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恋敵はシャル!? 5

「クレハ様、すいません。今日のお茶会、二人だけじゃないんです。実はメロウ様とザリール、それからシャルもお呼びしてました。」

「えっ!?」


 実はメロウ様に頼んでザリールと一緒に認識阻害魔法をかけて後ろで話を聞いていて貰ったんだ。


 クレハ様は三属性の魔法を駆使して、他人の魂の色を見ることが出来る。なので今回のお茶会は庭園でもクレハ様の座る位置から死角が出来るように配置が考えられていた。


「シシア様。これは一体、どう言うおつもりですか!?」


 慌てふためくクレハ様。

 怒るのも当然だ。私以外の者がこんな事をしたら絶対に許されないし、信用なんて簡単に崩壊するだろう。ただ、私には強い免罪符が一つある。

 

「本当に申し訳ございません。ですが、モナルダ病棟で私も同じことされた経験があるんですよ。」

「あっ………。」

「これでおあいこですよね?」

「……うゔっ、そうでした。」


 許して貰えて良かった。内心もっと怒られるかと思ってドキドキしていたから。

 おそらく今のクレハ様は怒るよりも混乱の方が大きいのだろう。私とザリールを見比べてパニックを起こしている。


「ザリール、どこから聞いていた、の?」

「………………………さいしょ、から、です」

「〜〜〜〜っ!!?!!?」


 二人の顔が更に熱を持ち、赤く染まっていく。


「あ、そうだ。シャル?」

「はい。」


 庭園の茂みに蹲って隠れていたシャルがひょこっと顔を出した。


「あの、クレハ様。」

「シャルっ!? 貴方、どこから出てきてるのよ。」


 実はシャルは誰よりも早く茂みに蹲り待機していた。

 メロウ様にザリールと一緒で認識阻害の魔法をかけて貰うように提案したのだけど、「クレハ様にこれ以上勘違いされたくない」と茂みを選んでいた。


「私はザリール様のこと、これっぽっちも好きじゃないです。付き合ってもいません。ご心配なく。」


 騎士団の制服に身を包み、今度こそハッキリと否定して見せた。やっぱりシャルはドレスより、ズボンの方がよく似合っている。


 彼女の強さと魅力を引き出すのに、ドレスなんて要らないのかもしれない。


「それとな、ザリールは洗脳なんてされてないぞ?」

「ええっ!? そんなはず……、」

「だよな、ザリール?」


 メロウ様に問われたザリールは「はい」と頷いた。


「だったらあんなに良くしてくれてたのって……、」

「ただ、ザリールがクレハを想ってしていた事だ。」


 ザリールとクレハ様は互いの顔を見る事も出来ず、二人揃って俯き黙り込んでしまった。


「クレハ様。強引で申し訳ございませんでしたが、あとは貴方次第です。」


 踏み出す勇気さえあれば、残るは二人の気持ちだけだから。


「シシア様……、」

「大丈夫ですよ。町娘じゃなくても貴方は強くて優しい私の自慢のカッコいいお姉様なんだから。」

 

 ここまでお膳立てしたんだ。

 あとの事は二人に任せよう。


「誤解が解けて積もる話があると思いますので、後は二人でごゆっくりなさって下さい。」


 そうして庭園は、ザリールとクレハ様を残して閉ざされた。


 

◯●◯●◯



 目の前に立つ一人の男性。私の大好きな人。

 いつから好きなのか、なんて分からない。そのぐらい自然に、息をするみたいに愛している特別の人。


「ザリール……、その…………」


 まさか話を全て聞かれてたなんて。

 なにから釈明すれば良い?

 今更、全部嘘でしたは通用しないだろうし。


 思考を巡らせるも全然纏まらず、崩壊していくばかり。

 どうしよう、どうしようどうしよう…………


「毎月一度、必ず飲まされてたあの少し甘い紅茶の正体って……、」

「――ッ!!」

 

(だ、だだだって、貴方が洗脳されてるって思ってたから。)


 こうなっては取り付く島もない。正直に打ち明けるほか選択肢はなかった。


「その……、紅茶に薬を混ぜてたの。ごめんなさい。」

「……。」


 こちらを見ようとせず俯向くザリール。

 嫌われてしまっただろうか。もう口を聞いてもらえなくなったらどうしよう。


 怖い……。

 好きな人から嫌われたくない。軽蔑の視線を向けられてしまったら私、もう、立ち直れないわ……。

 

「あはははっ!!」


 また涙がこぼれ落ちそうになった頃、ザリールの笑い声が庭園中に響いた。

 

「なんで笑ってるのよ、ここは怒るところでしょっ!?」

「あははっ。申し訳ございません。ですが昔、母君に怒られた時の様な泣きべそをかくクレハ様が見れるなんて。」


 懐かしくて、と今だに腹を抱えて笑うザリール。

 そう言えば、厳しいお母様に怒られた時は必ずザリールに慰めて貰っていた。


 あの頃からザリールは常に私の味方でいてくれた。

 迎え入れられた厳しい世界で、自分が生きていくだけでも必死だった筈なのに。ずっと私を気遣ってくれていた。


「確かに、幼い頃は大人達から洗脳まがいの事をされてましたね。ですが、それを解いて下さったのはクレハ様ですよ。」

「わ、私が……?」


 薬ではありませんよ、とまた笑うザリール。

 大人になってからため息が増え、眉間の皺も増えた。こうして無邪気な笑顔は久しぶりに見る。そんな彼を私が洗脳から解いていたなんて。


 一体どういうこと?

