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50 甘い寝起き

「……なんでそっちへ行く?」


 心地いい風が吹く。

 小春日和に花たちが歌い踊り、甘い蜜の香りが乗った春の匂い。


「俺んとこおいで。」


 微睡みの中にいる。


「こら、こっち。」


 ふかふかな寝心地と温かい熱、同じリズムを刻む鼓動。耳障りの良い低音ボイスも合わされば、最高の癒しに誘われる。


「素直な良い子。でもさ、もっとくっ付いてよ?」


 ……

 …………、

 ………………………………?


「ほら、ぎゅーーって。」


 ………………ぎゅー?

 温かく硬いこれは、なに?

 なにかに挟まれたみたく身動きが取れない。

 あれ、私……、


「全く、シシアは寝相が悪いなぁー……。」

「――――ッ!?」


 瞳を開けると鼻と鼻が当たってしまいそうな距離にメロウ様の美しいお顔があった。


「め、メロウ様っ!!?!?」

「……まだ寝ていろ。」

「キャッ!」


 慌てて飛び起きようとするとメロウ様に腕を引っ張られ、また同じ場所に寝かしつけられてしまった。


「メロウ様、離して下さい!」

「…………なんでぇ?」


 すっかり覚醒してしまった私と違い、メロウ様はまだふわふわと夢見心地にいるようだ。絶妙に甘い声が色っぽくて心臓に悪い。


「あはは、シシアの心臓バクバク言ってる。」

「あっ、たり前ですっ!!」


 一体なにが起きているの?

 そう言えば私、獣王国にいたはず……。

 メロウ様がバンバンに魔法を使って、獣王国があっという間に降伏したんだ。それから、急に眠くなって、そのまま寝ちゃって、


「ここは、一体……?」


 獣王国の地獄絵図から一変、平和そのものに感じる空間に二人。

 

 窓から降り注ぐ日光を優しく遮るのは、天蓋から垂れる薄いレースカーテン。二人で寝ても余裕なほど大きなベッド。どうやらここは私の部屋ではないらしい。


「ここは精霊国。朝方帰って来たんだ。」

「あ……、運んで下さりありがとうございます。」

「どーいたしまして……。」

「それでメロウ様、もうそろそろ起きたいなー、と思うのですが……。」


 完全に抱き枕にされてしまった状態をなんとか脱出したいのに、メロウ様の腕の中から自力で抜け出す事は出来ない。恐る恐る離してくれと言ってみるも、なぜか更に強く抱きしめられてしまった。


「ダメ。俺は今やっと眠りに着くところなんだ。」

「なら尚更、一人の方が寝やすいのでは?」


 私はナリやナリのお姉さんの様子を見に行きたい。精霊国に仕込まれた穢れの魔石のことだって確認したいのに、


「ダメ。」

「ど、どうしてですか!?」


 メロウ様が全く離してくれないっ!!


「今日は一日休みだ。仕事は全部クレハに押し付けて来たから、安心して眠ってられる。流石の俺も昨日は魔法を使い過ぎた。回復が必要なんだ。」


 確かに、あれだけ魔法を行使したんだ。流石のメロウ様でも平気なはずがない。それもこれも、全部私のせいだ。


 私が勝手にパーティーから抜け出してシャルと会わせようと一人で行動してしまったから……。


「メロウ様、申し訳ございませんでした。私のせいで。」

「そう。シシアのせい。だから今日は一日中俺の回復に専念してほしい。」


 他の事は大丈夫だから一旦忘れろと、頭を撫でるメロウ様の手つきがくすぐったい。


「そう言う事なら、分かりました。私はなにをしたら良いですか?」


 照れる私をみて微笑むメロウ様。

 甘い……、甘すぎるっ!!


 なんだ、この空間はっ。

 これじゃあまるで……。

 いや、今は考えるのをやめよう。恥ずかしくて死にそうになる。メロウ様の言う通り、彼の回復をお手伝いしないと。


「どこかに穢れが貯まっているのですか? すぐに浄化します。」

「…………いや、貯まってない。」


 …………。

 じゃあ、私の仕事って?


「とりあえず、一緒に二度寝しよう。」

「…………えーっと。」


 それは、ただ眠いだけなのでは……?


「さっきも言っただろ。朝方帰ってきたばかりなんだ。そこから獣臭いシシアを風呂にいれて、髪を乾かして。」

「め、メメメロウ様っ!? 冗談ですよね?」


 それは笑えない。王族が、一国の王が誰かの風呂の世話なんてするはずがないもの。と言うか、冗談だって笑って下さい!


「本当だ。」

「う、嘘ですっ!」


 抱きしめられた今の状態だけでもパニックなのに、風呂にまで入られたなんて、そんなことあってはならない。だって、だって……、それが本当なら私、全裸を見られたってこと!?


 嫌すぎる、今すぐに殺してくれっ!!


「嘘じゃない。」

「嘘って言って下さい……。」


 ぷくっと頬を膨らまして眉間に皺を寄せるメロウ様は、徐に自身の髪の一房を私の鼻の前に差し出した。


「嗅いでみろ。」

「…………とても、良い匂いだと、思います。」


 何かのハーブのような落ち着く匂い。

 いつものメロウ様の香りだ。

 この匂い、香水じゃなかったのか……。

 

「次、シシアの髪。」

「…………っ、」


 更に顔を近づけてくるメロウ様は私の髪から同じように一房鼻の前に持ってきた。嗅いでみろ、と言いたげに。


「……どうだ?」

「……………………同じ、匂いです。」

「そ、俺と同じ香り。」


 という事は、本当に、私……、


「いやぁぁぁーー。」

「あは、そう照れるな。」


 全身から火が昇りそうなぐらい熱くなり、居た堪れず顔を塞いだ。


「大丈夫。」

「全然大丈夫じゃないですっ!!」


 なんでこの人はこんなにも余裕があるのよ。

 いや、そうじゃない。そこじゃないだろ、シシア。


「なんで起こしてくれなかったのですか。起こしてくれれば自分で入ったのにっ!」

「その脚で一人で入れたと?」

「ぐっ……、」


 そうだった……。

 今の私、一人で歩くのも困難な状態だったんだ。


「すぐに慣れる。」

「――っ!!?」


 そう言うと私の髪を撫でていた手を腰から服の下に入ってきた。背中をなぞるように這う手付き。そこで気づく。


(私、今、ブラジャーしてなくない!?)


「ちょっ、メロウ様!?」


 捲れ上がる服を気にしていると、満面の笑顔を浮かべたメロウ様の破壊力に思考が停止した。


「今日も俺が隅々まで綺麗に洗ってやろう。」

ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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