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伝説の本   作者: 西村系
キャピタルヨルグ(アダルマ)

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17/31

戦士たちの墓場

「ヤト、やれ」

 オルフェンが初めて、ヤトに命令をした。

 吹雪が吹く静かな墓場に、彼の声が響き渡った。

 

 ヤトは返事をしなかった。オルフェンはただ静かにジュコに背中を向け、そして去っていった。

 そのまま歩いていくオルフェンは、いつの間にか吹雪に飲まれ、そしてその背中は見えなくなった。


「…?」

 ジュコの息はまだ荒かった。

 皮膚は冷たい雪のせいで赤くなり、脚は震えていた。



 ジュコは目を閉じ、そして安心した。

 もう終わりだと、一瞬錯覚したのだ。


 ヤトはオルフェンの命令を聞くはずがない、もう、オルフェンは戦わない。

 …きっとそうだ。

 きっとそうなんだ…と、ジュコは思っていた。


 目を開けて、アダルマの残骸が見れると思った。

 目を開ければ、ショーンの場所へと戻れると思った―――


 もう考えるのは疲れたのか、ジュコはさっさと目を開けた。


 目の前に広がっていた光景は、想像とは全く違っていた。

 泥と、汗のにおいが鼻に付きまとう。

 薄汚れた軍事服を着た状態で目が覚めた、背中にはグレイブホーク・ライフルが担がれていた。


 腰には、ジュコのガンベルトではなく、爆弾、食料、グレイブホーク用の弾があった。

 靴は、泥が入らないように締め付けられたブーツ…


 自分を見ていると、先の方で爆音が鳴った。

 顔を上げ、先を見ると枯れ木が並び、空は赤く、同時に灰色に汚れていた。

 緑の痕跡はすでになく、地面も、そこに倒れた人間たちも、全てが灰と、そしてほかの兵士たちに埋もれていた。


 ここは、戦場だ。

 それもただの戦場じゃない、ジュコはすぐに分かった。


 全大陸第3部歴史章第6章”ハコシタ”。

 ハコシタ大陸は三か国に分かれた大型大陸でその大きさはアリアドンテに匹敵する。

 三か国は三か国同士の領地を争って戦争を繰り返し、そしてまた繰り返した。

 その結果もう、緑も、空の青も見れなくなった色が抜けた大陸らしい。

 

 ”サムライ” ”カタナ” ”ブシ” すべてはハコシタ大陸デンカ国の作りものと聞く。

 今、多分ジュコの前に広がるのは第二国目アルケケとの陸戦だろう、大量の侍が、銃をもった兵士たちの”寝ている”ため…


「ラズバノッ!」

 後ろからこっちに駆け寄ってくる声が聞こえると、急に大量の軍事服を着た兵士たちが自分を超えてライフルを構え、先へと、戦場へと突進する――


「何を立ち止まっているこの――」

 次の瞬間、銃声が鳴り響き、隣の兵士の頭が弾け飛んだ。

 血がジュコの顔にかかる。


 大きく息を肺に入れ込み、深呼吸をして、横たわって血を流す兵士を見た。

 兵士は、ジュコの名を知っていた。

 

 でもそんなこと考えている暇はない…

 背中の銃を手に取り、水のたまったクレーターに入り込み被弾を避けた。

 最初にしたことは、銃を調べることだった。


「グレイブホーク・ライフル…ハコシタ大陸の戦争でよく使われた前装式ライフルか。見たことがなかった…腰を見て銃弾を手に取った、口径は比較的小さめのもので、リボルバーとは全く違う」


 ジュコは銃を無に向かって構えた。

「呼吸をするだけで照準が乱れる、精密射撃を実現できる銃ではあるが、問題は使い手にある。これは多分……名射手が使うための武器だ」


 銃を下ろして、自分の胸のバッジをみた。

 やはりそうだった。 

 ジュコは”アルケケ”側の兵士だ、だから銃を持っている。

 じゃなければ今頃侍たちにとけ込んで突進していただろう。


 クレーターから頭と銃を出した。

 まず構え、そして慎重に息を整えようとしたが――


 爆音が前で聞こえ、それと一緒に吹き飛んでいく兵士たちの絶叫も聞こえた。


 最悪だ、最悪だ、最悪だ、最悪だ。

 ジュコはまた頭を隠して、銃をよく握りこんだ。


「大丈夫、ここは俺の墓場にはならない、ならないんだ……!!」


 また頭を上げる前に、グレイブホークに銃弾を静かに装弾しようとしたが、手が震えてうまく入らない。

 必死に入れようとして乱暴に銃弾を入れこむと、間違えて落としてしまう。

 クレーターの中で銃弾は回転しながら、泥だまりに入っていった。


 糞。


 何とかまた銃弾を取り出し、今度こそは装填し直そうとした。

 ジュコは一度、深く息を吐いた。


 金属と木がかすかに触れ合う乾いた音。

 細長い棒で中身を押し固めるたび、銃身の奥から鈍い反響が返ってくる。まるで墓穴を突く音だ。


 彼は一瞬だけ動きを止め、火皿のあたりを確かめる。

 小さな仕掛けに、新しい火種を与える仕草は、祈りにも似ていた。


 最後に撃鉄を起こす。

 カチリ、と冷たい音が鳴った。

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