恋敵はシャル!? 3
ザリールはあっさりと言ってのけた。その姿に呆然となる私とシャル。
「なんでですか!?」
「なんで、と言われましても……。」
思わず心の声が漏れてしまった。
ザリールだってクレハ様の事が好きだろうから、単純に告白する勇気がないだけだと思っていた。しかし、ザリールの表情から察するに他にも理由があるみたい。
「私にはそのような資格がございませんから。」
「まだそんな事、思っているのか。」
伏目がちに喋るザリールにメロウ様がため息を吐く。
「私は、普通ならここにいるのも痴がましい存在。」
「親とお前は違うと何度も言っているだろうが。」
「両親とは違う、かも知れません。そうならないように努力してきました。ですが、両親と同じレッテルは貼られるのですよ。」
レッテル?
一体なんのこと?
「私は、精霊国を裏切った犯罪者の息子なのです。」
「――なっ!?」
隣に座るシャルも驚いた表情をしていた。
「ナリとリナと同じ。犯罪を犯した精霊の間に産まれました子供です。ただ二人と違うのは私がとても運が良かったと言うことです。」
淡々と事実を述べるザリール。
クレハ様とメロウ様、二人の幼馴染みだと聞いて勝手に位の高い貴族の生まれだろうと思っていた。
二人と同じくらい所作や動作に気品を感じるし、威厳たっぷりの顔はまさしく貴族と言ったプライドからくるものだとばかり。
そもそも原作『精霊の愛し子』の中にそんな設定は一切書かれていなかった。
しかし、「これも良い機会ですから」と彼から語られる真実は、甘く簡単なものではなかった。
「私を生んだ女は世間知らずな貴族。結婚したのは商売人。さて、男は何を販売して貴族と結婚出来るほどの富を得ていたと思います?」
苦笑するザリールに私達は「分からない」と首を横に振った。
「精霊の子供ですよ。」
「――ッ!!」
精霊国と人間国では人身売買は違法とされている。特に精霊国では重罪。手を出した者はどう言った理由であれ等しく死刑が言い渡されるほど。
「男は人間の悪趣味なコレクターに拉致した精霊の子供を違法に売買していたクソ野郎です。事実を知った女も救えないバカでした。男を愛し、自身もその手を黒く染めたのです。」
この事実は今やメロウ様とクレハ様、先代の精霊王と交流のあった一部の貴族しか知らないらしい。
「二人は最終的に自分が産んだ息子まで商売道具にし、人間に売り付けようとしたところで先代の精霊王様率いる騎士団に見つかり死刑となりました。」
その後、拉致された子供達は全員が無事に家族の元に戻され事件は無事に解決した。
たった一人の子供を残して……。
ザリールは両親に裏切られた挙句、居場所さえも奪われたのだ。彼は犯罪者の息子である前に被害者じゃない。
「帰る場所がなかった私は、先代の精霊王様が周りの反対を押し切り、クレハ様とメロウ様の従者として拾って下さいました。」
今や誰もが認める実力と、精霊王を支える手腕を兼ね備えたザリール。そこに至るには、並大抵の努力ではなかったのだろう。悪女と陰口を叩かれていたシシアなんかよりも風当たりは強く、罵倒される日々が続いたに違いない。
「幼いお二人の話し相手に、と。先代はこんな私に居場所を下さったのです。」
知らなかったとは言え、思っていた以上の話で私もシャルも返す言葉が見つからない。
「従者には勿体無いほどよくして頂きました。」
「一緒に勉強させられたな。三人とも得意分野が違っていたからちょうど良かったんだ。座学はクレハが、運動はザリール、魔法は俺が得意だった。」
周りの大人達は悪意を込めて『犯罪者の息子』と呼び続けたのだとしたら、ザリールは嫌でも自分にレッテルを張り続けるだろう。彼はとても真面目な人だから。
「なんとも懐かしいですね。とにかく、私のような汚れ者がクレハ様のような高貴なお方の伴侶となるなど、ありえません。」
