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メロウは焦る 2

「お前達、婚約したんだよな!?」

「し、したわよっ!」


 ダンっと机を叩き立ち上がったクレハの怒りの矛先は何故か俺へと向いていた。


「誰かさんのおかげで想いを伝え合った日に、精霊国中に話が拡散されて、あれよあれよと急ぎ足で婚約したせいで恋人らしい事が一個も出来てないの!」


 もっとゆっくり進めたかったのに、と嘆くクレハをザリールが優しく慰めた。婚約前はクレハが癇癪を起こしてもザリールはただじっと見詰めているだけだったのに。


 二人の関係が変わったんだと改めて実感すると、なんだか胸がむず痒くなった。


「でもあの時はそうせざるを得なかっただろ。」

「そう、だけど……っ!!」


 なぜかザリールとシャルが恋仲になったと噂が立ち、誤解したクレハが身を引こうとしたり、ザリールが頑なにクレハに想いを伝えようとしなかったりと、シシアも巻き込んで大変な事態に発展したのだ。


 事態を収拾するにはああするのが手っ取り早くて確実だった。結果的に良い方向に転んだので万事解決。


 むしろ俺とシシアを褒めて欲しいぐらいだ。


「話題が逸れてしまった。それに経験がないお前達に聞いてもなぁー……。」


 さて、どうしたものか。


「メロウ、馬鹿にしないでちょうだいな。デートの経験がなくても知識はそれなりにあるんだから。この国の宰相を舐めないで欲しいわね。」


 姉に任せろと胸を叩く素振りに一抹の不安がよぎるが、頼れる者も時間も限られている。ここは素直に受け取ろう。


「定番は街中の散策と食べ歩きよね。首都パウラニアをおしゃれな服を着て歩くの。」


 なるほど。

 クレハが言うにはおしゃれな服が肝心らしい。

 社交用のドレスとは違う歩きやすく可愛いフリルのついたワンピースが女子の間で流行っているとか。


「シシアのフリル……、絶対に似合う。」

「フリルに合わせた帽子があれば完璧よ。」


 想像しただけでも素晴らしい仕上がりになるのは間違いない。


「明日の朝一で針子を呼べばなんとかなるか?」

「そうね。ポーラにも手伝って貰いましょう。」

「それはありがたい。」


 これならシシアも喜んでくれるはずだ。

 

「その後は観劇。今人気のラブロマンスがやってるのよ。」


 ふむふむ。

 シシアも自室に恋愛物の小説を置いていたな。この前、歴史書と参考書の間にロマンス小説が挟まっているのをみつけて声を掛けたら全身真っ赤に染めていた。


 あれは可愛かった。

 思春期の男子みたいな隠し方なのも思わず笑ってしまった。


「劇場はその日貸し切りに出来るか確認が必要だな。」

「あそこは人気だけど一公演ぐらいならなんとかなると思うわ。」


 明日、伝令を飛ばしてみよう。

 俺のポケットマネーでなんとか買収出来ればいいが。


「最後は美しい景色の見えるレストランで食事。ここでプレゼントを用意する事も忘れちゃダメよ。」


 プレゼントはサプライズで渡す事を力説された。

 薄々気がついていたが、このプランはクレハがしてみたいデートなのではないか?

 

「プレゼントか。具体的にはどう言った物が良いんだ?」

「そんなの最高級の宝石とかアクセサリーとかでしょう。」


 宝石類はシシアが好むとは思えないな。

 サプライズなら別なのだろうか?


「あのー……。盛り上がっているところ恐縮ですが、よろしいでしょうか?」


 今まで聞いてるだけの置き物になっていたザリールが手を上げて話に入ってきた。


「どうした?」

「単刀直入に言いますが、そのプランは実現不可能です。」


 淡々と、当たり前だと言わんばかりに。


「「え……?」」


 驚き過ぎてザリールの方を振り向くと、彼は真顔で首を横に振りながら「絶対無理です」と呟いていた。

 

 なんで真顔なんだよ。

 無理なはずないだろ。

 クソ真面目が過ぎるぞ。


「なぜだ!?」

「なぜって、今週は休息日ですよ?」

「…………あ。」


 精霊の一生は長く、種族的に自然を愛し、のんびり生きる事を好む。そのため毎日朝から晩まで汗水流して働こうと考える者は少なく、その日暮らしの金さえあれば良いと考える。


