリアの中にいるカーラは、叫んだ。

「そうよ!不公平! だしてー!」


「ふ…」


 デルモアは走った。店内のテーブルも、服も、何も気にせずにドルガまで駆け寄り男をつかんでから両手で頭を握りつぶした。

 鉄の指から流れ落ちたのは大量の赤い血だった。

 でも、破壊されたデルモアはそんなことも理解できなかった。

 

 そのまま持ち上げられ、握りつぶされたままのドルガをもってデルモアはシャットダウンした。

 死んだ男はマナの放出ができなくなったのか、バリアが解け、カーラは外に出られるようになった。


「これ終わったら直してやるから」

 デルモアの肩に手をすばやく置いてから外へと走った。


 カーラはショーンを探さなければ。





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