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伝説の本   作者: 勇気
アリカポル
14/14

大通りの宿屋

「今お前のお遊びに付き合っている暇はない」

 青く光る魔法で作られたアリカポル城の玉座に座り込むのは中年の男性だった。

 広いおでこに、太い鼻筋、その細い目からは見る人を圧倒するようだった。

 男はこけた頬をしていて、黒く染められた髪はオールバックにしていた。

 その隣にはもう一つの玉座に座り、まるで兵士たちを見下しているような女性がいた、雪のように白い肌を持ち、長い鼻に赤い唇、目の下にはまるで涙のようなほくろがあった。

 髪色はオレンジで、服は隣の玉座にいる男と同じく、青色と金色の美しい布だった。

「あきらめてるのか?」

 玉座の前にいたのは若い男だった。

 玉座に座る男と同じく髪を黒く染めており、腰にはハコシタの刀を持っていた。

 服さえもよく見ればハコシタ産の浴衣を着ており、一目見るだけでハコシタ人だと思うだろう。

「私の娘は死んでいる、ローリオン殿も私のために彼女の遺体を持ってきてくれた」

 玉座に座る王、ポルレ・カイロは言った。

 しかし、そんな王がしゃべり終わる直前に若者は怒鳴った。

「ローリオンなんてマルザの糞だッ!」

 すると王は立ち上がり、眉間にしわを作って若者をにらみつけた。

「私の息子とて、ローリオン殿への侮辱は許されないぞ」

 すると玉座近くにいた騎士二人が槍を王の息子、ポルレ・シュンに向けた。

「ゴミがッ! てめぇら全員ゴミだッ! 実の息子に槍なんか向けやがって」

 シュンはさらに怒鳴ると騎士たちが一歩前に進み、槍を近づけた。

「…」

 シュンは黙りこんだ、向けられた槍を見て、その後父をにらみつけた。

「…リンは死んでいる、お前も彼女を見ただろう?」

 王は少し優しい顔をしたようだった。

 シュンは今年二十二。背の高い男で、父譲りのオールバックは乱れていた。

 右手には酷い火傷が残っていたが、浴衣で隠されていた。

 槍を向けられたまま、シュンは背を向け、ホールを抜けて廊下へ去った。

 残ったのは4人の騎士と、二人の貴族だった。

「あなた」

 女王のポルレ・ユンはカイロに話しかけた。

「わかってる、もう頭がいっぱいなんだ…」

 人差し指と、親指で眉間近くをマッサージしながらそう言った。

 女王は彼を見つめる。

「今はピチューノのことも考えなければならない、アダルマ兵たちはまだ来ていない、次に襲撃なんてされたら私たちの魔法で耐えきれるかどうかも…」

 王は言った。

「私たちの戦士たちを見くびってはならないですよ、カイロ王」

 左の廊下から歩いて出てきたのは王の顧問だった。

「魔法騎士一万人で何をするのだ? ピチューノは最も人の多い王国だ、兵士だけで十万人は容易いだろう」

 王は顧問官を見た、彼には作戦があるように思えた。

「鏡ですよ、鏡を使うんです。カイロ様が我が騎士軍を背中に北門を守るんです、西門にはすでに罠が張られています、心配は無用です…ピチューノ人たちの大勢は罠にやられ、鏡送りにされます。残った者は北門へ…というわけです、カイロ様の魔法と、我が騎士軍長、バニラさんの指揮があれば、魔法弓すら使わなくてもピチューノ人たちは立ち入ることすらできません。」

