65 祝福の祭り
「姫、一人でお着替え出来ますか?」
「だ、大丈夫ですっ!」
「俺がお手伝いしますよ?」
「本当にっ、大丈夫ですから出て行って下さい!」
誘惑ネグリジェから頂いたドレスに着替える事にしたはいいのだけど、メロウ様がなかなか部屋から出て行ってくれず背中をグイグイと押してなんとか扉を閉めた。
完全に主導権を奪い返されてしまい、悔しい限りだ。
扉の外から聞こえる明るい笑い声。
メロウ様はとにかく楽しそう。
「服の着方が分からなければいつでも呼んで下さい?」
「大丈夫ですって!」
ネグリジェが簡単に脱げる物でよかった。もしかしてポーラはこれを把握していたのかしら?
流石はクレハ様にお仕えしているだけはある。そんな事を考えながら、外のメロウ様に急かされて慌ててドレスに腕を通した。
(あれ……、この服って。)
「シシア、そろそろ着替え終わっただろ。入るぞ?」
「あ、あと少しお待ち下さい……っ!」
疑問はあれどとにかく急いでドレスに着替えた。普通の貴族は自分一人で着替えなどしない。こういう時に前世の記憶があって本当に良かったと思う。
メロウ様が勝手に扉を開けて入ってくる頃には完璧に着替えを完了して見せた。
「…………もっと難しい服にすれば良かったか。」
「今、なにかいいましたか?」
不服そうな彼に微笑みで返しておいた。
「あの、着替えは出来ましたけど。この服って……」
メロウ様が準備してくださった服は王族用の派手なドレスではなく、貴族が街をお忍びで歩く時に使われそうな平民を装ったワンピースだった。
ウルバとナリの三人で首都のパウラニアに行った時より、少し上等な服と言ったところ。
メロウ様も着ていた貴賓漂う上着を脱ぎ捨ててカッターシャツに黒のズボンというとてもラフな出立ちに変わっていた。
「それにメロウ様、その髪は?」
それに特徴的な翡翠の美しい長髪は、ウルバと似た濃い青色に変わっている。
「アーティファクトで変えたんだ。シシアも変えないとな。」
そういうと、ポケットから取り出したアーティファクトをこちらに向けた。次の瞬間、ポンッという音と共に私の髪はピンク色に変わっていた。
「さ、早く行こう。」
「行く? どこにですか?」
最愛の儀を行う十四日間はこの離宮で過ごすと聞いていたのだけど。
「祭りだ。」
「祭り……?」
「そう。パウラニアは今、俺たちを祝う祭りが盛大に開かれている。それなのに、溜まった政務が忙し過ぎて俺たちは全く外に出れなかった。シシアも王妃教育で忙しい日々だっただろう?」
確かに、メロウ様の言う通り。
ナナフシさんの家で過ごした穏やかな一年の代償を払うかのように始まった本格的な王妃教育。目まぐるしい日々に最愛の儀を浮かれて待つ余裕すらなかった。
「だから、この十四日間は久しぶりの休暇だと思えばいい。」
「でも、最愛の儀は二人だけで過ごすものだって……」
「二人で〝楽しく〟過ごすものだ。」
その方がいいだろ、と笑うメロウ様。
「それに今なら護衛もいない。俺たち二人だけのデートが出来る訳だ。」
「二人だけの、デート……。」
なんて甘い誘惑だろう。王族ともなると外に出歩くだけで護衛が沢山つく。守ってくれるのは凄くありがたいが、どうしても目立つし行動にも制限がかかる。
「二人で色んな所に行くと前に約束しただろ。」
「覚えていてくれたんですね。」
「もちろんだ。愛するシシアのお願いだからな。」
青い魔石付きのネックレスを優しく私の首元に付けてくれたメロウ様が、耳元でトドメのひと言を囁く。
「それに祭りの屋台だけで売っている菓子は絶品らしいぞ。」
「早く行きましょうっ!!」
こうして二人はこっそり離宮を抜け出し首都パウラニアへ向かった。
◯●◯●◯
「うわぁーっ!!」
見渡す限り楽しい、可愛い、美味しそうで溢れかえった首都パウラニア。行き交う精霊や人間、みんなが浮かれている。
私もその中の一人。
「シイナ、迷子になったら困るから手を貸して?」
「は、はい。」
差し出された大きな手に自身の手を合わせる。俗に言う恋人繋ぎだ。
「こら、敬語は無しだって言っただろう。」
「す、すいません……あっ、」
「あははっ!」
ここへ来る途中、メロウ様と身バレ防止に二つ約束をした。一つが互いに敬語は抜いてしゃべること。
「気をつけます……。」
「それも敬語になってる。」
「あ……。」
もう一つが愛称の変更。
「シイナ、練習しようか。俺の名前は?」
「…………ロウ、さん。」
「ん?」
私はシイナ。そしてメロウ様が、
「ロウっ!」
「うん、そうだ。」
メロウ様を呼び捨てにするのも躊躇うのに、ハードルが高すぎる。それでもご満悦で私の頭を撫でる彼を見たら反論なんて出来る訳がない。
(心臓のバクバクが止まらないっ!!)
