46 信じる力
「シシア、様……?」
「さ、手を貸して。」
問題は山積み。
ナリがどうして奴隷になっているのか、穢れの魔石、それからリュス。
リュスはナリの言葉を縛っていると言っていた。
今思えば、ナリは自身の事を一言を語っていない。と言う事は、語れないが正解なのでは?
部屋からも出られない今、出来ることは限られている。だったら、やれる事をするだけだ。
「首に付いたアーティファクトをお忘れですか?」
「あら、ナリ。ちょっと生意気ね。元気になったじゃない。」
「なっ!?」
こうやって喋っているとまだまだ幼い女の子。
精霊国を陥れようだなんて画策出来る技量もない。だとすれば、黒幕リュスがなにか弱みを握っている可能性が高い。
「ねぇ、ナリ。貴方はどうしたいの?」
ナリはピクリと肩を震わせた。
「どう、と言われても。私に決定権はありません。」
シシア様のお好きに処分して下さい、とへらりと笑う。
本人も分かっている通り、ナリの犯した罪は大きい。簡単に許されるものじゃない。それでも――、
「私はナリの事が知りたいし、穢れを浄化してあげたいと思うの。」
子供一人ではどうしても抜け出せないレールは存在する。昔の私がそうだったように。
近くにいる大人から教わる事が全てで、私の狭い世界を作っていた。もっと違う大人に出会えていれば、もっと優しい両親の元に産まれていれば、今ならそう思えるの。
でも、当時の私にはそんな事を考える余裕すらなくて、祖母が向けてくれた手を取る事すら始めは難しかった。
「リュスは貴方の事を好きにしていいって私に言ったわ。だから、私がナリに決定権をあげる。」
そんな私を祖母だけは諦めないでくれた。
信じて愛してくれた。
次は私の番なんだ。
「私と一緒にもう少し、この人生を足掻いてみない?」
このまま終わるなんて悔しいじゃない。
ナリ、どうかこの手を取って。
(おばあちゃんもあの時、こんな気持ちだったのかな。)
「…………私、殺そうとしたんですよ。」
「うん。」
「今、此処にいる羽目になったのも全部私のせいって分かってますか?」
「うん。おまけに足も痛いわ。」
戸惑うナリの瞳を真っ直ぐに射抜く。
「私……また、裏切るかもしれないですよっ!?」
「信じてる。」
私に出来る事なんてそれぐらいだ。
「なんで、そんな言い切れるのですか、バカですか。私なんて此処で殺しておいた方が絶対いいのにっ!!」
小さく丸くなる姿が、昔の自分と重なった。
今にも消えてしまいそうな脆い光。
この手だけは――、
「殺させないっ! なにがあっても!」
「――ッ!?」
思わずナリの左手をギュッと握った。
「………………信じても、いいのですか?」
ナリから伝わる震え。それが、彼女の精一杯の『助けて』のサインに思えた。
「ええ。」
「私だって、奴隷なんかなりたくなかった。でも、でも……っ!!」
そこから先は唇は動くのに声は出せないようで、ナリは苦しそうに咳き込んだ。
(やっぱり、なにかあるんだ。だったら……)
「ナリ、アーティファクトのデメリットって知ってる?」
首を横に振るナリを正面に見据えて、深く深呼吸した。
「魔法の発現スピードが遅いのよ。」
小説を読み込んでいて本当に良かった。
たった数行で書かれた設定でも、今はそれが役に立つ。
「魔石に魔力が加わり、アーティファクトが起動するから仕方がないのだけど、精霊が魔法を放つのと比べて一からニ秒程度の差が生まれる。」
それがどうしたと言いたげな顔で不安な表情を見せるナリ。
「徐々に締まるこの首輪なら頑張れば十秒は浄化出来ると思うの。」
「本気、ですか? 死ぬかも知れないのですよ!?」
「死にたくはないけど、言ったでしょ。死なせないって。」
ナリを助けたい。リュスに負けたくない。
再度、呼吸を整えた。
(私をこんな首輪だけで支配出来るなんて大間違いなんだからっ!)
息を止めてナリの左手を強く握り、祈りを込めた。
「――ッ!」
「シシア様っ!?」
遅れてアーティファクトが作動する。
白い光がナリの左腕を包んでいくが……、
(十秒じゃ足りないっ!)
突発的でなく継続して行う浄化は時間がかかる魔法。ナリの腕の穢れはまだ半分以上残っている。
(まだ、頑張れる……、あとちょっと!)
首が圧迫されていく。骨が、軋む。
ナリの穢れは徐々に薄くなっているがまだ消えない。
「もういいです! やめて下さいっ!!」
「…………ぃ、やだ――っ!!」
此処で諦めたくない。
あと、ちょっとなのに!!
「シシア様、やめて――、お願いっ!!」
あと少し、あと少しと自分を鼓舞するけど、祈りに集中出来なくなってきた。
(息が、空気が……足り、ない…………)
祈りを込めてから二十秒が立つ頃、シシアの首が限界に達していた。魔力は弱まれど、首を締め続ける首輪型のアーティファクトのせいで圧死寸前。
「マジかよ、死ぬ気か?」
「シシア様っ!!」
突然、後ろから強くひっぱられ首輪が緩んだ。
「ゲホォ……グッ……ゴホッゴホッ…………」
「シシア、俺ぁ大人しくしてろって言ったはずだったが。なに死のうとしてんだ?」
後ろには数分前に部屋から出て行ったはずのリュスが立っているのが微かに見えた。
「あ……かっ、…………ヒュッ…………」
不機嫌そうなリュスを尻目に、唐突に大量の空気が喉を通ったせいか上手く呼吸が出来なくなってしまった。
「あーあー、過呼吸になってんだろが。ったく、仕方ねぇーなー……。」
「…………ぁんっ!?」
ぐったりとした私の身体を引き寄せるとリュスは噛み付くようなキスをした。
「…………あっ、やめ…………っん!」
「少し黙ってろ。」
頭を手で固定されて身動きが取れず、隣でナリがなにかを叫んでいるが、上手く聞き取れない。
リュスの吐く吐息と長い舌が絡む音が充満しているせいだ。おまけに急激に稼働させられた心臓がバクバクとうるさい。
「ゃ、め…………ぱぁっ!」
「過呼吸は、治ったな。」
「ハァー……、ハァーハァー……。」
長いキスから解放された時には、息絶え絶えながらも呼吸が出来るようになっていた。リュスにしがみつく形になっていた両手を離そうとした、その時――、
「シシア、なにをしている。」
爆風と共にバルコニーへ繋がるガラスの大きな扉が一斉に割れ、地響きかと聴き間違えるぐらい低く、怒る声がした。
「……………………メロウ、さま?」
部屋の外、翡翠の髪が暴れている。
大きなハリケーンを幾つも引き連れ、宙に立つ悪魔の如き大精霊、メロウ様の姿がそこにあった。
ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)
底辺作家脱却を目指してます!!
ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!