 毎日一生懸命働いているのなんて王族ぐらいだ。

 本当にたまったもんじゃない。


 長く生きる種族特性なので仕方がないが、放って置くと無職が増える。経済が回らなくなってしまう。それは困ると言う事で、週末休みとは別にひと月の内、決まった一週間を休息日として国民全体の祝日と定めている。


 この一週間はほぼ全ての店が閉まる。

 かろうじて主食のパン屋が午前中だけ開いているぐらいだ。


「…………食べ歩き、出来ないわね。」

「観劇なんて、まず劇場に俳優がいないぞ。」

「夜はどこのレストランも営業してませんよ。」


 三人は互いに見つめ合った。


「「「………………」」」


 そして思う。


 ………………あれ。

 明後日のデート、出来ないんじゃね?


「メロウ…………」

「いやっ、まだなにか手があるはずだっ!!」

 

 働けよ、精霊っ!!

 明後日だけでも頑張ってくれ。

 お願いだ……っ!


「そう言えばポーラも一度帰省するって言ってたわ。」

「ウルバとシャルも明日一日休暇申請が出てます。」


 どいつもこいつも……。

 俺は明日も一日公務だと言うのに。


「こうなったら全国民働けと王命を使うか。」

「ダメよ。」

「ダメに決まってます。」


 優秀な宰相と側近が即座に否定する。


「だったら国王なんて辞めてやるっ!」

「もっとダメ。」

「出来ません。」

「クソがっ!!!!」


 だったらどうしろと言うんだ。

 最高のデートは!?

 シイナの誕生日祝いは!?


「俺はどうすればいいんだっ!!!」


 コンコン。

 悩める執務室をノックする音が。


「失礼します。」

「ザリール様、報告書をお待ち致しました。」


 扉を開けてやってきたのはウルバとシャル。

 現場の状況を知らずに入っていた二人は、不穏な雰囲気の三人を見て察したのか報告書を手渡すなり、すぐに「ではこれで失礼します。」と踵を返して扉へ向かう。


「二人とも、待て……。」

「は、はい?」


 そう簡単に逃すものか。

 もう、どうにでもなれ……っ!


「最高のデートプランを言ってみろ。」

「………………は?」

「だから、休息日にも出来る最高のデートプランを考えてくれ。」

「どうしたのですか!?」

 

 焦る二人にクレハがシイナの誕生日と言うことは伏せて状況を説明してくれた。


「ああ、なるほど。シシア様とデート、良いですね。」

「ずるいです……。私もシシア様とデートしたいです。」


 シャルは優秀な騎士団員だか、シシアの事となるとうるさい。そんなシャルをウルバが宥めるように口を開く。


「シシア様は甘い物と紅茶がお好きですから、美味しいと有名なパティスリーなど良いかも知れませんね。」


 …………シシアの好みをよく知ってるな、こいつ。

 そう言えば以前、護衛として一緒にパウラニアへ行っていた事があったな。


 いや、待てよ。

 このままではウルバと比較されてしまうじゃないかっ!


「自然もお好きですよね。のんびりと草原の上に寝転がるお姿は、絵画みたいでそれはそれは美しいですっ!!」


 シャルよ。

 それは一緒に暮らしていたと言うマウントか!?


「お前らには負けられんっ!!」

「デートに勝ち負けなんてないでしょうが。」


 呆れるクレハがはぁ、とため息を吐いた。


「でも実際、ウルバの案は出来ないわね。」

「…………何故ですか?」

「今週は精霊国全土が休息日でしょ。」


 クレハの言葉にシャルとウルバが顔を見合わせた。


「……だったら人間国へ行けばいいのでは?」


 ――ッ!!

 その手が合ったか!


 シシアは人間国出身。

 行きたい場所や懐かしむ場所もあるかも知れない。

 それに人間国なら一週間の休息日なんてない。

 店も観劇も出来るっ!!


「ザリール、クレハっ!!」

「任せなさいな。」

「お任せください。」


 ふふふ。

 明後日、最高なデートにしてやるぞ!


 

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