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04 シシアの悪事

「実は私、記憶の大部分を無くしてしまっているみたいなの。」


 メイドのナリは快く話をする時間をくれた。

 テーブルを挟んで向かい合うように座ると開口一番に嘘を吐いた。


 シシアの中に別人が入っています、なんて言ってもおそらく信じて貰えない。それなら昨日の晩、目が覚めた時に記憶がなくなっていたと言った方がまだ信じてもらえる様な気がしたからだ。


「信じて貰えないと思いますが……」

「信じます。」

「そうよね、信じられない…………ふぇ?」


 ナリは真剣な瞳でこちらを見ていた。


「私はシシア様を信じます。」

「ええ……っと。」


 まさかこんなにあっさりと信じて貰えるとは思いもよらず言葉に詰まる。


「だってあのシシア様が私のような下級精霊の穢れを浄化してくださるなんてあり得ませんもの。」


 その言い方は……、

 嬉しいような、嬉しくないような……。

 自信満々に言い切るナリに苦笑いを浮かべるしかない。


「ありがとう、ナリ。」


 ナリから敬称と敬語は要らないとキッパリ言われてしまい、フランクな言葉使いを選んだ。


「それで、私の事を色々教えて欲しいの。」

「分かりました。なにが知りたいですか?」

「そうね、まずは私って結婚してどのぐらいになるのかしら?」


 小説にはシシアとメロウ様の結婚生活は一年も続かなかったと書かれていた。その間にヒロインのシャルが現れるからだ。


 今がどのぐらいの時期なのかで今後の作戦が変わってくる。どうか、結婚して間もない事を祈る。というか断罪を免れる希望はそこにしかない。


「ご結婚されて今月で三ヶ月になります。」

「そうなのね!」


 良かった。これならシシアだってまだ大きな問題も起こしてないんじゃないかしらっ!


 ヒロインが既に現れていたり、現れる直前でメロウ様との関係が拗れ過ぎていたらシシアの人生は詰んでいた。この知らせは私にとって最高の朗報。

 

 シシアは側から見ても笑みを浮かべていたらしく、それを見たナリがバツの悪そうな顔をした。


「ただ……」

「ただ……?」


 ナリが目線を逸らして口籠る。

 とても嫌な予感がする。


「シシア様は、既に色々と問題を起こされてこの部屋に軟禁状態、でした。」


 気まずそうなナリの顔。

 全身の血が酷く凍えていき、目の前が真っ黒になる感覚に襲われ両手にで顔を覆った。

 

「なにがあったのか話してくれる?」

「それが――」


 ナリは言葉を慎重に選んで話を紡いでいく。


 (嘘でしょ――……。)


 ナリから聞かされた話はとんでもない内容で、にわかには信じがたい。いや、信じたくないというのが正解だった。


「つまり私は、城で働く精霊にドレスの裾を掴まれ、穢れの浄化を懇願された事が気に食わなくて癇癪を起こした結果、その人の穢れた左腕を斬り落とそうとしたと…。」


 ナリは気まずそうに、申し訳なさそうに、小さく頷いた。それもこの話にはまだ続きがある。


 癇癪で精霊の左腕を斬り落とそうとした暴挙がメロウ様にバレて怒りを買い、部屋に一週間の謹慎を命じられた。 


 シシアはなぜ自分が罰せられないといけないんだ、と怒り狂い部屋で大暴れした挙げ句、自分で割った花瓶から漏れた水で足を滑らせ転倒。更にその拍子に椅子の角で頭を打ってしまい、気絶。そこから三日間も寝込んでいたらしい。


「…………ありえ、ない。」


 どうやらシシアが頭を打ったタイミングで私が転生してしまったみたいだ。通りで後頭部が痛むはずよ。


「ナリ、本当にごめんなさい。」

「い、いえ。とんでもございません。」

 

 ナリの話では、シシアは嫁いで来てからと言うもの城内でやりたい放題だったようだ。自分を飾り立てる為に予算を食い潰し、メロウ様と話すメイドを見れば体罰と評して虐めて退職に追いやった。


 シシアが人間国から連れてきた侍女達は全員漏れなく一ヶ月余りで退職または逃げだしてしまい、精霊のメイドであるナリがシシアの世話を押し付けられていたようだ。


「貴方には相当迷惑をかけていたのでしょ?」

「………………迷惑なんて、とんでもないです!」


 会話に生まれた間の長さからナリの今までの苦労が伺える。シシアは精霊を見下し奴隷のように扱っていたと小説にあった。ナリにも酷く当たっていたのは明白だ。


 そんな状況下にあれば逃げ出してもおかしくなかった。なのに今も優しく接してくれるナリには感謝してもしきれない。


(私がシシアに転生したからにはこれまでの苦労が吹き飛ぶぐらいの良い思いをしてほしい。)


「ナリ、本当にありがとう。これからもよろしくね。」

「もちろんです。穢れを浄化して下さったシシア様の為に精一杯お仕えします!」


 両手にギュッと力を入れて笑って見せるナリは本当に可愛かった。


「それで、穢れの浄化を懇願していた精霊の方は大丈夫なの?」


 シシアに左腕を切り落とされはしなかったらしいが穢れの進行は進んでいたはず。私に出来るのであれば助けてあげたい。


「彼ならモナルダ病棟に移されたと聞きました。」

「モナルダ病棟?」

「穢れの進行が進んでしまった者達が入院している場所です。」


 モナルダ病棟は城の裏手にある別棟らしい。


「良かった。とりあえずは無事なのね。」

「…………無事、ではありません。」


 ナリは物凄く悲しそうに床に視線を落とした。


「あの病棟に移されたらもう、死ぬしかないんです。」


 

ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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