しずかな場所
「でも、デルモア。お前の夢は立派だと思うぞ」
太陽光を遮るほどショーンに近づいていたデルモアの肩に、今度はナイフを持たずにショーンは手を置いた。
「仲間にできないといったが、伝説の本を探すヒントをくれるなら喜んで情報を受け取ろう」
「独りにするのか。私を」
「独りじゃない、その叫びは俺がきちんと聞いた」
そういって、ゆっくりデルモアを自分から突き放し、落ち着かせた。
「私は、私は」
「”私はあなたの仲間になりたいと言った。なぜあなたは話を聞いてくれない”」
ショーンは、デルモアのように、機械的な声でそう予想をしたが、デルモアはすぐにこういった
「私は本を見つける人間が”仲間”…いや、私を理解できる人間である限り、私はその人間を応援します。しかし、本をみつけたら、私の場所へむかうことを約束してください」
「…わかったさ、デルモア。お前も理解力のあるやつでよかった」
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「人にしがみつくな。助けたいからって、必死だってことを見せてはならない。あんたは優しい感情を出せば、それが利用されると思え」
「…あぁ」
ジュコは、さっきまでカーラが座っていた椅子に座っていた。
カーラは彼の前に立ち、そして授業を始めた。
「助けたいなら助けろ。決して”助けたい”と言うな」
「でも、どうやって」
「人の頭は、ふふ、あぁ、人の頭ってのは物すっごく弱い肉の塊よ。うまくいけば一言で”嘘”を”真実”だと確信させる方法だってあるの」
「例えば?」
「あんたはガンスリンガー?」
「…旅人だとおもう」
「でも周りから見たら、その腰には二つの銃があって、あんたは腕を巻いた長袖のボロボロのシャツを着てる。それだけで十分ガンスリンガーよ」
彼女は部屋をぐるぐる回りながら説明していた。
ジュコは最初、メモを取ろうとしたがカーラがそれを止めた。
「ガキっぽいしかっこよくないし、捕まった時に探らればメモが見つかる」
から。
「あんたは威圧的で、冷酷な、ガンマンなの。相手の言うことなんて一切聞かない、自分の思ったことを自分でやる男なの。ショーンを見てみなさい、あの人は完璧なあんたのなりたい人間図よ」
「確かに、外見的に言えば十分な盗賊だけど、俺は違う。人の死を十分に見てきた顔なんてしてないし、人の全財産を盗める顔もしてない」
「あんた遠回しにショーンのことおちょくってる? まぁいいわ、あんたは思い込みでああなるの。殺さなくてもいい、言葉と態度だけで十分説得させられる。それに顔つきなんて若いあんただったらすぐ変わるわ」
彼女は一瞬足を止めて、ジュコを睨みこんでからそういった。
しかし、すぐにまた足を動かした。
「あとはポーションと、魔法の実演よ。これもすべて人の頭を狂わせる使い方ができるの。バーサークポーションを覚えてるでしょ、あれは人間の精神に直接触るものなの。でも、ほかにもいろいろある」
「例えば?」
「例えば? なんて聞かれたら確かに難しい質問なんだけどね。でも、人喰い族。なんて言葉、知ってるでしょ」
「まぁ、知ってるけど。ラズバノ大陸だけじゃなくて、いろんな場所にいる人間の種類…? みたいな糸たちでしょ」
「そうね。もとは普通の人間として生まれるけど、大昔ある暗黒魔術師のグーラが人間にかけた魔法が発端よ。それからは魔法をかけられた者たちは永遠に腹が空き、そして肉を求める。何を食べようにも満たされなくなり、そしてしまいには人間の肉を求める。グーラは狂気を世界に見せたかったの。暗黒魔法の狂気を世界に見せたかったのよ。私は魔女、グーラが弟子入りした混沌と死の大魔女の弟子なのよ」
「その、魔女の名前は?」
「言えないわ。聞こえてるから」
「…?」
「でも、彼女が何をしたのかならいえるわ。そしてどこにいるのか。授業ついでに教えてやろうか?」
「遠慮するよ、そんな物騒なこと…」
「へへへへ」
カーラは軽く笑って、そして話をつづけた。
「要約すると、この世には人間を狂わせる魔法の類が死ぬほど存在するってこと。あんたには軽い物を何本か教えてあげるわ。ちなみに! これもすべて大魔女との契約で一瞬にして手に入れた魔法の知識たちなの。じゃあ教えるね」
「え? あぁ」
ジュコは彼女の言葉を無視して受け入れた。
「ベズミエ。ジョヌン。ウァッツィン。この三つは人間を狂気に落とし込む魔法でーす! マナが多ければ多いほど強力に、そして長時間相手にぶち込みます。 特にベズミエは注意、自殺をさせる危険性があるから、でも同時に何か秘密をしゃべらせるのにも使える魔法だよ」
「えぇ…」
「ジョヌン! これは古代ラズバノ語で”狂気”という意味さ。 マナが足りなくても強力で、相手に過去の幻覚を見せられる上に! なんと現実と夢を複合させたり、相手を一生”考えなくさせる”こともできる。一生分の障害を与えることができるんだよ。でも、非常時以外には使わないことだね、使うと大魔女に寿命の15年を吸い取られるんだ」
「一番便利なのはウァッツインだね。相手を必ず説得させられるんだ、何事もね。でも、代償がその代わりとても大きい。大量のマナを使うって言うのはもう当たり前なんだけど、失敗してしまうと何事に対しても”イエス”と答えてしまう上に、一度”イエス”と答えたお願いごとも、全て――体が強制的にかなえてしまう」
「あんた、ベズミエくらいだったら簡単に使えるんじゃない?」
カーラが続けた。
「…魔法の練習だったら、普通のモノから始めるのがいいと思う」
「あ、それもそうね」
そうしてカーラは魔導書をもって、ジュコと一緒に部屋を出た。
「あの、カーラ? ショーンと話がまだあるんだ、それに奴隷の子供のこともある…子供はどうしたんだ、話は聞いてないけど?」
カーラが階段を降りようとしたところで、足を止めた。
「子供は北区の養護施設に連れ込んだわ」
「…子供の名前は? 会いに行きたい、挨拶として」
「人殺しの私たちがあんな幼い子に話しかけに行ったらあの子はどう反応すると思う? うれしくはないね、私だったら。 安全だと思っていた人たちが引き離されて、突然知らない場所に入れられたのよ。状況を整理させるために、一回静かにさせたほうがいい」
カーラは嘘をついた。
それもとてもうまいウソを、魔法を使わずに言った。
「それと、これからは先生と呼びなさい、ジュコ」
「それは…」
「それは何? 断るわけ?」
「お前らどこに行くんだ」
細い階段に、片足をかけて、男が一人だけこちらを見上げていた。
その男はショーンだった。
「ジュコはこれから魔法の練習をするの」
カーラがそういうと、ショーンは少し笑ってから
「なら俺もついて行こう、その最中、本について手に入れた情報を共有しよう」
「それがいいな」
ジュコは前に立つカーラを超えて階段を下がり、そして背中を向けて宿屋を出ようとするショーンの隣を歩いた。
「…」
カーラも二人について行く。




