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49 獣王国の闇 2

「対価が必要なら私の腕でも羽根でも斬り落として下さい。これまでの罰ならなんだって受けます。殺して貰って構いません。ですがっ、ですが……、双子の姉だけはっ!」


 ダムが決壊したみたいに話始めるナリは必死そのもの。瞳には涙を浮かべ、今にも自身の羽根をむしり取ってしまいそうな勢いだ。


「ナリ、落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから……。」


 なんとか落ち着かせてまずは服を着るように宥めた。

 胸元に居座る異物。近くで見るとかなり深く埋め込まれているのが分かる。どうしようもないぐらいに怒りが沸いた。

 

「この胸に埋め込まれたアーティファクトは人体実験のよるものです。私は、失敗作。」

「そんな……人体実験なんて、」


 氷漬けにされたリュスが可哀想なんて思った少し前の私は、この時に飛んで消えていった。


「姉が、唯一の成功作、なんです……。」

「どんな実験だったんだ?」


 ナリは深く深呼吸して、声が出るか確認をしたのち、重い口をゆっくりと開いた。


「穢れを貯める魔石を産み出す実験です。」


 それは精霊を貶める為の実験。

 それは精霊を殺す為だけ繰り返された悪夢。

 ナリの心を殺した大人のエゴだ。


「姉はこの国のどこかに幽閉されているはずなんです。最後に会った時にはもう、会話すら出来ない状況だったけど……。それでも魔石が産み出されているから生きてる筈なんです。」


 どうか姉を救ってくれと泣き叫ぶナリの悲痛な声。


「すぐに探し出しましょう。」

「待て。」

「…………メロウ、様?」 


 身体に回されていた腕に力が入ったのを感じた。

 視線を落とすと握り締められた拳から腕にかけて、白く陶器の肌に似合わない青白い血管が太く浮かび上がっていた。


「助け出すだけじゃダメだ。この国はどうせまた精霊国を脅かす為に同じ事を繰り返す。やるなら徹底的にしなければいけない。」


 メロウ様は今日一番と言っていいほど、静かに怒っていた。


「シシア、浄化は出来るか?」

「はい、もちろん。それがどうしたのですか……?」


 凍っていたリュスの氷がパキッと音を立ててひび割れた。リュスが踠いているからじゃない。メロウ様から漏れ出した魔力が獣王城を揺らしているからだ。


「獣王国を半壊させる。」


 本気モードのメロウ様が再び降臨した。

 

「そんな事、出来るのですか……?」


 愚問だと言うみたくメロウ様は静かに笑みを浮かべ、氷の像と化していたリュスの頭に触れた。すると首から上部分だけ氷が砕け、リュスが息を吹き返した。


「ナリの姉は何処にいる?」

「ハァッ。言うわけねぇだろ、羽虫野郎。」

「そうか。なら、力尽くで奪還しよう。」

「出来る訳ねぇだろ、バカが。俺たち獣人がお前たち羽虫如きに口を開く筈ないからな。」

 

 こんな状態ですら強がりを吐けるリュスの威勢だけは尊敬するが、相手が悪過ぎる。敵を見誤って身を滅ぼす典型的な悪役だ。


「ナリ、てめぇが喋ったのか!?」


 リュスは自由になろうと首から下の氷を壊そうと力任せに暴れているようだが、びくともしない。苛立つ彼の矛先はナリに向いた。


「てめぇみたいな出来損ないが、俺たち獣人に楯突くなんてどうかしてるぜ。精霊国を裏切った罪人の分際で今更、真っ当に生きれるなんて思うなよ。お前の手は黒く染まっちまってるんだ。」

「……。」

「てめぇに居場所なんてねぇんだ。どうしてそれが分からない。本当に頭が悪いクソだぜ。そんなお前を俺がっ、使ってやってんだぞ。さっさとこの氷壊すか羽虫野郎を殺すがどっちしろっ!!」


 唾を飛ばし牙を剥き出しにして怒るリュスに萎縮するナリ。彼女は慢性的にこんな暴言を浴びせられていたんだろうか。想像するだけで苦しくなる。


「もう、やめて。」

「…………はぁ?」

「喋らないで。」


 メロウ様から離れ、リュスからナリを庇うように立ち上がった。

 

