60 謝罪と不安
「お久しぶりです、シシア様。」
診療所にやって来た精霊はクレハ様だった。一年前と変わらず美しいが、少し痩せて愁哀の表情を浮かべていた。
「シイナ様、下がって下さい!」
「シャルっ!?」
「シイナ様を連れ戻しにきたのか!?」
そんなクレハ様と私の間に壁を作るように立つシャル。敵意剥き出しで今にも手に持っていた鍬で襲いかかりそうな勢いだ。
「落ち着いて下さい。私はシシア様に危害を与えるつもりはありませんから。本日は謝罪とナナフシに頼んでいたいた薬を取りに来ただけです。」
シャルを見据えるクレハ様はとても誠実で、シャルは信じるに値すると感じたのか、少し間を開けてから鍬を下げた。その姿にホッと胸を撫で下ろす。
「シャル、ちゃんと謝りなさい!」
「………………、失礼致しました。」
「いいえ、誤解を招いたのはこちらですから。」
ニコニコと笑っているクレハ様が寛容なお方で本当に良かった。彼女が元のシシアに向けていた冷徹な顔を知っているからこそ、同じ表情をされたらどうしようかと肝が冷えた。
この国の第一王女の機嫌を損ねたとなれば一大事。シャルには後でちゃんと言い含めておかないと。そんな事を考えいると、部屋の奥からナナフシがこちらに顔を出した。
「なんだよ、騒がしい…………って、クレハか。」
「はぁ!?」
クレハ様を呼び捨て!?
知り合いだからって、それは流石に駄目でしょう。
「久しぶりね、ナナフシ。」
「んだよ、来るなら知らせろってあれほど言ってるだろうが。お前の昼飯はねぇぞ。」
「ちょっと、ナナフシさん。クレハ様に向かってこんな言い方……」
大慌てでナナフシの口を両手で押さえつけた。
「大丈夫ですよ。ナナフシとは旧友ですから。」
「あ、そうなんですね。」
「悪友の間違いだろ。」
「ナナフシさんっ!?」
イヒヒ、と悪い顔で笑うナナフシ。王族にまでこの悪態、どういう神経してんのよ。
可哀想だが、ジルバルが尻に弾かれてるところしか想像出来ない。
「まあ、上がってけよ。時間あんのか?」
「少しだけ……、お邪魔するわ。ナナフシ、僅かな間でいいからシシア様と二人で話す時間を貰えないかしら?」
「…………どうしたい?」
ナナフシが私を見つめる。
クレハ様の話はおそらくメロウ様に関する事。この一年、精霊城や首都に関する情報は一切聞いていない。周りの皆が気を遣ってくれていたのだろう。正直、今でもどう向き合うべきか分からない。
「シイナ様……。」
シャルも心配にこちらに視線を向けている。
「「シイナ様、話ぐらい聞いてやるべきです。」」
悩む私の前に双子のナリとリナがそれぞれお玉とさえばし片手にやってきた。
「「そんでザマァみやがれバカヤローって言ってやればいいのですっ!」」
二人と顔と言葉遣いのギャップが凄いよ……。
隣でアハハと大笑いしているナナフシを睨む。
「ナナフシさん。今後バカヤローは禁句にしますから。」
私は心に誓った。
でも二人の言葉に、息がしやすくなったのも事実。向き合い方は話を聞いてから考えも遅くはない。
「私も、クレハ様とお話がしたいです。」
「………分かった。なにかあったらすぐ呼べよ。」
そういうと、いつも見たく頭をポンポン叩いたナナフシが噛み付きそうなシャルと双子の手を引き、家を出て行った。
静まり返った部屋に二人。
「シシア様。うちの愚弟が大変申し訳ございませんでした。」
開口一番、クレハ様は大きく腰を曲げて謝罪をした。慌てて頭を上げる様に言うが、彼女の意思は固い。
「そんな、クレハ様が謝る事なんてなにも……。」
何度も謝るクレハ様は自分がモナルダ病棟でメロウに話を聞かせてしまったせいだ、と嘆く。
「それに獣王国が仕掛けた魔石の回収で城を開けていて、愚弟の変化に気づけなかった。本当に申し訳ございません。」
涙を堪えているクレハ様。彼女からしてみれば、獣王国から救った妻を次は弟が監禁するなんて想いもよらなかったのだろう。やっぱりどう考えてもクレハ様が謝る理由がない。
「クレハ様、顔を上げてください。お茶でも飲みましょう。私、ナリからお茶の淹れ方を教わったんです。まだ練習中でナナフシさんには不味いって言われてしまいますが。」
ようやく顔を上げてくれたクレハ様が「貴方様は変わらずお優しいのね」と小さく笑った。
「さっきの話ですが……、」
ダイニングテーブルに渋い紅茶が二つ並んだところで、話を戻した。クレハ様は紅茶を口にしても眉一つ動かさず飲み込んでいく。その姿がとても申し訳ない……。
(もっとお茶を淹れる練習を増やそう。)
「獣人に誘拐される隙を作ってしまったのは私自身です。それに、メロウ様がすぐに救い出してコテンパンにしてくれましたから。クレハ様が謝ることはありません。」
「そう……、ですか。」
二人の間には長い沈黙が続いた。
「メロウ、様は…………、どうしていますか?」
今でも離宮を飛び出した時の泣いたメロウ様の顔が忘れられない。
「…………。」
「クレハ、様……?」
居た堪れないような不穏な顔を浮かべる彼女に不安が積もる。
「シシア様、無理を承知でお願い致します。」
「……?」
表情から嫌な予感がした。
ティーカップをテーブルに置き、言葉を探している。そして、腹を決めた様に一呼吸おくと、クレハ様が口を開いた。
「愚弟メロウを助けては頂けませんでしょうか?」
悲痛な面持ちから漂う只事ではない雰囲気。
「……なにが、あったのですか?」
「実は………、メロウの身体の穢れが、消えないのです。」
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