魔導士ドルガ 女の侍セイラン
「カーラ…厳しくしすぎじゃないのか」
ショーンが目を開けると、ジュコはいなくなっていた。
もちろん空気を察し、彼はジュコが逃げたと推測した。
「厳しくしなければ伝説の本は見つからないわよ、あんたはあいつに優しすぎるのよ。もう少し男になってもらわなきゃ、戦闘の時に役立たずのジュコが突っ立ってるだけだと邪魔なの」
「戦闘なんてしなければいい。俺に任せろよ」
「…」
カーラはとにかく道路をぐるぐる歩き始めると、ショーンはそれを見飽きてまたしゃべった。
「心配なのか?」
「心配? 私が? ふっ、面白いことを言うのね? 意外とユーモアあるじゃない、持てるわよ」
「…持てる?」
「彼は私の生徒よ、いなくなると授業ができないの。それだけ」
「心配か?」
「心配って言葉は、強すぎるわ」
ショーンは両腕を組んで、歩き回る彼女をまた見つめた。
「何かの病気なのか?」
「何言ってるの…? あぁ、ぐるぐる歩き回る癖のこと? 昔からそうなの、歩かなきゃ頭が回転しないっていうかなんていうか」
「じゃあ考えてるんだな? 心配なんだな?」
ショーンは腕を組んだままニヤっと笑った。
「あんたマジでぶっ殺すわよ」
「ジュコみたいな”優しくて”なんだか”壊れそう”な男が好きなのか?」
「…それは話が違うわよ、ジュコはまだタイプじゃない。まぁ、成長次第では変わるかもね? 私はどちらかというと冷静で、強い男が好きなの」
彼女はやっと足を止めた。
「そうだ、服屋さんよ。新しい戦闘用のドレスが欲しいと思ってたの」
「その紫のローブだけじゃダメなのか? 相当魔女っぽいが」
「魔女っぽくても実用性は低いのよ、それに私はもう囚われの身でもなければ探されてもいない。紫色か、そうだなぁ、緑? もいいかもね」
彼女はショーンの、森にとけ込むための緑の服をよくみた。
「俺のを奪う気か? それなら目じゃなくて手を動かせ。まぁいい、なら服屋にいこう」
腕を組むのをやめて、ショーンは大道路を歩きカーラに近づいた。
背中を優しくたたいてから、追い抜いた。
「ちょ、え? 本当に行くの?」
「お前が行きたいといったんだ」
ショーンは背中を向けたままそういった。
「ちょっとまって金は?」
カーラは声を上げて聞いた。
「値切れば無料になる」
ショーンも、彼女が聞こえるように声を上げた。
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「ぼ、ぼ、ぼくは確かに魔導士ね。魔導士ねけどぉ…」
「その幼稚な喋り方をやめろと、何度言ったらわかるんだドルガ」
「ご、ごめんねセイラン…」
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「白も似合うわね」
二人で知らない服屋につくと、カーラはとにかく走って中に入っていった。
ドレスたちを見ていると、彼女は興奮し、そして気に入ったドレスを片っ端からショーンに見せた。
「着替える!? 着替える部屋みたいなのあるかな?」
「はしゃぎすぎだ、俺は上着がないか探してくる」
「でも熱いわよ、外」
「これからの天候は変わるばかりだ。森を抜けた先は砂漠、砂漠の先は冷たく、白い山々が広がる。とにかく準備をしなければならない。それに、ガンマンっぽい服をジュコのために探そうと思う」
「それもいいわね」
カーラは店員のところまで歩いて行って、それから店員の機械人に「デルモアを呼んで!」と言った。
「かしこまりました」
機械人がそう礼儀よく言うと、彼女はドレスたちをもってまたはしゃぎ始めた。
しかしショーンは静かに、店の向こうで服と睨みあいをしていた。
しばらくすると、デルモアが店の入り口から挨拶をしながら現れた。
「どうもこんにちは、デルモアでございます」
カーラが彼の声を聞くと、喜んで店の入り口まで行き、ドレスたちを見せつけた。
