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伝説の本   作者: 西村系
キャピタルヨルグ(アダルマ)

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18/31

無口な兵士

 ジュコはクレーターから頭と、銃を出し、そして先を見た。

 今度は、爆発が起きてもジュコは震えない覚悟だった。


 先にあるものを眺めて、状況を整理しようとした。

 

 ジュコはアルケケ生まれの19歳の兵士、ナイロ隊長の指示によってデンカ国の支配下にある第二キャンプを取り返すことが目的だ。


 …ここへは、元はジュリアンと来ていたが、彼が見当たらない。

 突っ込んでしまったのであろうか。

 爆発に巻き込まれていなければいいが…


 そのまま照準を合わせ、そして先を観察した。


 第二キャンプの壁前には大量の侍たちが強い板材と、鉄で作られた盾を使って被弾を避けていた。しかし、ジュコがいたクレーターは坂にあり、上から侍たちを見下すことができた。

 なお、銃兵たちは物陰に隠れて蟻のように穴に潜んで走り回り、止まった者から頭を出して発砲する。


 仲間たちに銃を向けるのをやめ、ジュコは壁の侍たちに照準を合わせた。


 刀を使って銃弾を切り捨てる侍たちに銃弾を当てることは不可能だと思ったが、やってみるに越したことはない。

 

 呼吸が一瞬でも乱れたり、一瞬でも震えたり、心臓が一拍しても照準はミリ単位で外れた。

 しかし、一発だ。

 一発で侍の頭に当てなければ、銃弾がどこから跳んできたのかを予想され、もう一度撃ったとしても守られてしまう。

 一発だ。


 大量の空気を肺に入れ込み、呼吸を止めた。

 その一瞬、確かに震えるのをやめたが今度は心臓がバクバクなり始めた。

 ジュコは息を離し、そして深呼吸した。


 長い間息を止めていても駄目だ。一瞬だけ息を止め、心臓の鼓動を予測し、そして狙いを定めなければならない。

 

「撃てぇッ!」


 声が聞こえたようだった、その瞬間、ライフルが音を上げて、そして衝撃で上を向いた――

 

 銃弾が、戦争の風を斬って宙を飛び

 そして、最終的には侍の後ろ――

 壁の橋を持つ縄に当たり、そして丸板一つが落ちるとほかもつられて、丸ごと崩れ落ちていく――

 丸板たちが侍どもを潰し、その血が周りに吹き飛んだ。


 壁が落ちてくることに気が付いた侍たちは、逃げようと刀を下げて、走ったが

 兵士たちが隙を見て銃を上げ、彼らに向けた。


「一斉! 射撃ッ!」

 そうして戦場に響いたのは、男どもの死にゆく声と、大量の発砲音だった。

 


 心臓が、音を上げた。

 ジュコは大量の、国の人形たちを殺した。 

 それも彼ら自身には罪がない、人々を。

 ライフルを背中に置こうとしたが、呼吸が乱れてパニックになった。


 グレイブホークを捨てて、ジュコは胸を握りしめながら立ち上がり、戦場を、息を切らしたまま走った。

 走らなければならないと思った。

 今でなければならないと、思った。


 周りの兵士たちは生き残った侍たちと戦闘を続け、腕をなくし、心臓を撃たれ、そして弱い者から、気が抜けた者から、心臓の弱い者から…

 血を流して崩れ落ちた。


 ジュコはキャンプに向かわなければならなかった。

 なんとしてでもキャンプへ向かい、強奪しなければならなかった。


 耳鳴りがして、周りの絶叫が頭に響く。それでも足を引きずってジュコは走った。

 灰色の地面を踏みしめて走った。


「殺してやるッ!」

 侍が刀を捨て、亡くなった兵士の腰の拳銃を奪い取り兵士たちを撃ち殺し始める。

 発砲音と、男どもの死にゆく声に包まれてジュコは、戦場の真ん中を走っていた。


 横も、前も、後ろも、銃弾が飛び交い

 人々が倒れていくのを見た。

 

 気を取り直して前に集中しようとすると、ジュコを斬り捨てようとする侍が刀をあげていたが

「ハァッ!」

 と声を出される前に流れ弾が侍の首に直撃し、男が刀を落として首に手をやりながら血を止めようとした。

 口からは想像できないほどの血があふれ出て、どれだけ手で止めようとしても、それは止めることのできないものだった。

 ジュコを見つめる侍の目には、絶望以上に、悔いが見えた。失うことへの恐怖が見えた。

 

 それも、輝きを失うまで。


 目をそらし、狂気的なまで酸素を欲しがる肺を殴りつける。

 ジュコはまた走り始めた。


 走って走って走って、キャンプへたどり着きたかった。

 なぜなのかはわからなかった。

 でも、キャンプには自分のものがあると思った。


 その時だった

 ジュコは右側から知らない兵士に体当たりされ、そのまま塹壕に落とされた。

 男はジュコの上に乗ったまま、ジュコを隠すように周りを見渡し、それから立ち上がるのを手伝ってくれた。

 男はジュコをみて、静かにたちあがり、それからジュコに手を貸した。


「…! ジュリアンじゃないか! 前線に行ったと思っていた」

「……」

 ジュリアンはしゃべらず、手だけを動かし、そして先を指さした。


「…この先は侍も多い。俺たち二人で互いの背中を守りながらだと、少し物足りないじゃないのか」

 ジュコは返事をした。

 

