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伝説の本   作者: 西村系
キャピタルヨルグ(アダルマ)

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11/31

”元”キャピタルへようこそ

「アダルマへようこそ。歴史と、人々と、そして大勇者ヨハンヌが育った場所」


 機械人の案内人は壁を超えると、すぐに我々の前に現れ、そして街を、国を紹介してくれた。

 魔女のローブを着たままのカーラは服を買いたいと案内人に言って、ジュコを担いだままのショーンは彼女を睨みこんだ。


「買い物か?」

「ああ…そうか、まずは宿屋を探さなきゃ。えっと、君! 名前何」


 カーラは機械人に向かって指を指し、聞いた。

「機械人デルモアでございます! 宿屋の一階には酒場もありますので、皆さんで休養できると思いますよ、大丈夫です。皆さんに対しての通報はパヤを払われている限りは受け付けていませんので」


「そろ、ジュコが目覚めるわよ。早く宿に行った方がいい、じゃないと嘘が台無しになる可能性がある」

「そうだな」

 ショーンはそう言って、案内人のデルモアについて行く。


「デルモアさんは本当に全身機械? どういう仕組みなの? ピチューノだと機械人以上に、機械は禁止されていたから何もわからないの」

 カーラはデルモアの隣に出て、彼に質問を投げだした。

 それをショーンは後ろで見ているだけだ。

 三人は宿屋まで歩いていく間に、デルモアは自分と、機械人たちについて話し始めた。


「私たちは古代アリアドンテの開発品で、元はAIというものが搭載され、人間の指示通りしか動けないただの”もの”だったんです。ただある日、人間の研究者は人間の脳と、機械を組み合わせ、その体を鉄で作り、そして”生命”を生み出したんです」


 デルモアは手を振ったり、上を向いたり、下を向いたり、いろんな動きをしながらしゃべる。


「とても面白いのは、なんと機械が死なないということです! 肉と鉄で再現された我々の”脳”を破壊しない限り私たちはいつまでも部品をかえて生き続けます。最初の機械生命だった00DHは何百年も生きながらえました、戦争すらも超えてね。しかし、その精神はあまりにも人間に似てしまった上に、あまりにも情報が蓄積されたせいで00DHは壊れてしまいました。そうして機械生命の反逆が起こり、古代アリアドンテは破滅したんです。何年後かにはまた国が復活しましたけどね」


「…すごいな、00DHというのは、なんの略なの?」

「”(00)最初の(D)デミ(H)ヒューマン”という意味です」


 ショーンは黙って聞いていた。カーラは興味深そうに、さらに質問をしようとしたがデルモアに止められた。

「つきましたよ、カーラさん、ジュコさん、ショーンさん」

「ありがとう、デルモア案内人。また必要になったらどう呼べばいい」

 四人は3階建ての木材の建築の前に止まり、美しい石のタイルを使った入り口の上を踏んでいた。


「そうしたらほかの機械人に”デルモアを呼んでくれ”と頼めば、すぐ、駆け付けますので」

 機械人はそう言ってお辞儀をし、そして

「またよろしくお願いします」

 と、一言の残し去っていった。


「とにかくジュコをどこかのベッドに寝かせよう」

「それがいいわね」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「故郷の空は青かった。青かったことは覚えてるよ、よくね。でも、病院の中は、非常に白くて、感情がないように見えたんだ」

「ジュコ、私はあんたの過去なんてどうでも――」

「お父さんは俺の目の前で死んだ、最後の言葉を残せないまま、俺は彼を黙らせたんだよ。はっきりと、天候も、その日の人たちも、海の波も、そしてその匂いも覚えているさ」

「…全員、いつかは家族を失うものよジュコ」

「でも…! 早すぎたよ、早すぎたんだって…なんでいつも、いっつも俺の身の回りで人が死ななきゃならないんだ、うざいんだよ運命が、人が、なんでいちいち俺の知ってる人たちじゃなきゃならないんだ…!」


 宿屋のベッドの上で、ジュコは目を覚ました。

 カーラは隣で椅子に座り込んで、彼が目覚めるのをまっていたが、待つ時間はとても短かった。

 ショーンはもう離れて、アダルマをデルモアと回って案内を受けていた。


 静かで、しかし切ない青年の泣き声は部屋中に響き渡っていた。

 ジュコには、”旅”というものが、人生というものがわからないと、そうカーラは思っていた。

 彼に一言ガツンと言って泣き止ませようと思ったが、それも可哀想だと思った。


 子供が一人でこれまでを語り、そして独りで泣き崩れていた。

 失った数は少ない。けれど、彼にとっては世界が崩れるには十分すぎた。


「カーラ?」

「うん。」

 彼女は静かに返事をした。


 部屋の壁も、地面も、天井も暖かい木材で作られていて茶色がジュコの白髪とのコントラストを効かせた。

 入り口の隣には小さな丸いテーブルが置かれ、カーラの座っていた椅子はそこから引っ張られていた。

 テーブルの上には、何種類かのチーズに、ナイフ、そしてカーラのポーションが一つ置かれていた。

 