「シイナ、今日は楽しむ事だけ考えて?」
そうよ……。
せっかくなんだから今日を楽しまなくちゃ。
お祭りの楽しい雰囲気とメロウ様の無邪気な笑みに釣られ、「うんっ!」と大きく頷いた。
「シイナ。あれ、美味しそうだよ。」
「シイナ、これも飲んでみて?」
そこからは宣言通り本当に楽しかった。
メロウ様が私の好きそうな物を見つけては買って来てくれて食べたり飲み比べをしたり。
「シイナ、踊ろうかっ!」
広場で開かれたダンスパーティーに参加したり。とにかくずっと笑いっぱなしで頬が痛くなるほどだった。
「少し疲れたな。ここに座っていてくれ、冷たい飲み物を買ってくる。」
メロウ様のリードは完璧。優しく手を引き、こうして私の貧弱な体力にも合わせてくれている。改めてメロウ様の有能さを感じる。
ただ、一つだけ気になる事がある。
「あの人、めちゃくちゃかっこいい……。」
「お兄さん、私達と一緒に飲まない?」
「あ、私もっ!!」
さっきからメロウ様のモテ方が尋常じゃない。
どれだけ変装しても品の良さが滲み出ている。私の座っているベンチから目と鼻の先にある屋台に飲み物を買いに行っただけで数人の女性に囲まれる始末。
「私達が奢るからさ。いいでしょ?」
メロウ様は完全に無視を決め込んでいるが、女達は逃すまじと目を爛々に輝かせてメロウ様に絡む。
(メロウ様がカッコいいのは分かるけど、ベタベタ触りすぎじゃないっ!?)
「ねぇ~。ダメかなぁ?」
「……。」
「私、お兄さんに一目惚れしちゃったみたいなの。」
「……。」
クネクネと身体を揺らしてメロウ様の腕に絡みつく女。どれだけメロウ様が無視を続けても一向に引かない。その現場を見ているとだんだん腹が立ってきた。
「……シイナ?」
気づいた時には脚がメロウ様の元に駆け寄っていた。そして女から奪い返すようにメロウ様の腕を引っ張り叫んだ。
「あのっ、この人は私のですのでっ!!」
「はぁ、なにこの女?」
お前こそ誰なのよ、そう言い返してやろうかとも思ったけど、それじゃあダメだ。もっと確実な方法は……。
「ロウ、こっち向いて!」
「えっ?」
驚くメロウ様のシャツの襟を掴むと力いっぱい引っ張って唇に軽く触れるだけのキスをした。
「んっ……。」
これで分かって貰えたでしょう。
女性に視線を戻すより先にメロウ様に腰を抱かれ身体を引き寄せられた。
「……シイナ、可愛いすぎっ。今のはお前が悪いから。」
「わぁ、え、ちょっ、ロウ!?」
今度はメロウ様からその場にいる全員に見せつけるかのように色っぽいキスをされた。
「もぅ、ロウ……、やめっ!」
「すまないが、俺は未来永劫シイナのモノなんだ。他人が入り込む余地なんてない。分かって貰えたかな?」
見ていた女達はみんな顔を赤く染めて、そそくさと逃げて行った。
「や、やりすぎ、ですよっ!!」
「これで悪い虫は付かないだろう。」
「…………え?」
「あんなに可愛く嫉妬して貰えるなんて。」
「まさか、ワザと…………?」
ワザと女の人が腕を絡めるのを許したの?
私に嫉妬させるために!?
「…………さぁ、どうだろう?」
メロウ様は小悪魔のように悪い笑みを浮かべて見せた。
「ロウの、バカぁぁぁあ!!!」
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底辺作家脱却を目指してます!!
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