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48 獣王国の闇 1

「それは、どういうこと……、」


 聞き間違いかと思うぐらい不穏な言葉が聞こえた気がして、聞き返そうとすると口元に指を当てられ遮られた。

 

「まずは目先の問題を片付けよう。」


 そうだった。此処は獣王国。

 外には未だ暴れるハリケーン。

 室内は氷漬けのリュスに、嘔吐するナリ。


 これぞまさしく地獄絵図。


「脅されている、そうだよな?」


 問題だらけの空間で、元凶はずっとそればかり気にしているらしい。私はメロウ様の瞳を見て何度も頷いた。


「そうか。ならいいんだ。無事で良かったよ、シシア。」


 パッと明るく笑ったメロウ様の機嫌に合わせてハリケーンは止み、漏れ出ていた魔力も収まった。

 

「じゃ、早く帰ろうか。」

「えっ!?」


 山積みの問題は放棄するんですか!?

 歩き出そうとするメロウ様を必死で止める。


「どうした?」

「えっーと……。」


 なにから話すべきなんだ?

 いつもの表情に戻ったメロウ様はもう怖くはないが、怒らせてはいけないのも事実。言葉は慎重に選ぶが吉。

 

「私は、ここから出られません。」

「……なぜだ?」


 自身に着けられた首輪に触れる。

 これのせいで浄化が出来ない。それに穢れの魔石の事もある。


「ああ、このアーティファクトが邪魔だな。」


 そう言うとメロウ様が首輪に手を掛けた。


「なるほど、魔力を込めると首が締まるのか。獣が考えそうな凡庸さだな。」

「わ、分かるのですか!?」

「このぐらいの仕組みなら簡単に分かるさ。アーティファクトは精霊の専売特許だからな。」


 そう言うとメロウ様はあっさりと首輪を外してくれた。

 私のさっきの頑張りはなんだったんだ、と言いたくなるぐらいそれはもう、あっさりと。


「それで、この部屋から出れない理由は他にあるか?」

「ありません。ですが、このままでは精霊国が危ないのです。」

「…………不穏だな、詳しく聞かせてくれ。」


 私は穢れの貯まった魔石が精霊国に配置されている事、ナリが奴隷契約で縛られている事、そして私たち二人が結婚時に交わした契約書がリュスによって無効になった事を告げた。


「ふむ……、魔石についてはクレハがなんとかしてくれるだろう。風に乗せて伝えておこう。俺たちの契約書に関しては、」

「メロウ様、なにを笑っているのですか……?」


 唐突に会話が切れ、振り返ると口角を上げて笑うメロウ様の姿があった。


「いや、その手があったかと思ってな。」


 口元を手で隠してはいるけれど隙間から覗く唇は「これで障害はなくなった」と確実に動いていた。


「あの……、メロウ様。」

「どうした?」

「そろそろ離しては貰えないでしょうか。」


 未だに冷凍状態のリュスの隣、私はベッドに腰掛けたメロウ様の膝の上にちょこんと座らされ、後ろからしっかりと腕を回されていた。


「ダメだ。」

「どうしてですか!?」


 こんな事言ってる場合じゃないのは百も承知。

 それでも言いたい。だってさっきから首筋を舐めたり匂いを嗅いだり、挙句の果てに服の中に手がっ、入ってきているのだからっ!!


「シシア、今お前がどれだけクサい匂いを発していると思う?」

「…………え、そんなに、ですか?」

「ああ、獣臭が酷過ぎる。こんな状態で精霊国に帰ったらせっかく回復した信頼は水の泡になるぞ。」


 獣と精霊がどれだけ仲が悪いと思っている、と付け加えるメロウ様。今日は精霊臭いと言われたり、獣臭いと言われたり、散々だ。


「うゔーーっ、我慢します…………。」

「よろしい。ほら、俺の匂いを付けてやるから髪をどかせ。」

「そんな事しなくてもっ…………あぅっ。」


 首筋に生ぬるい弾力とチクリとした痛みが走った。それからリュスにキスされた頬を必要以上に服の袖で拭かれてジンジンと痛む。


「もうっ、やめてください! ナリが見てますからっ!」


 どうして私がこんなにやめて欲しかったかと言うと、真正面で正座するナリが一言も喋らず、ずっとこちらを見ているからだ。

 

「ああ、その件がまだだったな。奴隷紋を見せて見ろ。」

「はい……。」


 ナリは躊躇なく着ていたメイド服を脱ぎ捨てる。

 露わになった白い肌。それから……、


「――っ!?」

「それは……、アーティファクトか?」


 ナリの胸元には燻んだ魔石と共に見慣れないアーティファクトが醜く埋め込まれていた。産まれつきなんて言葉が出てこないほど、酷く縫い合わせられた傷と爛れた肌。

 

 更に右腰辺りにある焼印は、獣の牙の形をしていた。

 この身体は我らの牙が支配しているとでも言いたげに、傲慢さが滲み出ている。


 こんな小さな少女はどれだけの事をその身に抱えて今日まで生きてきたのだろうか。無表情のナリからはなにも感じ取れない。


 感じ取れないほど、それが当たり前になってしまったこの現状が、悲しくて仕方がない……。


「言葉が縛られているならその胸元より先に奴隷契約を解除する方がいいだろう。」


 ナリはコクリと頷いた。


「奴隷契約は獣王国でしか認められていない。他を服従させるのが好きな種族の凶暴性の慣れ果てがこれか……。本当に嫌な国だな。ここは、」

 

 メロウ様が顔を歪めて唾を吐く。そして氷漬けにされていたリュスの指先を風の刃で斬り落とした。


「奴隷契約の解除は主人の外気に触れていない血液を取り込めばいいはずだ。ナリ、嫌だろうがこいつの指先を咥えろ。」

「…………分かりました。」


 リュスは芯まで凍ってはいないようで斬られた指先からは鮮血が滴り落ちていた。ナリはそれをメロウ様の指示通り咥え、血で喉を潤す。


 すると魔法が解かれたように右腰にあった奴隷紋は跡形もなく綺麗さっぱり消えた。


「これで、私は……。」


 リュスから離れたナリが自身の喉を抑え、唇を軽く動かしてみる。

 

「喋れるか?」

 

 メロウ様の言葉にナリは肩をピクリと震わせて、なにかを決意した様な瞳でその場で華麗な土下座をした。


「精霊王様、シシア様。無礼を承知でお願いいたします。どうか、どうか……、私の姉を救って頂けませんでしょうかっ!!」

ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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