 ジュリアンは手を挙げて、上に指を指して、ゆっくり指を落とし、それから地面を強く指で指した。

 その後に、拳でやわらかい泥の地面を殴りつける。


「…落とされるのか、自軍に」

「…」

「俺たちは全員死ぬのか、ジュリアン」

「…」

 ジュリアンは、頭を上下に振った。


「…?」

 ジュリアンは、自身の背中を指してから、ジュコを指した。

「ライフル? 途中で捨ててしまった」

「…」

 男は腰の拳銃をもって、顔の近くへやった。

「構えろと?」

「…」


「殺せと言ったんだ、全部落とせと、全部だ全部ッ!」

 後ろから大量の兵士を連れて小走りで命令をしていたのはどこかの部隊隊長だった。

「申し訳ありません、何番部隊でしょうか? ナイロ隊長を見てませんか」

 ジュコは隊長と、その部隊を引き留めた。


「お前たちに使ってる時間はない、キャンプに向かわなければならない」

「キャンプに何がある?」

「我々の奪われた物資だ」

「砲撃されるキャンプを奪う理由はないですよ、隊長」

「砲撃? ハハッ! 砲撃だと? 何を言っているんだ、兵士がたんまりと生きているのに砲撃なんか許されるはずがないだろう」

「人を捨ててまで侍を殺したい人間たちに不可能はないと、そう思います」

「ならば戦場から逃げてみろ。逃げてみろよ。裏切り者め」

 つばを吐き、隊長は部隊を引き連れて前線へと歩いて行った。


「…」

 ジュリアンがジュコの袖を引っ張る。

「どうした」

「…」

 ジュリアンは、後方を指す。

「国を裏切れと?」

「…」

「命を捨てるな…と?」

「…」


 ジュリアンがそう、”言う”と

 後方へと、銃を構えながら走り始めた。


 ジュコも銃を腰から抜き、装弾数を確認し、ついて行く前に、前線をもう一度みた。


「……」

 前には、確かに地獄が広がっていた。

 でも、地獄を見るより、命を優先してみたかった。


 ジュコはついて行くために今度は走った。

 今度は理解できる本能のために走った。

 生き残るために。

 

 塹壕も、地上とそうちがくはなかった。

 泥にまみれた地面を蹴りつけ、血に濡れた泥の横を通る。

 椅子に座った兵士が空を見上げていた。

 胸に写真を抱え、地面に伏せる兵士をすれ違う。

 銃口を口に当て、引き金を引こうとする兵士を横目で確認しながら進む。


 しかし先で、ジュリアンが立ち止まって両手を挙げているのを見たジュコは、走るペースを下げて銃を突き出した。

「後方に何の用があると聞いたんだ、愛国者よ」

「…」

 振り返ると赤い帽子を着た、別の隊長だった。

 胸のバッジには「D3」と書かれていた。


「愛国者よ、名前を私に教えてみろ」

「…」

「舌を猫に食われたか愛国者よ」

 赤帽の隊長は拳銃をジュリアンに向けていた。


 ――逃げる兵士を、選んで撃っている。そう見えた。


「…」

 ジュリアンは、胸のポケットから写真を取り出した。

 それは、白いドレスを着た長髪の女性の写真だった。

 

 下を向き、写真を手に持って、許しを、逃してくれるよう、神へ祈った。

 

 赤帽の隊長は、銃を下げず、ひげに手をやってから

「…はぁ」

 とため息を出した。

 

 次の瞬間、塹壕内に発砲音が響いた。

 ジュリアンは写真を落とし、地面を弾くように打ち付けた。

 響く衝撃に塹壕がざわめく。


「あああああああああああぁッッ!!!」

 その後最初に聞こえた発砲音は塹壕内からだった。

 一発、二発、三発、四発、五発――

 ジュコは声を上げてながら赤帽の隊長の方向へと歩いて銃を撃った。


「殺してやるッ! 殺してやるッ! 殺してやるッ! 全員一匹残らず殺してやるッ! 死ねッ! 死ね死ねよ死ねよ死ねッ!」

 

 赤帽の隊長は胸を銃弾でえぐられるごとに一歩引いていく

 拳銃を泥に落とし、血しぶきが舞う。

 

 ジュコを、部下を、驚きの目でにらみつけた。

 胸に手をやり、銃弾が当たるのを避けようとしたが

 弾は手に穴をあけて、男の胸を貫通する。


 緑と、灰色の軍事服は徐々に赤色に変わっていく。


「殺せジュコ。その銃で撃って殺してみろジュコ」



 声がまた頭に響くと、ジュコは目を開けた。

 残骸の中で横たわっていたジュコは、自分を見つめる包帯に包まれた子供の首を最初に、乱暴に、握った。


「殺してやるッ! 殺してやるッ! お前ぇッ!!!」

 子供は窒息して、顔が赤くなった。

 ジュコの腕を握って止めようにも、ジュコは止まらず子供の首を握った。


 片手だけ外して腰に手をやり、いつものレミントンを手に取って子供の頭に突き付けた。


 引き金を引き、子供の頭を何度も銃弾で撃ちつけた。

 



 

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