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盛られた薬は、1

お久しぶりです( ´ ▽ ` )

今日から3日連続投稿予定です〜

お楽しみに!!

「さて、ここに小瓶が二つある。シシア、覚悟はいいか?」


 メロウ様の執務室で二人、神妙な面持ちで向き合っていた。机には小瓶が二つ置かれている。


 中身はそれぞれ違う。

 一つはショッキングピンクの液体。

 もう一つには蛍光イエローの液体が入っていた。


 前世のエナジードリンクよりエナジーを感じる毒々しい見た目が口に運ぶのを躊躇わせるが、私達二人にはこれを飲む以外の選択肢はなかった。


「………………覚悟、出来ています。」


 冷や汗が額を通る中、私とメロウ様は互いに小瓶の蓋を開けた。ムワッと香る甘ったるい匂いに絶望を感じずにはいられない。


「じゃあ、せーので飲むぞ?」

「はい……。」


 精霊王であるメロウ様ですら引き攣る表情を浮かべている。なんでこんな事になってしまったのか。時間を遡れるなら迷わず私達はあの日へ遡るだろう。才能の塊であるナナフシに仕事を頼みに行った一ヶ月前のあの日に……。



 一ヶ月前のある晩秋の事。

 鼻先をくすぐる朱色の葉が地面に絨毯を引き始めた頃、私とメロウ様は土魔法で豊かな土壌が広がる放牧地、つまりは土の領地ウーレアルに視察で訪れる事になった。


 ウーレアルは精霊城から一番遠い位置にある浮き島で、移動するのも数日かかる。ここ最近、多忙を極める私達はかなり疲弊していた事もあり、ウーレアルの本格的な視察を前にナナフシに会いに行く事にした。


「なんとしても疲労回復薬を貰わねば。」

「メロウ様、大丈夫です。ナナフシさんは大のお酒好きですから、これがあればイチコロですよ。」

「…………悪い顔になってるぞ、シシア。」

「――っ!?」


 と言うのも、メロウ様は通常業務に加えて冬越しの準備、更にはクレハ様とザリールが最愛の儀に入るに当たって諸々の調整を必要としている。そして私はモナルダ病棟での浄化に加えて、最近は訪問浄化の仕事にも着手し始めていた。

 

 今は首都パウラニアを中心とした病院への訪問だけだが、今後は他の領主にも訪問出来ればと考えた試みである。その為、失敗は許されない。緊張の糸をずっと張り続ける状況はかなり精神をすり減らしていた。


 メロウ様と私は互いに常に疲弊の中にいる。そんな中で私達を支えてくれていたのがナナフシ特製の疲労回復薬だ。これが疲れた身体によく効く。疲労回復に加えてビタミンなどの栄養も取れるとあって、一日に一本欠かさず飲んで仕事に励んでいた。


「これ無しでは仕事にならんな。」

「ですね。ナナフシさんってやっぱり天才だったんだって、実感させられます。」


 十日に一度、二十本の納品をお願いしていたある日、小瓶と共に一通の手紙を渡された。手紙の主はナナフシだ。


 『疲労回復薬を作るの、飽きた。』


 手紙にはたったひと言、それだけ書かれていた。


「はえっ!?」

「あの気分屋の化け猫め……。」


 よくよく見ると手紙と一緒に送られてきた小瓶の中身は全て空。疲労回復薬は一つも入っていなかった。


「メロウ、様……、明日からどうしましょう……」


 もはや中毒化していた私達二人にとって明日からアレがないのは死活問題と言っても過言じゃない。それと同時にナナフシのいい加減具合は知っていた身として、自分の考えが甘かったと反省をした。

 リナと暮らし始めて以来、ナナフシもだいぶ大人になっていたから安心していたのに。まさか、ここで裏切られるとは。


「……よし、ウーレアルに視察に行こう。ちょうど要請も出ていたし、そのついでにナナフシを締め上げに行くぞ。」


 そうして疲労困憊の私達二人は身体に鞭打って仕事を調整し、ようやくの思いでウーレアルに、ひいてはナナフシが経営する診療所に辿り着いたのであった。


「よぉ、久しぶりだな。坊ちゃん。」


 この国の偉大なる王を坊ちゃんと呼び、ソファで寝転がる態度の悪いこの人こそ、医学の腕だけが取り柄の元人間の精霊、ナナフシだ。


「何度も言うが、その坊ちゃん呼びをやめろ。」

「無理だな。私は先代からお前をよく知ってるんだ。いつまで経っても私からすればお前は坊ちゃんさね、バカヤローが。」


 こんな軽口を叩いても許されるのはナナフシぐらいなものだろう。そのぐらい彼女はこの国にとって重要な人物であるのだけど、態度も口も性格も悪い。メロウ様がため息を吐くだけで口を閉ざすのも無理はない。


