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伝説の本   作者: 勇気
アリカポル
16/16

バニラ・ラテ

「はぁ、騎士とかだるいだるいだるいだるいだるいだるいだるいだるいだるいだるいだるいだるいぃッ!」

 アリカポルの西門の外側。巨大橋を超えて、森とアリカポルの境界には、地面で駄々をこねている成人女性がいた。

 服装は銀の鎧に胸には青く光るクリスタル、青の紋章にきれいに磨かれた銀の鎧に赤い柄。

 背中には青いマントが鎧につるされていた。

 彼女は仕事をサボっていた。仕事をサボって外でお昼寝をしていた時、兵士に見つかってしまった。

「あのぉ、バニラ様…お願いしますよ、ただでさえダンジョンに入れられてないんですよ? 喜んでくださいよ、もともと、リン様が死んだのもバニラ様の管理不足って王様が…」

「てめぇッ! それうちの顔みて言ってみろ弱者男性ッ!」

「ひ、ひぃ」

 兵士は一歩後ろに引いて、両手を前に出す。

「はぁ、眠いなぁ…」

 バニラは緑の地面に横たわりながら、風で揺れる枝を眺めていた。

「バ、バ、バニラ・ラテッ! い、今すぐ職務に戻らなければ騎士であれど、裏切り者として王に報告するッ!」

 両手に剣をもち、バニラに向けて兵士はそう言った。

「適当なこと言うな」

 バニラは一瞬で話を切った。

「もぉ、本当に、バニラ様、帰ってきてください、お願いしますよ、もう何日も立つんですよ。オレも今日バニラ様をお城に、それか兵士城に持ち帰らなきゃどやされるんですよ……ここにいてもリン様は帰ってこないですし、王様は娘をなくしたままです」

「…」

 バニラは黙った。目を閉じ、聞かないふりをした。


「私の名前はバニラ・ラテ。心臓を竜心に変えられ、今も燃え上がる炎で鼓動を打ちます。私はこの国の者をすべて守り、だれも殺させはしないとその竜心に誓いました。しかし、最も重大な任務を任され、数年もたたないうちに私はリン様を”殺して”しまいました。ポルレ王様。罪深きバニラ・ラテを、お許しください。」

 バニラはお城のホールにいた。

 玉座に座り、バニラを見ていたのはポルレ・カイロであった。

「お前が連れて帰ってきたのか?」

 ホールの入り口で私語をしていたのは二人の兵士だった、一人はバニラを連れてきたという男。

「連れ戻した…というか、いつもの木の下に行ってみたらもういませんでした」

 バニラに話をする王のほうを向いて、彼女を連れてきた気の弱そうな兵士は言った。

「お前が何か言ったんだろう? 違うか? 上出来だよ、本当に」

 渋い声をした兵士が彼を褒めた。

「多分ですよ、多分…多分、バニラ様は、リン様の死を悔やんでいるんだと思います。自分が実力不足…というより、寝てばかりだったから」

 気の弱い兵士がそういうと、渋い声の兵士はさえない顔をした。二人は沈黙に戻り、再び王とバニラの会話をただ聞いた。

「私は、誓い破りでないことを、証明したいです。ポルレ様! この私バニラにもう一度チャンスをくださいッ! リンの殺害者を、私の竜心に誓って、復讐させていただきます。その首を国中に掲げ、皆に仇を討ったことを示しましょう」