「デルモアッ! 機械人としてどうよ、紫のドレスッ!? それとも白?」
「えー…旅で城を使うのは大変、えっと、大変、大変だと思います」
「じゃあ紫?」
「似合いますよ」
「でもなんだか違うものがいい」
「じゃあ赤はどうですか」
「赤は目立つわ」
「緑?」
「…」
カーラは静かにショーンの方を向いた。
デルモアも彼女の視線を追ってから、彼女のことをみてこういった
「その色はもう取られてますね。黒は?」
「黒は黒すぎるわもうちょっと白いものがいい」
「……白?」
「最高ね! 白にしましょう!」
彼女はそういってから会計に進んだ。
デルモアは置いて行かれると、ショーンのところに話を聞きに行った。
「こんにちは、デルモアです」
「聞いてた」
「はい! デルモアはここにいます。ショーンさん、どんな御用で服屋さんに?」
「用? 俺はもともとなかったけど、カーラが来たいって言うから」
「確かに連れてこられた感じがしますね!」
「楽しんでいなさそうってことか?」
ショーンはデルモアの方を向いた。
「…カーラさんのところを見に行きますね」
カラフルな服にまみれた店の中を灰色の鉄をした機械人が歩いた。
「300パヤで勘弁を…」
「ぼったくりよぼったくり! ベルトすらついてこないじゃないこのドレス!」
「ですが、戦闘用なだけあって動きやすいですし、視界も遮らないですし、それに色以外は目立たないように……」
「ぼったくり」
「じゃ、ないです。ハイ」
「こんにちは!」
デルモアがカーラの後ろから現れ、会計をしている機械人をみた。
「何かお困りでしょうか?」
デルモアは聞く。
「ええ、アホみたいにお困りよ。この機械人がまけてくれないのよ」
「わかりましたからっ! 200! 200パヤで売りますっ!」
会計が両手を頭の位置まで上げて、下を向いた。
「ぼ・った・く・り」
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
泣き叫ぼうとする機械人を、デルモアは無表情の鉄の顔で睨みつけるようだった。
「…」
しずかに、しかし確かに視線を向けていた。
機械人の会計がそれに気が付くと、彼女はすぐに胸を張った。
「…デルモア様」
「デルモアで結構です。しかし、彼らが国にいる宿泊費を払っていることは知ってますか? 34番」
「3人の人間だとお聞きしましたが…」
「”デルモア”という名前が彼らの口から出た瞬間から彼らはただの観光客じゃないことくらい、理解できるはずです」
「も、もちろんです」
「ならドレスをあげてください。ありがとうございます」
「ええ……」
「あちらのお客さんも、お買い物をしますので。きちんと付き合ってあげてくださいね。34番」
「ええ…」
そうデルモアは言ってから、会計を離れようとすると、入り口の方に刀を腰に持った女性が中を見渡しながら立っていた。
「申し訳ありませんが、店内のご利用の際は、武器等をしまうか、宿泊先におくという決まりがあります」
デルモアの声が店内に響くと、ショーンはビクッとして、ブーツに入っている短剣が軽く震えた。
「すまない! 本当にすまないよ。ただ、外には小汚い盗賊も魔女もいますから、この、女性として、身が心配で!」
「もちろんお客様のお気持ちは理解しますが、決まりは決まりになります。店内に入るのであれば、武器を地面に置くか、奪われたくなければ宿泊先に置いてくることです」
「ドルガ。あんたはどう思うよ」
女が声を上げると、店内にいた魔導士の服をきた背の低い男性が声を小さくして返事をした
「で、でようよ…歓迎されてないんだしさぁ」
「ドルガ…ですか」
デルモアは何かに気が付いた。
「いいや、いいやっ! 人間差別主義者? 男性優位社会主義者の、この機械人が私は嫌いで嫌いで仕方がないねぇ? デルモアって言いましたって? よろしくね」
「確かに、申し遅れました。アダルマ国案内人の機械人、デルモアでございます。こんにちは」