 顧問官はなんだかずる賢い顔をしていた。

「例え無惨に殺されてもむざんお前のお遊びに付き合っている暇はない」

 青く光る魔法で作られた玉座に座り込むのは中年の男性だった。

 広いおでこに、太い鼻筋、その細い目からは見る人を圧倒するようだった。

 男はこけた頬をしていて、黒く染められた髪はオールバックにしていた。

 その隣にはもう一つの玉座に座り、まるで兵士たちを見下しているような女性がいた、雪のように白い肌を持ち、長い鼻に赤い唇、目の下にはまるで涙のようなほくろがあった。

 髪色はオレンジで、服は隣の玉座にいる男と同じく、青色と金色の美しい布だった。

「あきらめてるのか?」

 玉座の前にいたのは若い男だった。

 玉座に座る男と同じく髪を黒く染めており、腰にはハコシタの刀を持っていた。

 服さえもよく見ればハコシタ産の浴衣を着ており、一目見るだけでハコシタ人だと思うだろう。

「私の娘は死んでいる、ローリオン殿も私のために彼女の遺体を持ってきてくれた」

 玉座に座る王、ポルレ・カイロは言った。

 しかし、そんな王がしゃべり終わる直前に若者は怒鳴った。

「ローリオンなんてマルザの糞だッ!」

 すると王は立ち上がり、眉間にしわを作って若者をにらみつけた。

「私の息子とて、ローリオン殿への侮辱は許されないぞ」

 すると玉座近くにいた騎士二人が槍を王の息子、ポルレ・シュンに向けた。

「ゴミがッ! てめぇら全員ゴミだッ! 実の息子に槍なんか向けやがって」

 シュンはさらに怒鳴ると騎士たちが一歩前に進み、槍を近づけた。

「…」

 シュンは黙りこんだ、向けられた槍を見て、その後父をにらみつけた。

「…リンは死んでいる、お前も彼女を見ただろう?」

 王は少し優しい顔をしたようだった。

 シュンは今年二十二。背の高い男で、父譲りのオールバックは乱れていた。

 右手には酷い火傷が残っていたが、浴衣で隠されていた。

 槍を向けられたまま、シュンは背を向け、ホールを抜けて廊下へ去った。

 残ったのは4人の騎士と、二人の貴族だった。

「あなた」

 女王のポルレ・ユンはカイロに話しかけた。

「わかってる、もう頭がいっぱいなんだ…」

 人差し指と、親指で眉間近くをマッサージしながらそう言った。

 女王は彼を見つめる。

「今はピチューノのことも考えなければならない、アダルマ兵たちはまだ来ていない、次に襲撃なんてされたら私たちの魔法で耐えきれるかどうかも…」

 王は言った。

「私たちの戦士たちを見くびってはならないですよ、カイロ王」

 左の廊下から歩いて出てきたのは王の顧問だった。

「魔法騎士一万人で何をするのだ? ピチューノは最も人の多い王国だ、兵士だけで十万人は容易いだろう」

 王は顧問官を見た、彼には作戦があるように思えた。

「鏡ですよ、鏡を使うんです。カイロ様が我が騎士軍を背中に北門を守るんです、西門にはすでに罠が張られています、心配は無用です…ピチューノ人たちの大勢は罠にやられ、鏡送りにされます。残った者は北門へ…というわけです、カイロ様の魔法と、我が騎士軍長、バニラさんの指揮があれば、魔法弓すら使わなくてもピチューノ人たちは立ち入ることすらできません。」

 顧問官は唇の端をわずかに吊り上げ、細い目を光らせていた。

「…クロイ、前にも私は言ったはずだ、鏡は使わない、罠は張らない。戦争をするのであれば正々堂々と戦わなければならない。今すぐピチューノのダルボス王に猫を送り込め」

 王は顧問官の目をしっかりと見ながらそう言った。

「私が手配したカラスどもは…?」

 顧問官は聞く。

「今時誰でも飛んでいるカラスを見れば落としたくなるだろう、それに大事な連絡なんだ、猫は風のようにすばしこく、気まぐれに馬車へ忍び込む。人に気づかれず、しかも休みを知らぬ。」

 王はそう言って玉座から立ち上がった。

「猫というのは裏切る生き物ですよ、カイロ様」

 顧問官は玉座に近づく。

「しっかり訓練された猫だ、それに裏切りであればカラスにもできる」

 顧問官の前に立ち、よくにらみ合ってから王はホールを抜け、廊下へと去っていった。

「…ユン様」

 顧問官は玉座にまだ座っていた女王を見ると頭を下げる。

「私は王に賛成よ、卑怯な男ほど、仲間がいないものなのよ」

 女王はそう言った。

「ええ…」

 顧問官はまだ下を見ている。

「仲間がいない王など、無力なの。どれだけ国民が味方をしても、残り八つの王国を敵に回したら…ねぇ?」

 女王はそう言って、彼女も玉座から立ち上がった。

「八つの王国を敵に回したなら、どれほどの軍も潰えるわ。だからこそ――信頼と、誉がすべてなのよ」

 顧問官を残し、彼女も去っていった。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 カチッ。カチッ。

 アリカポルの大通りを歩いていたのはショーンとラビだった。

「お前の仲間が無事であれば、宿にいるが、そうでなければジュコはポル塔で死んでいるかもしれない」

 大通りを歩いていたラビは足を止めて、ショーンの肩に手を置いた。

 ショーンはフッと笑って、ラビの手をどかす。

「2日、3日の付き合いだ。俺はそこまで情にあつい男じゃない。死んでいたら死んでいたでいいさ、ジュコも生きていたらきっとそうしている」

 ショーンはそう言った。

 少し沈黙が続くと、ラビはまた歩き始めた。

「なら、いいよ」

 そういってポル塔に二人で向かっていた。

 

