52 閉じられた蜜月の扉 1
「なん、で……?」
頭を強く殴られたような衝撃が走った。
なんで、メロウ様が私の名前を知っているの?
シシアじゃないって知っているのよ!?
「シイナ。俺の可愛いシイナ。ずっとこの名前で呼びたかった。」
「どう、して……?」
「クレハとの会話を盗み聞きしたのは悪いと思っている。でもああでもしないと、君が急に変わった理由が分からなかったから。」
モナルダ病棟でもクレハ様との会話を聞いていたなんて。だとしても私が月下の乙女だなんてあり得ない。だって、ここは本来物語の中の世界なのだから。
幾ら小さい時の記憶が曖昧だからって、子供の私がメロウ様に会っているはずがない。
「信じてないって顔、してるな。」
「当たり前です。そんな事、あるはずが無い。私は月下の乙女ではありません。」
メロウ様は、一体どこで勘違いしたの?
月下の乙女はシャルなんでしょ?
「花月椎奈。」
「――ッ!」
この世界に転生してから誰にも言った事がない私のフルネーム。それをどうしてメロウ様が知っているの?
「あの時、君から名前を聞いておいて良かったよ。」
「……嘘、でしよ。」
じゃあ、本当に……、私達は出会っていたの?
硬直する私にメロウ様は満足そうに額にキスを落とす。
「ようやく言えた。本当はもう少し時間を掛けて俺しか見えなくして、ドロドロに溶かしてから打ち明けるつもりだったんだ。」
信じられない。身体も心も震えが、止まらない。だって、周りに見せつけるように抱き付いたり、エスコートしてくれたのは全部全部、私を逃げられなくする為だったってこと?
「でも、もういいよな。浮気したシイナが悪いんだから。」
最初から分かっていて計画されていたの?
身体からどんどん血の気が引いていく。
「嫌がっても泣いても許さない。シイナが俺のモノだって自覚するまでずっと……、ずっと一緒にいような?」
「……そ、んな…………ぁんっ!」
唇を無理矢理割って入ってくるメロウ様の舌と唾液を、私は既になんの躊躇もなく受け入れて飲み込んでしまう。口の中いっぱいに広がる甘く苦い味。
『精霊の愛は貴方が思う以上に深いの。』
ふと、クレハ様との会話を思い出した。
こんなの愛情が深いなんてものじゃない、狂気に近い執着だ。
(…………早く、逃げないとっ!!)
「こらこら、暴れない。もう逃げられないんだから諦めな。」
猫の様に身体をくねらせて踠いてみるも、メロウ様から逃れる事は出来ない。
「ハァー、ハァーハァー……。」
次第に息が上がり、身体が熱で疼くのを感じた。
幾らシシアが虚弱体質だからってこんな少し動いただけで息が上がったりしない。こんなに熱が、身体から抜けない筈もない。
(身体が変、だ……。)
「あーあー、そんなに暴れるから。」
「メロウ、様……、私になにを?」
力が抜けていく。もうメロウ様に腕は拘束されていないのに、全く力が入らない。思考もなんだかふわふわする。
「素直になれる薬を少し唾液に混ぜといた。」
メロウ様は悪戯が成功した子供みたく無邪気に舌を出して笑う。さっき口付けされた時に感じた甘く苦い味の正体はこれか。
「一緒に二度寝しようと思っていたがその様子じゃ無理そうだな。さっき俺も少し飲んだから、そろそろ互いに効いてくる頃だろう。」
どんどん、薬が、身体を巡っていく。
暑くて苦しいのに、一人じゃどうしようも出来ない。
「ああ、シイナの目がとろんってしてる。可愛い。」
「あ……っ、ゃあ……」
メロウ様の手と唇が私に触れる度に、熱を帯びて身体が跳ねる。まるで身体の主導権を奪われてしまったようだ。
自分の意思では動かないのに、メロウ様から受ける刺激には簡単に反応してしまう。
「喉がっ……水を、くだ……下さい。」
「ああ、寝起きだったな。ほら口開けて。」
素直に開けた口の中に、口移しで水が流れ込んでくるのを必死で飲み込んだ。
「……も、もっとぉ、ほしい。」
「あはは、気持ちいいな。かぁいいなー、俺のシイナ。」
荒ぶるメロウ様の頬も紅潮していく。その表情は理性を飛ばす寸前の男の顔だ。いつものクールで美しかったグランドールにヒビが入り、中から出てきた獣のオス。
「じゃあ、この薬も飲み込もうな。」
「…………それ、は?」
脱ぎ捨てられた服と、剥ぎ取られた服がギリギリ保っていた理性すら消し去っていく。
「これはねー、促進剤だ。」
「そく、しんざい……?」
「そう。早く身体を作り変える成分がたっぷり入ったお薬。シイナの為に沢山取り寄せたんだぁ。」
その薬は、これから始まる行為を意味していた。
「あー、もうダメ……。おかしくなりそうだ。ほら、早く飲み込んで。一緒に気持ちよくなろぉーな?」
――ゴクン……。
もうなにが喉を通っていったのかすら曖昧で、
「ハァー……ハァー…………。」
「これじゃ、お仕置きにならないなぁー。」
与えられる甘い熱に何度も何度もうなされた。
「あはは……まぁ、いいか。今日は一日中、やめる気ねぇし。」
言葉通り、メロウ様は太陽が高く昇り、水平線に消えてもまだ、私の中に注ぎ続けた。身体に疼く熱があまりに高くて朦朧とする意識の中、必死にメロウ様に縋っていた事だけはよく覚えている。
「愛してるよ……、俺のシイナ。」
だって、メロウ様はずっと愛を囁き続けていたから。
汗と涙と体液が混ざり合って、身体の境界線も分からないぐらい、この日の二人は溶けて絡み合っていた。
「それじゃあ、行ってくる。さっさと仕事を終わらせて夜には帰ってくるよ。俺のシイナ。」
「………シシアと、お呼び下さい。」
「そうだった。良い子で待っていろ、シシア。」
「……。」
閉ざされる扉をぼんやりと眺めた。
その日以降、私はこの部屋から出ることを禁じられてしまった。
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底辺作家脱却を目指してます!!
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