その後に、ドルガと言われた男は店内でも服をみながら震えていた。
知り合いなのか、連れなのか、入り口にいた女を確かに知っていたが、かかわるのを怖がっていた。
彼女が鋭い口を滑らすごとに彼は身を丸くした。
「そして、お客様のお名前は?」
「私?」
「そうです」
「セイランよ」
そう声が店内に響くとまず会計が店の奥に逃げた。その後にショーンがそれに気が付き、女に目を当てた。
カーラはローブの中に隠していたポーションを握り、そしてもう一つの手でドレスをローブの中に突っ込んだ。
デルモアはびくともせず、立ち止まった。
「お、お、お外は…危険いっぱいね。僕な、な、ならあんまり気をつけるね」
魔導士の服を着た男性も、杖を持っていた。
「争う理由なんてありません。セイランさん、よかったら話しましょう」
デルモアができるだけフレンドリーに話しかけた、しかし、彼は彼女の名前を聞いたことがあるだけで何も知らなかった。
マタナカウォリアーズの一人、第一戦闘員”侍のセイラン”通常、腰に2つの刀をもって歩くが、今のセイランの腰には一つしかなかった。
カーラも、ショーンも彼女を知らなかった。
彼らが知っていたのは、会計が逃げた事実。
機械人が逃げるほどの人間なら注意をするべきだと思った。
「嫌いなタイプのしゃべれる存在が3っつあるの、私」
セイランはそう言って、左手を突き出し、指で3を示した。
その時も、店内では彼女の口以外から何も音がしなかった。
「まず一つ目が人間ね、もちろん人間。大っ嫌いなの人間。クッサイし、くどいし、きもいし」
「…」
「2つ目が機械人ね、まず人間じゃないところが嫌いよ。人間だったらそれもそれで嫌いだけど人間じゃないからもっと嫌いよ。生まれるなら人間として生まれなさいって感じよ」
彼女はそう言いながら、しゃべっていくごとに指を下げた。
そして最後の指。
「3つめが、生き物ね。 隣で息をされると虫唾が走るわ」
「お前自身はどうなんだ。息をしてるじゃないか」
ショーンがいきなりしゃべった。
もちろん、手にはすでに短剣をもって。
「私? 私は生き物じゃないわ、きちんと教わったもの。マザーが教えてくれたのよ、私は息をする存在以上の、神に等しいって―――」
彼女は両手を握って、目を閉じ、そして店内の天井を見上げた。
「ねぇセイラン…セイラァン?」
「なんだどうした!?」
彼女はいきなり目を開けてドルガの方を向いた。
「ぼ、僕…一番弱い人相手にしても、い、い、いいかな…」
「問題ナッシングっ!」
「やったぁ」
「お客様にとって、一番弱い人間というと、この中の誰でしょうか? とても気になりますね、機械人として、少しは鍛えてあるつもりだったんですが」
「あんたに用はないのよスクラップの糞だまりがッ!」
「あぁ…」
「そうね、人間で強そうなのはあの変な髪の毛した男ね」
「じゃ、じゃあ僕は、ぼ、僕は女の人相手にしてもいいかな」
「問題ナッシングッ!」
「殺すぞッ!」
カーラはドルガの方を向いて怒鳴ると、男は「ヒーッ!」といって、逃げることを試みたが、ショーンに胸ぐらをつかまれ地面に投げ捨てられてしまう。
「1対1の真剣勝負ってことか? デルモアは誰を相手する」
ショーンは冷静に短剣を見せて、そう聞く。
「スクラップは観戦よ、こいつらぼっこぼこにすっから審判しなさいスクラップッ!」
セイランは叫んで、デルモアに指を指した。
「なんで戦いたいのよ、まず」
「いい質問ですね。私も聞くところでした」
カーラの問いに、デルモアはポジティブに推した。
「マザーの相手をすればわかるわ。でも、その前にここで殺されるけどね。きみたちの白髪のお友達も今…オルフェンと、あのガキ、誰だっけ、ドルガッ!」
「は、はいっ! オルフェンとヤト! あ、あ、あの新入りの子供ですぅ」
「決まりね、あんたら二人とも首を持ち帰ってあげるわ」
笑って、ふざけるセイランをカーラが睨みこみながら言った。




