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62 この想いに名前を付けるなら 2

「お久しぶりです、シシア様。ご無事でなによりです。」

「ウルバ。迷惑を掛けてごめんなさい。」


 離宮のある浮き島は、やはり私にしか見えていない様だ。その為、ウルバに抱えてもらい浮き島へ赴く事となった。


「私も自分の羽根で飛べたら良かったのだけど……」


 残念ながら自力で飛ぶのは三分が限界。未だ練習中、というか体力が足りない。羽根は思っていた以上に可愛くなかった。


 両腕をブンブンと羽ばたかせるイメージに近い。貧弱なシシアの体力では全身を浮かせるので精一杯、せいぜい滑空するだけ。浄化の様に上手くはいかず、苦戦中なのだ。


「とんでもございません。俺は和平パーティーでお守り出来なかった。なのに失態を挽回するチャンスを頂けて、嬉しく思います。」


 彼もまた、あの日の事をずっと気にしていたらしい。今日の探索にはかなり気合いが入っている様に思う。


 私は胸に煌めくチェーンブローチをずっと大切に持っていてくれた事が凄く嬉しかった。


「ウルバ、それじゃあお願いね。」

「お任せくださいっ!」


 私の指示の元、浮き島に近づく。

 他の精霊やクレハ様、スクーターに乗ったシャルは後ろからついて来てくれる事になっている。


「…………これはっ。」


 浮き島に近づくにつれて淀んだ空気が辺りを包み始めた。まるで穢れが具現化したように重く苦しい。


「ウルバ、大丈夫?」

「…………は、はい。」


 どう見ても大丈夫ではない。私ですら魔力を感じる羽根を動かすのもしんどいぐらいだ。ウルバにかかる負担はかなりのものだろう。このままでは彼の穢れも進んでしまう。


「ウルバ、もう少しだから頑張って。」

「もちろん、ですッ……。」


 後ろから着いてきている他の精霊達も一人、また一人と離脱して行く。


(このままじゃ、皆が持たない。)


「ウルバ、もう少し高度を上げられる?」

「は、い……」


 無理を言って浮き島よりもかなり高い位置まで昇って貰った。


(ここからなら、なんとか……。)


「ウルバ、手を離して。」

「は、はいっ!?」

「ここからなら私一人でも滑空して浮き島に行けるわ。」

「行けません。浮き島まで俺がっ!」


 後ろを着いてきていた精霊の数は既に数える程度。

 シャルも乗っていたスクーターを動かす魔石の様子がおかしくなったのか、早々に離脱を余儀なくされていた。


「私はメロウ様を助けたい。でも、そのために他の精霊を犠牲にはしたくないの。」


 このままだと、ウルバを含めた他の精霊がいつ黒穢になってもおかしくない。それだけは防がないと。メロウ様を助けるどころじゃなくなる。


 私だけなら、自身を浄化しながらなんとかなる。それに私は皆と違ってそこまで苦しくはない。元が人間だからかしら?


「ウルバ、お願い。」

「…………分かり、ましたっ。」


 私は悔しさで滲むウルバに「ありがとう」を伝え、その腕から離れた。


 初心者ドライバー並みの不安定さで浮き島に滑空すると、あんなに綺麗だった花達はほとんどが枯れ、萎れていた。離宮からは黒く淀んだ風が吹く。


「ウルバ達と別れたのは正解ね。」


 変わり果て浮き島の姿。それなのに、懐かしくもある不思議な気持ち。脚は迷いなく離宮の、あの部屋に向かう。


 エントランスや廊下は何一つ変わっていないのに、家主の心を投影すたみたいに屋敷は暗い。部屋に近づくにつれて濃くなる穢れを孕んだ魔力。


(…………やっぱり、ここだ。)


 ある一室の前で立ち止まった。

 メロウ様と過ごしたあの部屋だ。彼がここに居るのは間違いないだろう。


(…………よし、行こう。)


 部屋の扉をコンコンと叩くも返事がない。


「メロウ様、シシアです。」

「…………。」

「入りますよ?」

「…………。」


 やはり返事は返ってこない。

 意を決して扉を開き、脚を踏み入れた。


「メロウ様、入りますからね。」


 部屋の中は驚くほどあの日から変わっていなかった。割れたままの窓ガラス、床に転がる鎖まで。まるで昨日のようにこの部屋だけが時を止めていた。


 そんな中、ベッドに寝転ぶ人影が一つ。


「メロウ様……っ!」


 慌ててベッドに駆け寄ると、全身に穢れを抑える包帯を巻いて眠るメロウ様の姿があった。


「今すぐに浄化を……」


 急いで手を握り力を込めるが、


「浄化、出来ない……?」


 クレハ様の言った通り、メロウ様の身体の穢れは全く消えない。浄化の力が弾かれているような感覚だ。

 何度試しても結果は同じ。身体のほとんどが穢れに蝕まれているメロウ様はいつ黒穢になってもおかしくない。


(そんなの嫌……っ!)


「シシ、ア……?」

「――ッ。」


 微かにメロウ様の瞳が開いた。

 久しぶりに聞く彼の声にピクリと肩が跳ねる。


「そんな筈、ないか……。」


 覇気がなく、吹けば飛んで行ってしまいそうなぐらい弱々しい姿に胸が痛い。


「シシアが、俺を助けにくる訳、が、ない……。」


 包帯越しに触れている右手は血が通っているのか疑いたくなるほどに冷たい。


「メロウ、様……。私はここに居ます。」


 ゆっくりと動く顔、そして瞳が、重なった。


「………………幻覚、か?」

「いいえ、本物ですよ。」


 逃げ出した分際で、と思われるだろうか?

 顔も見たくないと怒鳴られるだろうか?


 どんな顔をしたらいいのか分からない。それでも久しぶりにメロウ様の顔がもっとよく見たい。


「シシア、なのか……?」

「はい……。」


 私は無理矢理口角を上げて笑った。


「シシア、シシア……。すまない。本当に、すまなかった。」

「め、メロウ様っ!?」


 無理して身体を起こしたメロウ様は、握っていた手に自身の左手も合わせて大粒の涙を流す。


「ずっと、後悔しているんだ。あの日、ここを出て行ったシシアが忘れられなかった。」

「…………私もです。」


 ああ……、思っていた事は同じだったんだ。


「俺は弱い男なんだ。」

「私は面倒で、色々と考えて込んでしまいます。」


 どこから間違っていたのかなんてもうどうでもいい。貴方の声を、顔を見たその時から、


「頑固だし、シシアの事になるとどんどん駄目になってしまう。」

「私なんてずっと貴方に迷惑を掛けてばかり。」


 この心は、自然と流れ出す涙のように決まっていた。


「あんな事をしておいて想いを断ち切る事もできない。」

「私だって…。この一年、ずっとずっと考えていたの。」


 正解なんて分からない。ここはもう、物語の枠から外れた現実なんだから。


「シシアの人生を歪めてしまった。その対価に俺が差し出せるモノは全部やる。要らないなら捨てて今すぐに逃げてくれ。」

「……っ。」

「逃げた先で、どうか幸せになってくれ。」


 心は、今までグダグダ考えていたのが嘘みたいに晴れ渡っていく。ちゃんと伝えたい。今度こそ、ちゃんと。


「私はっ、今、私の意思でここに居ますっ!」


 メロウ様を救いたいからここに居るの。


「私が、自分で選んでここに居ます。」


 伝われ……、伝える努力を惜しむな。

 だってこの先の長い人生を共に生きて行きたいのは、


「メロウ様、好きです……。」


 貴方だから。


「愛しています。これが私の答えです。」


ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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