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47 怒れるメロウ様

「おいおい、嘘だろ……。」


 コツコツと、割れた窓ガラスの上を歩く音。

 外の轟音も此処では通用しない。

 ふわりとバルコニーに降り立った天使とも悪魔とも言い難い翡翠の輝きは、他を寄せ付けない畏怖と威圧を放っていた。


 そこに優しさや安心はない。

 慈悲はない。容赦もない。

 敵を屠る為だけの狂える星だ。

 

 月明かりに照らされて入って来たメロウ様は、誰が見ても分かるほど怒りを露わにしていた。


 部屋の外を暴れるハリケーンが運んでくるのは、獣王国全土に響く雄叫びと悲鳴、それから阿鼻叫喚。


「精霊王ってのは全力の魔法は使えないんじゃねぇーのかよっ!?」


 外で暴れるハリケーン一つにすら勝てる気がしない。まさに圧倒的な蹂躙だ。

 

 ナリはメロウ様の魔力に耐えられず、口から逆流した胃液を吐き出してしまっている。


「国を納める者が簡単に黒穢にならないよう、代々精霊王が全力を持ってして魔法を使う事はないが、優秀な浄化師が入れば話は別だ。」


 バチリと目が合った。

 お前の事だと言わんばかりに。


「その首のアーティファクトと脚の包帯は?」

「……ぁ、の」

 

 黒穢を恐れないメロウ様の異次元さは恐怖でしかなく、言葉が出ない。

 シャルはどうしたのとか、なぜ一人で此処に来たのかとか、聴きたい事は沢山あるはずなのに、考える余裕も口を挟む隙間も貰えない。


 響くは、怒りに満ち満ちたドス黒い低音だけ。


「こいつがやったのか…………?」


 リュスを一瞥して、更に怒れるメロウ様の魔力が私の肌を刺した。

 

「シシアを離せ。」


 リュスの毛が逆立つのも無理はない。

 私だって、こんな魔力を帯びたメロウ様なんて知らない。まるで蛇に睨まれた蛙ようで。どれだけリュスが腕に覚えがあると言ってもメロウ様の前では赤子も同然。

 

 リュスの喉を通る唾がゴクンと音を鳴らした。

 

「魔石の事は話すなよ。」


 リュスが耳元で囁く。


「残念だがな、こいつはもう俺のものだ。見てわかんだろ。お前は一足遅かったんだよ。」


 見せびらかすようにシシアの頬にキスを落とすリュス。

 

「シシア、いつまで獣の腕の中にいるつもりだ?」


 メロウ様は歩く脚を止めないし、リュスの話も聞かない。今までに見た事のない怒りを通り越した先の苦笑を浮かべては、魔力を垂れ流して距離を詰める。


 リュスは後退りしながらも私の首に自身の爪を立てて、メロウ様を威嚇する。

 

「シシア、お前からも言ってやれ。精霊国には帰らないとな。」

 

 出ないとどうなるか分かるな、と目が言う。

 穢れを貯めた魔石の事を言っているのだろう。リュスの腕に力が入り、息苦しさを感じながら言葉を探した。


「メロウ、様。私は…、帰りま、せん。」


 震える口でなんとか絞り出した。

 逸らしていた視線をそっとメロウ様に向けると――、


「ひぃっ!」


 苦笑すらやめて、一国の王としての威厳すら捨てた一人の男が、いた。

 

「………………なぜ?」


 狂える星は、堕ちていく。


「どうして?」

 

 ぶつりとなにか糸が切れてしまったみたいに。


「お前は俺の妻だろ?」


 背筋に悪寒が走る。


「ああ、脅されているだな。だったら仕方がない。」


 もはや、彼を止められる者はいるだろうか?


「…………無理矢理、連れて帰ろう。」


 メロウ様がこちらに向かって手を翳した。


「おっと、俺らに魔法を放とうなんておも――、」


 リュスが言い終わるより先、瞬きの隙間にリュスの全身が凍りついた。さっきまで感じていたリュスの体温はなくなり、冷気が風に靡く。


「…………えっ!?」


 気がつく頃にはリュスだった氷の像に抱えられていた。

 穢れに侵されていないメロウ様の本気の魔力に、リュスは全く反応できなかったんだ。


「シシアっ!」


 驚いていると近づいて来たメロウ様の腕が伸びて来てた。そして抱きしめられる形でシシアは無事に奪還された。


「こんな酷い目に遭わせてしまってすまなかった。」

「め、メロウ様……。」


(良かった。いつもの優しいメロウ様だ……。)

 

「助けが遅くなり怖い思いをしただろうが、もう大丈夫だ。」

 

 抱きしめられた身体から伝わる体温とメロウ様の匂いに落ち着いたのも束の間……、


「それで、なにで脅されていた?」


 それは断定だった。


「本気であの獣と結婚する訳がない。恋してるなんて言わないよな?」


 脅迫のようにも取れるほど、強い口調。


「脅されている。…………そうだよな?」


 深海を思わせる濃いブルーの瞳が迫る。


「シシアは俺のもの。誰にも渡さない。」

「メロウ、様――っ!?」


 堕ちた星は、月夜の晩に最愛を確かめるような深いキスをした。そして――、


「帰ったらその身体も心も、全部。俺色に染めような?」


 恋心を隠すのを辞めたらしい……。

ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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