「ナナフシさん、お久しぶりです。これ、手土産です。」

「おおっ!! 流石は、我が弟子。よくやった。お前はやれば出来る奴だって信じてたぜ。」


 相変わらず調子も良い。

 パウラニアで買ってきた酒を手渡すと座っていたソファからピョンっと跳ね起きて酒を大事な我が子の如く胸に抱いた。


「そんで、こんな上等な酒を持ってくるって事はアレだろ。疲労回復薬が欲しいって事だろ?」

「話が早いな。金は十分に払っていた筈だ。ちゃんと納品してもらわないと困る。」

「そう言われてもなぁー。アレに頼り切っていると駄目な事ぐらい分かっているだろ。」


 痛い所を突いてくる。

 あの疲労回復薬は一時的なもの。身体に蓄積される疲労を消す事は出来ないし、全回復になる事もない。


「医者としてもアレを使い続けるより、たまの休息を取る方をオススメするぜ。」

「分かっている。だがな、こちらはあんたと違って激務なんだ。この冬支度を終えるまでは気が抜けん。」

「あーあ、そうかい。為政者は大変そうでなによりだよ。リナ、こっちゃこい。」


 ナナフシがひらひらと手を振ると一人の少女が現れた。私の尊属メイドをしてくれているナリと瓜二つの顔立ち。それもそのはず、彼女はナリの双子の姉でリナと言う。


「お二人、とも、ご無沙汰、しており、ます。」


 綺麗なカーテシーを披露するリナは、数ヶ月前にナリと共にナナフシと養子縁組をした。ナリの方は今も精霊城でメイドとして働いているが、リナはなぜかナナフシに懐いている様で、今もこうしてこの小さな診療所で共に暮らしている。ここの偏屈な家主と何故か馬が合うらしい。


「リナも元気そうで良かったわ。」


 獣王国の一件で、今も言語障害が残っているのが悔やまれるが、元気そうでホッとした。


「坊ちゃん達に納品していた疲労回復薬だが、ありゃ全部リナが作ったものだ。」

「えっ!?」

「リナは覚えがいい。どっかの馬鹿弟子よりよっぽど見込みがある。魔法を使わない医学に関しちゃ、もうそこらの医者より腕が立つだろうよ。」


 ポンポンとリナの頭を叩くナナフシ。彼女がここまで言うなら間違いないのだろう。リナも満更じゃなさそうに顔を綻ばせた。


 一つ気になる点を挙げるとしたら、その馬鹿弟子って私のことじゃないよね!?


「ほう。ナナフシが言うのだから本当なのだろう。こいつの腕だけは信頼しているからな。して、リナ。冬支度の間だけでいい、今までの通り我々に疲労回復薬を作ってはくれまいか?」


 メロウ様の表情が明らかに明るくなった。

 と言うのも、ここへ来る間にメロウ様とナナフシの説得には相当の交渉が必要だろうと考えていたからだ。しかし、リナなら話は別。そう時間を要さずに済みそう。嬉しい誤算に声が高くなるのも無理はない。


 私も一緒になってお願いをすると、リナは少し考える仕草をしてから口を開いた。


「リナは、二人が、心配で、す。疲労回復薬、だよりは、ダメ。」

「よく言った、リナ。」


 相槌を打つナナフシの表情がどんどん歪んでいくのを見て、嫌な予感が全身を駆け巡る。


「もっと身体を大事にして貰わないといけないよなぁ?」

「リナ、二人の為に、もっと、良い薬、作る、ます。」


 やる気に燃えるリナ。煽るナナフシ。

 引き攣る私とメロウ様は逃げ場を探す。


「いや、いつもの疲労回復薬でいいぞ?」

「そうよ、リナ。アレで十分だから。容量用法はちゃんと守るからっ!!」


 リナを宥めようと心を尽くすが上手くはいかず、俄然やる気を見せる。そこに付け込む悪魔が一人。

 

「リナよ、今こそあの薬を作って見るべきじゃないか?」

「ナナ、フシさん。良い、アイディア、です。」


 パチンと手を叩く大根役者並みの仕上がりのリナを見て、私達は気づいてしまった。なんでリナとナナフシが一緒にいるのか。

 

「ここに魔力が多い奴向けの試験薬のレシピがある。最近、獣王国の医療に興味があって色々と二人で試作品を作っているんだが、試せる相手がいなくてつまらなかったんだよな。」

「試作、楽しい。でも、成果見えない、の、意味な、いです。」

 

 この二人、同族なんだ。

 どおりで気が合うわけだわ。


「二人の為に、良い、お薬作り、ますね♡」

「心配するな。身体に害する薬は作らねぇよ。ただ……、どうだったか聞かしてくれたらいい。」


 イヒヒ、と悪い笑みを浮かべた二人に負けたのが一ヶ月前。そうして交渉の末、試作薬を飲み感想を伝える代わりに疲労回復薬を作って貰える事となった。


 一国の王と妃に試作薬を飲ませるなんて、宰相であるクレハ様や護衛のザリールが許さないだろうと思っていたのに「ナナフシは昔からそうだから」で二人とも軽く認めてしまった時は流石に驚いた。


 実は先代の精霊王も何度かナナフシの試作薬の実験台になっていたとか……。

 その中には疲労回復薬なんかの素晴らしい物もあった為、こうして軽々と治験役が通ってしまうのが通例になっているらしい。


 ため息を吐く私はクレハ様がボソッと「私じゃなく良かった……」と呟いたのを聞いてしまって余計に怖くなった。


 そうして届いた試験薬。

 私には蛍光イエローの小瓶を。メロウ様にはショッキングピンクの小瓶を飲むようにと指示があった。


「…………シシア、せーので飲むぞ?」

「分かり、ました。」


 もう逃げ場はない。

 腹を括るしかない。

 全ては疲労回復薬の為!!

 

「せーのっ!」


 勢いよく傾けた小瓶から流れる液体をゴクンと喉に流し込んだのだった……。


 

 

明日からのはちょっと……、アレです。

ハハハ、期待していいです。

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