盛られた薬は、3
泡立つ音とチリンと鈴の音が響く室内。
陽はもう水平線を跨ぐ頃。夜が更けていく。
囁かれる愛はどこまでも重く、執着的に攻め立てられる。これで意識が戻ったのが何度目かも分からなくなってきた。
「シシアの舌、ザラザラで気持ちぃ。」
どうやら舌にまで猫の特性が現れたらしい。でも今はもう夢と現実の区別が付かないこの現状ではメロウ様に縋り付くしか出来ない。
「ねぇ、舐めて。」
そう言われればふわふわの頭を起こして素直に従う。その度にチリンと鳴る鈴が妙に鮮明に聞こえた。
「その体勢、本当に猫みたい。シシア、かぁいい。」
朧げな視界と腰から伝わる甘い痺れに尻尾が勝手ゆらゆらと動く。まるで私とは違う生き物みたいに。
そういえば、メロウ様の尻尾をまだ見ていないなぁ。
「めろー、しゃまの尻尾、みたい……」
「恥ずかしいから触るだけ、な?」
簡単に抱き抱えられ、太ももの上に向き合う形で乗せられた。片手をそうっと彼の腰に伸ばすと小さな丸いふさふさがあった。
「くっ……ふぅ……」
耳元で小さく喘ぐ彼の声が色気を纏う。
新鮮で可愛くて、思わず頬をペロリと舐めた。
「それ以上は、我慢が出来なくなる。」
「んふふ。めろー様も、可愛い……。」
猫だからか暗闇と化した部屋の中でもしっかりと彼の表情を捉えるほどに夜目がきく。いつもは恥ずかしくて瞳をギュッとつぶっていたから分からなかったけど、こんな表情をしていたのね。
徐々に覚醒した脳が興奮を抑えきれない。
だって目の前にいる彼があまりにも愛くるしいのだもの。
昼間の余裕そうな顔が崩れ、精一杯に愛を伝える男は可憐で必死。余裕なんてどこにも無さそうなのに、強がる姿は格好いい。全身から私を愛しているって、伝えてくる。
――ああ……、この方は私のなんだ。
今日の私はやっぱりおかしい。
原因はあの薬に違いない。
彼を独占したくて、私のだって言いたくてしょうがないんだ。
「私も、証、付けたい。」
いつもならこんな事、絶対しないし言わない。
でも止まれない。これじゃあ本当に獣みたいだ。
「私のだって、跡、付けていー、ですか?」
私に首輪を付けたんだ。私だって貴方の首に証を残したい。そのぐらいいいでしょ?
「それは光栄だ。幾らでも、全身に付けてくれ。」
差し出された首元。瞳を閉じるメロウ様。
心臓がうるさい。これは私の音? それともメロウ様?
――まぁ……、どっちでもいいや。
「いただきます……?」
「なんだそれ。」
「だって、なんて言うべきか分からないんですもんっ!」
「あはは。ほら、早く噛んで?」
髪が少し掛かる真白な首元に言われるがまま、噛み付いた。消えないように、何度も……何度も…………。
自分から発せられる音はどこまでもいやらしく、艶を帯びている。その音が麻酔みたいに耳の中に充満して興奮へと繋がる。
「もっと、噛んでもいーれすか?」
「胸元に消えないやつを頼む。」
「頑張る。」
垂れる唾液はメロウ様の体温と同じぐらい熱い。舌先をゆっくりと下に移動して彼の胸板に牙を立てた。
「噛みながら吸うんだ。じゃないとすぐ消えてしまう。」
「………分かんない。ねぇ、教えて?」
私の言葉に勢いよく起き上がったメロウ様が、ベッドに横になった私の上に覆い被さった。
「煽ったのは、シシアだからな。」
それだけ言うと私の首元に自身の歯を立てた。首元だけじゃない、胸に、腰に、太ももまで。身体の至る所に赤い花が咲いていき、出来上がった身体は愛に溺れていた。
「シシア、愛してる。」
腰に伝わる重みと耳元に囁かれる吐息混じりの感情は、私だけに向けられたもの。その事実が嬉しくて涙が出そうになる。だから私もすかさず彼の耳を少しだけ噛んで「愛してる」を伝えた。
「これは、堪らないな……。」
彼の言葉通り、熱はどんどん上がり消えなかった。
重なる二人の獣は一晩を軽く超え、正気に戻ったのはまさかの三日後だった……。
この珍事件のせいで更に仕事が増え、クレハ様とザリールに呆れ顔をされたのは言うまでもない。そうして執務室に疲労回復薬が納品されると、伝令役を捕まえた私とメロウ様はそれぞれにナナフシへの怒りの手紙を持たせたのだった。
『ナナフシさん。二度とあの薬は作らないでください。シシア。』
『ナナフシ。あの薬の販売と製造を禁止とする。ただし、数ヶ月に一度、疲労回復薬に混ぜて二本ほど納品するように。次はシシアの方も兎耳で頼む。メロウ。』
互いの手紙を見たナナフシは大笑いしてまた違う新たな薬の製造に勤しむのだった。
久しぶりの番外編。最後まで読んで頂きありがとうございました(〃ω〃)
新作、鋭意製作中ですのでお楽しみに〜