これは思っていた以上に根深い問題だ。
こんな話を聞いてしまっては簡単にクレハ様にプロポーズしろなんて言えなくなってしまった。
「それに、私はもう十分に頂いてますから。」
「何をですか?」
水滴みたいにこぼれ落ちてしまいそうなザリールの小声をシャルが救いげると、彼は自身の口元に人差し指を立てて笑った。
「秘密です。」
その表情は今日一番の笑みで少し誘惑的な大人の色香を纏っていた。
◯●◯●◯
あれから数日が経った。
ザリールはクレハ様にプロポーズは出来ないが、シャルが俺を好きだと言う誤解は解いておくと言ってくれた。それなのに……、
『噂のお二人よ』
『やっぱりそうなんだわ。』
『少しショックよ。爆炎の剣姫がまさか……』
噂は急速に精霊城全体に広がっていった。それも噂は盛大な尾ひれが付いて、今や『ザリールとシャルが恋仲だ』という始末。シャルが大慌てで火消しに回ったが逆効果で更に噂の勢いは増してしまった。
「シャル、大丈夫?」
「大丈夫に見えますか!?」
「……ごめんなさい。全然見えない。」
シャルはすっかり消沈。
ため息ばかりつく日々を送っていたある日、シシアの自室の扉を叩く音がした。
「あら、ポーラ。久しぶり、どうかしたの?」
「お久しぶりでございます。少し、クレハ様の事でご相談が……。」
自室を訪ねてきた不安気なポーラ。彼女の表情からクレハ様になにか良からぬ事があったのでは、と思いすぐに部屋に通した。
「それで、クレハ様がどうかしたの?」
「単刀直入に伺いますが、ザリール様とそちらにおられるシャル様が恋仲と言うのは本当でしょうか?」
申し訳なさそうに伺うポーラに私とシャルは二人して大きく首を振り否定する。シャルに至っては切実に「嘘だと信じて欲しい」と懇願していた。
「そうですか。唐突に訪ねてきてこの様な質問、本当に申し訳ございません。」
「全然大丈夫よ。」
むしろこんな風に堂々と聞いてくれてありがたいぐらいだ。
「実は、クレハ様がお二人の噂を聞いてから物凄く気を落とされてしまい、仕事でもミスを連発しているようなんです。」
お茶会での様子からでも容易に想像出来る。やはりクレハ様は今でもザリールが好きなんだ。
「残念ながら、クレハ様はお立場もあって心を完全に許せる方があまり、おりません。ましてや恋の話が出来る方なんて……。そこでシシア様にお願いがございます。」
一呼吸おいて、ポーラは母親のような面持ちで口を開いた。
「クレハ様の相談相手になって頂けないでしょうか?」
「私で良ければもちろんお受けしますが、この前のお茶会でも私はあまり……」
シャルの誤解を解くことも出来なかったし、クレハ様の本音を聞き出す事も出来なかった。そんな私に相談相手なんて務まるとは到底思えない。
「私なんかよりポーラの方が適任なんじゃないの?」
「いいえ。私ではいけないのです。」
少し寂しそうに、「いつまでも子供のままじゃダメでしょ?」と口にするポーラ。その言葉の節々にクレハ様を思っている事が見受けられた。
「それにシシア様の事は可愛い妹だと常々仰っています。貴方様ならクレハ様のお心を開けると思うのです。どうか、お願い致します。」
深く頭を下げるポーラ。そんな事を言われてしまったら無理です、なんて言えない。
「やれるだけの事はしてみます。」
こうして改めてお茶会を開く運びとなった訳だけど、
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「シャル、どうしたの?」
「私もシシア様ならクレハ様の相談相手にピッタリだと思います。ただ根本的に、手っ取り早く解決するなら少し強引ではありますが……、」
シャルのアイデアでお茶会は思わぬ展開を見せる事となった……。