 いつの話?


「はい。クレハ様がどんな事があっても私が貴方を守ってあげる。そうおっしゃって下さいました。それから、後ろじゃなくて隣を一緒に歩いて欲しいと。」


 薄い記憶の端の方、確かにそんな事を言った様な気がする。


 でも……、たったそれだけ!?

 私の今までの努力はなんだったのよっ!!


「あの日から私の心にはずっと貴方様がいらっしゃる。ですが私は犯罪者の息子。貴方の様な高貴な方に触れて良い男ではありません。」


 無意識にザリールの手を取った。


「あ、あの、クレハ、様?」

「もう触ってしまったわ。」


 貴方がそんな事を考えていたなんて。私とザリールの間にあったのは言葉足らずの薄い壁だったんだ。


「私は貴方を、犯罪者の息子だなんて思った事は一度もないわ。自分が高貴だともね。」


 だったら私が壊してあげる。

 そんな軽いしがらみ、斬り捨てて踏み潰すわ。


「ですが……っ!」

「好きよ。」

「――っ!?」

「私はザリールが、好き。」


 なんだろう、もうヤケクソに近い。

 だってシシア様との会話を全て聞かれてしまったもの。洗脳されてないって事も知ったから。シャルとも恋仲じゃないって。


 だったら、もういっそ当たって砕けてしまえ。

 なんだか恥ずかしいが一周回って吹っ切れてしまった。


「私は町娘でもないし、シャルみたいに剣を振れない。可愛げもあまりないし頑固だってメロウによく言われる。そんな私は、嫌い?」


 それに、私はシシア様のカッコ良いお姉様なんだから。


「き、らいなはずがありません。ずっとお慕いしてきました。ですがっ……」


 握られた彼の手からギュッと力が籠るのを感じた。それだけで胸がいっぱいになる。

 

「一度触れたら離せなくなりそうで、触れることすらできなかった。本当はずっと……。」


 彼の燃えるような赤い髪と瞳。

 全てが私を熱くさせる。


「ずっと……、貴方に触れたかった。」


 交わる視線すら熱くて。

 緑溢れる庭園の緑も、晴天の青も瞳には映らない。

 もうザリールしか見えないの。

 

「ねぇ、もっと触って?」

「本当によろしい、のですか?」


 少し震える彼の手にそっと頬を寄せた。

 

「いつかきっと後悔します。私のせいで苦しむ事になる。犯罪者の息子と一緒になったなんて知られたら国民から罵倒され、石を投げられるかもしれない。」


 不安気な彼の頬をそっと撫でた。


「貴方様は王族なのですよ?」

「じゃあ王族を辞めればいいかしら?」

「んな事させられませんよ!」


 叫ぶザリールの強い覚悟を見た。

 貴方となら、なにがあっても大丈夫って気がするの。


「うん。ザリールが私を守って。」

「もちろんです。」

「私はザリールを守るから。」


 苦しいのも悲しのも全部、一緒ならいい。

 二人で半分なら背負っていける。


 そうでしょ?


「本当に、貴方って人は……、」


 ザリールに腕を引かれ、気づけば熱く大きな胸の中にいた。ギュッと抱きしめられたんだ。彼の体温も、声も、少しの震えも、その全てが愛おしい。


「愛してるわ。ねぇ、ザリールは?」

「……もちろん愛しております。貴方が思うよりもずっと、ずっと愛しております。」


 その言葉で満たされる。

 メロウが監禁するほど愛に狂ってしまう気持ちが今ならよく分かる。


「ねぇ、いつから私が好きだったの?」

「………それは、知らない方がよろしいかと。」

「なんで、教えちょうだいな?」

「………だめ、です。」

「ええーー。」


 愛し愛されることが、こんなに幸せをくれるなんて。知らなかったわ。

 

「………私が剣を握るきっかけはクレハ様です、とだけ。」


 愛し合う二人は緑溢れる庭園で静かに唇を重ねた。

 

 次の日、二人のキス写真が載った号外が城中に配られる事となったが、その犯人は悪びれもなく「簡単な話だ。誤解も解けて皆が幸せになれる方法だったろ?」と執務室で愛らしい王妃を抱き抱えて宣った。


「クソ弟め……、覚えてなさいよ?」


二人の結婚はまた違うお話で……。



「そう言うば、ザリール様の洗脳を解くために飲ませていた薬って……」


 二人のおめでたい話で城中がお祝いムード一色のある夜。私とメロウ様は一つのベッドの中、戯れ合いながら話をしていた。


「ナナフシに確認したが、あれはラムネらしい。」

「……え?」


 メロウ様によるとラムネをガンガンと砕き粉状にしたものだったとのこと。


「なんでもクレハがあまりにもうるさいから面倒になって机に置いてあったラムネを渡してたんだと。」


 全てがナナフシさんらしい……。

 その晩、二人の部屋には絶えない笑いが響いていた。


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