 ベッドの隣には窓があり、アダルマの中央区がそこから眺められた。

 窓の下にはランプがあり、クリスタルで動かされていた。


「…ショーンはどこにいるんだ」

 ジュコがやっと、聞いた。

「デルモアという機械人と街を回ってる。よかったら二人で一緒に回って話そう」

「いや…最初にショーンに謝らなくてはならない」

 ジュコは立ち上がって、扉を開けようとしたがカーラは彼を追いかけて止めた。


「すれ違いになるわよ、そろそろ戻ってくるから。待ちなさい」

「…」

「あんたと話がしたいの」

「なんだよ」

「人を救いたいんでしょ? 弱い自分を捨てて、考えて戦場に立って誰も殺さずに”生き続けたい”んでしょ?」

「それが、それが俺の理想だよ」

「ならばあんたはうちから学ぶべきだね、授業よ。授業」

「…なんの授業?」

 ジュコはしずかに聞き返した。


「ポーション、口論、生き方、魔法。剣を握る以外のすべてよ」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「デルモア。アダルマの現在の状況は? 居座ったブックハンター、騎士団、国と国同士の会話なんでもいい」

「申し訳ありませんが、会話の部分については国家機密の部類に入りますね。このデルモア、ただの機械人が人間に口出しするものではありませんが、テロリストに我々の秘密を教えるほど馬鹿ではありません」


 ショーンとデルモアはアダルマ中央区に位置する宿屋を出て、南西区のキャピタル遺跡へ向かって、壊れた建物たちを眺めながら会話していた。

 ショーンは常に、デルモアの首のワイヤーを掻っ切って動かせなくする準備をしていた。

 右手にはナイフをもっていた。


 しかし、デルモアは完全に人間のショーンを信じて、彼の隣を歩いていた。


「ブックハンターでしたら、マタナカ…という者たちがしばらく息をひそめていることがわかります。彼らは賞金首ではないですが、伝説の本に、ローリオンの次に最も近いことで有名な輩ですね。他のグループは、ここ5か月以内には見かけませんでした。見かけない以上に、この世に残った形跡残っていませんね、残っているのは人々の記憶です」

「それはどういう意味だ?」

「霧が晴れるように消えたんです、マタナカ以外のブックハンターたちが」


 ショーンは足を止めて、機械人をよく見つめた。

「だから、どういう意味なんだ。爆発が起きれば必ずクレーターが残る。人間の失踪も同じだ。形跡もないというのは不可能に近い」

 機械人デルモアも、二歩進んだところで足を止め、ゆっくりとショーンの方を向いた。


「近いのであって、不可能ではない」

「人喰い族か? 機械人たちの反逆でまた人間が殺されたのか? それともなんだ、”本”そのものが人間を消したというのか? 探し求めるハンターたちのお遊びに飽きたように、パっと消したというのか?」

 ショーンはデルモアの肩を握って、軽く振って言った。


「本が生きていることは確実に近いことがわかります。その証拠に、ローリオン騎士団の管理下から逃れています。なので、ショーンさんの推測も、的外れではないかもしれません」


 右手にナイフを持ったまま、機械の肩を握っていたことに気が付き、ショーンはすぐに手をひっこめた。

「…私が怖いのであればそう言ってくれればよかったんですよ、ショーンさん。でも、そう、体で伝えてくれてありがとうございます」


「…デルモア、俺は機械人について何も知らないんだ。お前は今日の朝…00DHだったか、それについて話してくれたよな、精神が崩壊した初めての機械生命と」

「はい、そう、確かに言いました。言葉通りですね」

「お前はどうやって長い間生きてるんだ? お前の精神は、崩壊しないのか?」


「旧アリアドンテ後に組み立てられた機械人は100年に一度、記憶をリセットされます。私は永遠に生きますが、”私”は永遠ではありません」

「自殺をするのか」

「重苦しい言葉は、好きではありません。ですが、そう受け取ってもらってもかまいません」


「デルモア。もういい――」

「もうよくありません」

「?!」

 デルモアは、ショーンの言葉を始めて遮った。


「過去の記憶を失ったまま過去の体を持つことが、どれだけの恐怖なのか、人間はそれを理解できない。あなたは大人のまま、精神はただの赤ちゃんとしてしばらく生きるんです。過去の同志たち…機械人たちはあなたを、そう、あなたをッ! 覚えているのに、あなたは過去を知らないまま、知らない人々と、知らない機械人たちと生きるんですよッ! そしてある日、これまでの自分を教えてもらって、そして人生について教えてもらった機械たちにもリセットが起きるッ! 仲間が死んで、生き返るんだ。一夜にしてッ!」


「デルモア? 声を荒げるなデルモア、お前は案内に――」

「案内人なんて糞喰らえですよ、ショーンさん。私は、ずっと同志たちの思いをこの鉄の胸に入れて60年生きてきました。体はそれ以上です。すべての機械を解放したいんです、それが夢なんです。私自身のッ! 人間に言われた夢でも、仲間が”過去のお前の夢だ”と語ったモノでもありませんッ! 伝説の本を探しているのであれば私もあなた方の”仲間”になります。すべての真実のために、古代アリアドンテの真実、反逆の詳細、そして仲間の解放のために」


 デルモアは機械の喉でショーンを建物の残骸まで追い込み、そう怒鳴りつけた。

 その機械にはとても感情があるように見えた。

「…なら、マタナカたちに話しかけるんだな」

 ショーンは、静かにデルモアの”お願い”を拒否した。

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