 少し大通りを歩いたところに、宿があった。

「カーラも一緒かもな…」

 ショーンはつぶやく。

「カーラ? ジュコと一緒にいた魔女か?」

 ショーンの隣にいたラビが言った、二人は宿の入り口に立って、入る準備をしていた。

 ショーンのなんだかさえない顔を見てラビはこういった。

「まさかだけどよ、魔女に恋をしたわけじゃないだろうな?」

 そういうとショーンはラビの言葉に驚き、彼の顔を見ると眉間にしわを作り、頭を後ろに、ほんの少しだけ倒した。

「そういうわけじゃない、一緒に酒を飲んだ仲だ。盗賊の俺にとっては大したものだよ」

 そういって宿の中に入っていく。

「はは、本当かな?」

 置いて行かれたラビはそうつぶやき、宿の中に入ってショーンを追う。

 宿の中では安らかな音楽が流れていて、受付の近くに演奏者たちがいることに気が付く。

「あ、あれ?! 財布がないゾっ?!」

 受付近くから声が聞こえた、観光客みたいだ。

 ショーンと別れてしまったラビはそのまま宿のホールでショーンを探す。

 宿の中は木材でできており、木目のついた柱が入り口だけで二つある。

「すげぇ場所だな…」

 ラビはつぶやく。

 アリカポル出身でも彼は宿に直接出向いたことはなかった。

 詐欺や、スリの通報はよくあるが、いつもバニラと呼ばれる騎士団の副団長に任せていた。

 天井には魔法の青い炎で照らさランプが鎖につながれぶら下がっている、地面の木材は上品な彫りが入っていて、アリカポルの地図にもなっていた。

 魔法で守られているのか、強く踏んでも彫られた木材はゆがまなかった。

「天井に作らない理由がそれか、はは」

 ラビは、また笑う。

「極めて、エレガントとでも言いましょうか」

 後ろから声がすると、ラビは振り返った。

「クロイ顧問官!」

 ラビは男の名を口にすると、彼は左手を差し出す。

 ほぼ同時にラビが右手を差し出したが、握手ができないと気が付き左手に変えた。

「とてもエレガントな場所ですよね? ラビさん、お久しぶりです。」

 クロイは手を放して、ラビにそういった。

「ええ、とても”エレガント”…ですね。お久しぶりです」

 ラビはクロイに微笑むが、次の瞬間にまじめな顔に変わり、こういった。

「リン様については、ご愁傷様です。もちろん私からアリカポル城に出向き、カイロ王様に一言いいに行くのが普通だと思いますが、今は少し忙しくて……ああ、クロイさんはなぜ宿に?」