「シシア、てめぇ首輪が外れたからって調子に乗ってんじゃねぇぞ。忘れたのか、俺とお前は夫婦なんだぜ? 俺に一生抱き潰されてる運命なんだよ。」

「……違う。」

「なんだ、その目は? 俺に歯向かうなって言った筈だよな!?」


 リュスに傷つけられた右足首が痛む。それでも、ここで負けられない。こんな奴の言いなりになんか、なりたくない。


「私は、貴方の妻にはならない。魔石を壊したければどうぞ。でもね、私が絶対に全員助ける。精霊国全体を浄化してみせる。あんたなんかに私達は屈しないっ!」


 ナリの手を取って強く握った。

 顔を見なくても、指先から伝わる熱と握り返される意志が勇気に変わる。


「ふざけんじゃねぇぇぇぇ!!!」

「これ以上、獣風情が喋る必要はない。」

「――ッ!?!!?」


 リュスが遠吠えに近い呻き声をあげたところでメロウ様が彼の鼻から下を氷漬けにして、喋れないようにした。


「それと訂正しておくが、お前とシシアは夫婦でもなんでもないぞ。」

「……え、そうなのですか!?」

「ああ。俺が離婚届けを受理できないようにしていたからな。」

「…………………………ぅん?」


 なにかサラッと怖い事を言われた気がした。


「シシアの夫はこの俺だ。」

「め、メロウ、様……、受理できないってなんですか?」

「…………こんな時の為だよ?」


 どんな時の為っ!?

 少しの間と不敵に笑うメロウ様が恐ろしかった。

 

「まぁ、そう言うわけでこれから獣王国はお前、第一王子のせいで多大な被害を受けるだろう。俺と、()()()によってな。」


 メロウ様は言い放つと私を引き寄せ、抱き抱えるとリュスに見せつけるように頬にキスをした。


「それでは、我が妻シシア。半壊と行こうか。」

「は、はい……。」


 鼻から下を氷漬けにされたリュスをそのまま放置して、私達三人は部屋の外へと踏み出した。


「さて、楽しい楽しい報復の時間だ。」

 

 その後はメロウ様の宣言通り、獣王国は天災に見舞われる事となった。容赦なく魔法を使うメロウ様の浄化を私が同時に行う事で、実質無敵状態となった彼を止められる者なんて、言うまでもなく誰もいなかった……。


 ハリケーンが建物を襲い、氷のつぶてが降り注ぎ、豪雨と落雷轟けば、ひび割れた大地からは炎が吹き荒れた。


「シシア、ここ。穢れが溜まりそう。ちゃんと浄化して?」

「は、はいっ!!」


 隣に付き従ったナリがこの世の者とは考えられないぐらい青ざめ、引き攣った表情を浮かべていたのは言うまでもなく、ずっと抱き抱えられていた私も、浄化だけに集中して耳は塞いだ。


「シシア、寒くないか? もっと暑くしようか?」

「全然大丈夫ですっ!!」


 余裕綽々なメロウ様の脅威を三国に知らしめる結果となり、終いには獣王国の現国王が即座に降伏を宣言。精霊国の属国となる事を誓った。


「お姉ちゃんっ!!」

「…………。」

「ああ……、ああっ!! 生きてる、ちゃんと生きてるっ!」

「…………ナ、リ…………?」

「そう。そうだよ、リナ姉。」


 ナリの双子の姉リナは無事救助され、精霊国でちゃんとした治療を受ける事が約束された。


 二人の処罰も追って言い渡すが、まずは精霊国へ胸元に埋め込まれたアーティファクトを除去する手術を受ける事、これまでの事情聴取を受ける事が優先されるらしい。


 二人とも加害者ではあるが、同時に被害者でもある。罰がそこまで重くなる事はないだろうとメロウ様が言っていた。


「シシアのおかげでクレハも黒穢から無事完治したし、モナルダ病棟から死者も出ていない。事情聴取次第ではすぐに釈放されるかも知れないな。」


 との事らしい。

 本当に良かった……。

 

「ここまですればもう手を出してくる事はないだろう。」

「だと良いですね。それにこれ以上は……、」


 獣王国の国王様が泣き出してしまいそうだ……。

 

「では、帰ろうか。シシア。」

「はいっ!」

「ああ、そうだ。これ、飲み込めるか?」


 手渡されたのは一錠の薬。


「なんですか、これ?」

「ただの痛み止めだ。その足、痛むだろう。」


 アドレナリンが出ているせいかそこまで痛くはないのだけど……。


「とにかく飲んでくれ。心配なんだ。」


 そこまで言われては飲まない訳にはいかず、薬を口の中に放り込んだ。


「…………良い子だ。」

「メロウ様、精霊国に帰ったら今後の話をしましょう。」

「ああ、そうだな。」

「ナリの話、それからシャルの事も……、」


 あれ……、なんだろう…………。


「それから……」


 急激に眠気が…………、


「眠いなら寝ていろ。俺が連れて帰ってやるから。」

「で、も…………、」

「大丈夫。目を覚ます頃には」


 耳が遠くなる。瞳が、開けてられ、ない……


「俺だけのモノになってるよ。」


ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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