64 誘惑のネグリジェ
「喜んで、お受けします。」
そう返事をしてメロウ様の手を取ったあの日から、少し月日が経ち、ついにこの日がやって来た。
「この服は…………、やり過ぎじゃない?」
愛を確かめ合った離宮での一件後、メロウ様はクレハ様にそれはもうこっぴどく怒られて、精霊王として職務に復帰。
猛烈に溜まった仕事を死に物狂いで片付けて、ようやくこの日を迎える事が出来たんだ。
「そんな事をありません。このぐらい露出がある服で誘惑して耐えられるかどうか、それを見極めるのですから。」
メロウ様のいない間、各方面から来るクレームやら案件をどうにか押さえ込んでいたザリールは涙を流しながら気絶していた。
「なんでポーラが挑戦的なのよ……。ナリとリナもやり過ぎだと思うわよね?」
今回の件で一番大変だったのは間違いなくザリールだろう。本当に申し訳ない限りだ。
「「そんな事ありません。根性無しにシシア様はあげられませんからっ!!」」
そして、これから更にザリールには迷惑をかける事になってしまうと思うと胸が痛い。今度何か差し入れを持って行くので許して欲しい。
「二人まで……。これじゃあ最愛の儀っていうより我慢比べじゃない?」
そう、遂にこれからメロウ様と私の最愛の儀を執り行う予定なのだ。
国はお祭り状態で私達を祝ってくれている。悪い噂の絶えなかったシシアも、今ではモナルダ病棟を退院した者たちが伝えた話により王妃として国全土から受け入れられつつある。
話を後押しするように、これまで二人に起きた出来事を元に作られた歌劇が首都パウラニアで開演されると一気に火が付き、二人への祝福が止まらぬ嵐となった。
とても嬉しく幸せな瞬間を迎えているはずなのだが、当の本人はなんとも複雑な表情を浮かべていた。
「こんなスケスケのネグリジェだけでメロウ様とニ週間過ごすなんて、無理よぉっ!!」
私はポーラとナリ、リナに囲まれ儀式の準備をしていたはずだった……。
最愛の儀は互いの愛を確認する儀式な訳で、なんと十四日掛けて執り行われる。と言っても儀式は十四日後、最終日の夜。それまでの期間は、最愛を捧げるに相応しい相手かを見極める最後の時間となっている。
要はこれから十四日間、あの離宮でメロウ様と二人っきりで過ごすのだ。
「昔は愛を育む為の十四日間だったそうですが、最近は妻となる者が夫を試すのが流行りだそうです。」
「それでこの……、ネグリジェ?」
三人は誇らしそうに頷いた。
「はぁー……。」
なんでも最愛の儀、一日目は女が男を誘惑するそうだ。欲望に打ち勝つ理性が男にあるかを試すのが最近の流行りらしい。
一日目で欲望に負けるような男は浮気をする甲斐性なしだ、と判断するんだとか。精霊は生涯たった一人を愛する種族。だが稀に長い時間を生きるから故に魔が刺す男がいる。そこで女は大胆に露出したネグリジェで男を試す。
理由は分かる。
分かるけどっ!!
「もう少し肌を隠したいよぉー……。」
純白のネグリジェは品を残しつつも、背中や胸元が大きく空いており、ワンピーススタイルの可愛らしいデザインだ。レースがふんだんに使われている分、肌が透けて見えるのが妙に色っぽい。
「「ダメですっ!!」」
「しょ、ショールは?」
「「ダメダメですっ!!」」
「…………恥ずかしいよぉー。」
このネグリジェが嫌な理由はもう一つ。
長い肩紐を解くと簡単に脱げてしまうのだ。間違って引っ張ってしまうと全裸になる可能性がある、まさに誘惑のネグリジェだ。
「さ、私達のお仕事はここまでです。十四日後にまた会いましょう、シシア様。」
そう言い残した三人は満足そうに離宮のある浮き島から出て行ってしまった。
もうすぐここにメロウ様が来る。
離宮の部屋は修繕され、過ごし易いように少し手も加えられて温かみが増した。壁に飾られたドライフラワーから香る良い匂いに癒されていると、部屋の扉をノックする音が響いた。
「シシア、入ってもいいか……?」
いよいよ最愛の儀、誘惑の一日目が始まる。
「は、はいっ!!」
緊張で裏返る声。開かれた扉。
パーティーへ行くかのように着飾ったメロウ様が入って来た。その姿は童話に出てくる王子様そのもの。
あまりの美しさに見惚れているとメロウ様の顔がどんどん赤く染まり、終いにはその場にしゃがみ込んでしまった。
「め、メロウ様っ!?」
「ぐぅっ、そうきたかぁー…………。」
慌てて駆け寄ると両手で顔を覆ったメロウ様の耳が真っ赤になっていた。
「シシア。可愛すぎるぞ……、」
どうやら誘惑は成功していたようだ。
両手の隙間から覗く青い瞳がなんだか可愛くて口元がニヤける。
(ちょっとからかってみようかしら?)
「メロウ様、見てください。このレース模様、縫い目が大きくて肌が透けてしまうのです。」
「――ッ!!?!!?」
太もものレース部分を指差し、意地悪してみると今にも爆発してしまいそうメロウ様から湯気が立った。
「んふふっ!」
流行りの事はメロウ様も知っているはず。絶対に手を出される事はない確信からくる余裕の笑み。いつもは私ばかり慌てて焦っているものだから少し気分がいい。
「……………やってくれたなぁー。」
「えっ? なにか言いましたか?」
「いや、これを受け取って欲しいと言ったんだ。」
徐に立ち上がったメロウ様から懐に抱えていた箱を受け取った。
「開けてみてくれ。」
「わぁっ……、」
箱の中身はメロウ様と合わせた色合いのドレスとアクセサリーだった。
「シシア。試された男はどうするか、知っているか?」
「……?」
問いの答えが分からず首を横に振る。
「女に一番似合う服とアクセサリーを贈るんだ。で、一日目はそれを着て一緒に過ごす。」
「へぇー、そうなんですね。」
なら、このドレスはメロウ様が選んでくださったもの。こんなに嬉しい贈り物はない。私としてもこの誘惑のネグリジェから解放されるならとてもありがたい。
「メロウ様、素敵な贈り物をありがとうございます。」
「…………話には続きがあるんだ。」
「え……?」
真剣な表情を浮かべたメロウ様。
「男が選んだ服着た女を二日目に脱がす。」
「はぇ!?」
どんどんその表情は悪魔的な笑みに変わっていく。ゆっくりと近づくメロウ様は私の耳元で囁く。
「明日、覚悟しておけよ?」
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