 ラビは聞く。

「戦争のない日は、国を回るのが好きなんです」

 クロイは言う。

「はは、危ないですよ、国内とはいってもそこらじゅうスリだらけですよ」

 ラビはそう笑って言うと、誰かがクロイにぶつかった。

「すみません」

 そういって男は歩いていくが、ラビは見逃さず男を首からつかみ、男のポケットに手を入れて財布を抜き出しクロイに渡した。

「でてけ」

 そうとだけ言うと、男は走って宿から出ていく。

「なぜスリだと?」

 手に財布を握ったままのクロイがラビに聞く。

「わかるから」

 単純な説明だった。

「そうでしたら、ありがとうございます。ラビさんは先ほど”忙しい”おっしゃっていたのですが、何か問題でも起きましたか?」

 クロイは財布を革の鎧の中にしまい、ラビの隣に周り、彼の背中に手を置いて近くのテーブルまで案内させた。

「は、はは。宿の酒場は、ポル塔近くの小さな酒場とはやっぱり違うな…すごく高そうだ」

 ラビは周りを見回しながら座る。

 丸いテーブルの向こうにはクロイが座った。

「しかし、今は忙しくて…お酒を飲んでいる場合じゃないんですよ」

 ラビはそう言って立ち上がろうとするが、クロイはラビを止めて、座らせた。

「まぁ、まぁ、少しくらい問題ないでしょう? 時間なんてものは私たちを束縛するために作られたものなんです、ゆっくり、楽しみましょう」

 そういって手を挙げると、すぐに人が来た。

「今日はどうしましょうか、クロイ様」

 制服を着た若い男性が言った。

「コーラ産のワインをいただけますでしょうか」

「もちろんです、少々お待ちください」

 そういって若い男は足早に階段近くのキッチンの扉に入っていった。

「うまいワインはトリハコで作られると聞いたが。」

 ラビは聞く。

「海の近くで作られたブドウは塩味があっておいしいのですよ、それにコーラ村はちょうどレッコラと、シャルザの間にあるので、一日ちょうど20度ほどの気温で、風もよく吹くのでね」

 クロイは説明した。

 ラビはテーブルに手を置いて、頭をゆっくり上下に振っていた。

 目はクロイを見ていなかった。

「ラビさん、騎士団長に戻りたいですか?」

 ラビの目は一瞬にしてクロイに向いた。

「ポル塔近くの、タヴァンから出たのは、久しぶりですよね? 前は酒におぼれていたというのに突然…宿に現れては、”忙しい”と」

 クロイは少し声を低くして、ラビにそういった、ラビをよくにらみつけていた。タヴァンとは酒場の名前である。

「脅しのような言い方をするじゃないか」

 ラビは椅子に座る姿勢を変えた。

 腕を椅子の後ろに回し、脚を組んだ。

 若い給仕が戻り、銀のトレイにコーラ産のワインと二つのクリスタルグラスを運んできた。

 ワインは青い魔法の光を反射し、まるで液体そのものが生きているようだった。

 給仕は丁寧に注ぎ、クロイに一礼して下がった。

 ラビはグラスを手に取らず、テーブルの上で指を叩く。

「コーラのワインはいいけど、俺はヘイピットのエールの方が好きだな。塩気より、ガツンとくる方がいい。」

 彼は背を預け、腕を組んだ。

 クロイはグラスを軽く振り、微笑む。

「ヘイピットは確かに力強い。だが、コーラの葡萄には海の物語がある。さてと…ラビさん、忙しいとおっしゃるが、何に追われている?まさか、またスリを追いかけてるだけじゃないでしょう?」

 ラビの目が細まる。クロイの笑顔に隠された鋭さを見逃さなかった。

「俺は元騎士団長だ。クロイ様の財布を取り返したのも、自分なりの見逃せない正義があるからさ」

 ラビは右手でグラスを取ると、口に運んだ。

「顧問官のクロイ様こそ、なんでこんなとこで酒なんぞ飲んでる?カイロ王の耳元で金の話でも囁いてる方がお似合いじゃないですかね?」

 クロイは少し笑って、目を閉じてからグラスを口に運んだ。

 指がグラスを握る力が一瞬強まったが、笑顔は崩れない。

「王には王の道がある。私には私の…街の鼓動を感じる方法がある。ラビさん、あなただってその鼓動を知ってるはずだ。」

 そういってまたグラスを軽く振った。

「ですが、私が知りたいのは、”ジュコ”という男と、もう二人の不法入国者のことです。仲間なんでしょう?」

 周りを見回しては、体を少し前に、テーブルに近づかせてグラスをテーブルに置き、右手を口の近くに置いた。

「まさか、ここにいるんですか?」

 クロイはその丸い目をよく開けて、ラビの近くで囁いた。

「その名前をどこから出した」

 眉間にしわを作り、クロイを見下す。

「街の鼓動が、私に教えてくれました」

 クロイは言う。

 ラビの視線がクロイを突き刺す。

「街の鼓動が教えてくれた、ね。顧問官ともなると、鼓動の聞き方が違うもんだな。」

 彼はグラスをテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がる。

「だが、ジュコやその仲間って話は、俺の正義に関わる。クロイ様が知ってるなら、教えてくれよ。誰から聞いた?」

 クロイは一瞬、目を細めるが、すぐに笑顔に戻る。

「ラビさん、元騎士団長ともなれば、疑い深いのは当然か。だが、街は囁くんだ。ポル塔の影で動く者たち、例えば…黒髪の魔女とか?」

 彼はグラスを軽く傾け、ワインを一口飲む。

その間、ショーンに何が起きているのか。ジュコはリンと共にアリカポル城にたどり着けるのか。同じく宿にいるカーラはどうなるのか。

これからよろしくお願いします。

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