 彼女は膝をつき、青いカーペットに額を落とした。懺悔と復讐の誓いが、震える声で王座に向かって放たれる。

「もう、いってよい」

 王は、承諾も、拒絶もせず。ただバニラをホールから追い出した。

「認めさせます。私の実力で、数万人の首を私が持ってきます」

 ゆっくり立ち上がり、王と女王に背を向いて彼女はホールから出て行った。

「本当に、悔いているのか?」

 遠くから兵士のつぶやきが聞こえた。

 バニラはそれを無視し、そのままホールを抜け、城門から出ていくとロープと人力で動かされたエレベーターに乗って鈴を鳴らし、下へと移動していく。

 下町には、彼女の影を見てついてきたアリカポルの民が彼女を待っていた。

「誓い破りッ!」

 集まってくる数百人の中から男性が1人叫んだ。

 すると、青い鎧に腐った卵が当てられた。

 バニラは驚き、瞬発的に目を閉じて、少し震えあがった。

 一人の男から始まった非難は、徐々に広がり、つぎの瞬間には大勢がバニラに向かって誓い破りと、姫殺しと、そう怒鳴っていた。

 バニラの竜心はそんな大勢の中で強く鼓動を打ち始める。

 彼女は非難を受け、石を投げられながら小通りを歩き、姫が最初にいなくなったアリカポル学校に向かうしかなかった。


 少し時間が経ち、そこはアリカポル城一階、緑の中庭だった。そこでは二人の貴族が話をしていた。

「バニラのことは信じられるのかしら」

 小池の前には一つの木製のベンチがあり、そこには女王、ポルレ・ユンが座っていた。

 目の前には考え事で足が止まらず、ベンチをぐるぐる回っている王、ポルレ・カイロがいた。

「この一週間誓い破りといわれてきた騎士だ、汚名も現れてそう長くはない。彼女がうまくいけば晴らせるが…正直、ピチューノ人数万人を尋問、殺害…本当にできるのか? 私でさえも疑ってしまうよ」

「”あなたでさえ”と言っていますが、あなた、あなたが一番疑うべきなのよ」

 王は唇を噛み、言葉を探すように目を伏せた。やがて小さく頷き

「…それも、それもそうだな…」

 と小さく漏らした。

 王は納得して、ようやく女王の隣に座り、葉のない木を二人で見つめた。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「リン、ポル塔からつながる橋は、安全なのか? ポル塔に入った時、一目だけ見たことがある気がするが…」

 ポル塔一階、ジュコは重い木材の扉を開こうとして全体重を乗っけていた。その後ろには彼を見守るリンがいた。

「ねぇねぇ、ラズバノさん! お城に帰ったらパパが抱っこしてくれるかな! パパはね、あのカーリーお姉さんと同じでシュッシュッって走れるんだよ、どんな魔法も使えてすごいんだよッ! パパに魔法を習ったらね、ラズバノさんもすごく強くなると思う!」

 にやにやしながら両手を握って宙に振りながらリンが言った。

「ふっ」

 ジュコは思わず微笑んでしまった。

「どうしたの?」

 リンはジュコの笑いを不思議に思った。

「何でもないさ、あともう少しでお城に戻るから。あまりはしゃいでないで、体力を温存しておいたほうがいいぞ、お父さんに会ったら思いっきり遊びたいだろ?」

 扉を開け終わると、ジュコは先に通り、その後リンを通らせて扉を閉めた。

「ありがとう」

 リンはお礼をする。

「橋は、確か右側に行けばあるんだったよね」

「うん」

 リンは頭を上下に振った。

 二人でポル塔の壁を右に少し歩くと、すぐにボロくなった木とロープで作られた橋があった。

「あっと…確か、この橋はお城の二階のダンジョンにつながるんだよね? これ…まずまず、整備されてるのか?」

「わかんない」

 リンは無邪気に答える。

 橋の板は凍った雪で滑り、その上壊れやすくなっていた。

 手を添えることができるロープはほぼちぎれているも同然で、通るには相当な精神力が試される。

 ジュコはごくりと、つばを飲んだ。

「と、とにかく、進んでみよう」

 ジュコはそう言って左手でリンの右手を握り、一歩先に、慎重に進んだ。

 カニ歩きで橋の右側を歩き、目の前には曇ったアリカポルが見えた。ところどころ雪が降っており、木製の家たちと、自然と魔法を組み合わせた街が非常に生き生きしていた。

 リンはジュコの隣に立ち、同じくカニ歩きで橋を渡っていく。

「ラズバノさんは高いところ苦手?」

 ジュコの不器用な歩き方を見てリンは聞く。

「い、いや。そんなじゃないさ、多分」

 できるだけ下を見ずにジュコは進む、二人でそのまま歩いていくと大体橋を半分ほど渡りきれた。

「よし、よし。よし、このまま、このペースで進もう」

 ジュコはそう言ってカニ歩きを続ける。

「うん」

 リンは行儀よく返事をして後ろからジュコの手を握りながらついていく。


「3、6、9、12、15、18。眠気を消すには3の段を数えるのが効果的だと私は教えられた。しかし、3の段は幻影に効くのだろうか? 私が今見ているのは、死んだはずの子供に、その小さな手をつなぐ大人…」

 ジュコが渡ってきたポル塔のふもとから成人女性の声がした。

 振り返り、女を見ると、彼女は片手に青く光る魔法剣をもち、宙には魔導書が浮いていた。

 その暗い青髪は風に揺らされて、その目はこちらを向いていた。

 魔法剣を挙げると、ジュコの方向に向いて見せた。

「てめぇ、何うちの姫とイチャイチャしてんだ糞野郎」

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