44 リュフェスの目的 3
心臓がうるさい。
こんな奴の言いなりなんかなりたくない。
でも……、私のせいで精霊国が。
「早くしろ。俺はそんなに気が長くはないからな。」
リュスの顔と契約書を交互に見る。
拒否権がないのは明らか。迫られる選択に、身体が震える。倒れ込むナリは今だに苦しそうに悶え震えている。早く浄化しないと穢れの進行は更に進んでしまうだろう。
「さぁ、どっちにする?」
震える手は無意識に動きだす。
鼓動はバクバクと寿命を縮めるように高速で動いている。
「俺ぁ言ったはずだ。逆らうな、と。」
(早く、どちらかを、選ばないと……)
私のせいで、私が……、なんとかしないと。
「わ、私、は……」
リュスとの婚姻届を手に取った。
「アヒャヒャ。そうかそうか。この部屋は自由に使っていいぞ。あとそこの精霊も。こうなったのもこいつのせいだ。煮るなり焼くなり好きにすればいい。」
リュスは私の頭を撫でて溢れ落ちる涙を舐めとると、立ち上がって床に倒れていたナリの腹を思いっきり蹴り、頭を踏みつけにした。
「や、やめてっ!」
「お前を騙した馬鹿な精霊だ。どうなったっていいだろ。」
「お願い、します……。」
穢れに苦しみ、リュスからの暴力に血を吐くナリをこれ以上見たくはなかった。
「まぁ、いい。ここから逃げ出そうなんて考えるなよ。勝手に部屋を出たとわかった時点ですぐに魔石を割る。」
獣人は屈強な身体に加えて耳がいい。
その大きな耳は数キロ離れた場所の音すら聞き逃しはしないだろう。私はコクンと頷く。
「式は無駄に豪勢にしてやる。お前は派手なのが好きだったろ?」
あんなにも、メロウ様から離れたかったのに。
そのために頑張ってきたのに。
今は……。
「でも先に、明日を俺たちの初夜しによう。お前が子を孕むまでじっくり抱いてやろう。覚悟しておけ。」
今は……、メロウ様の笑顔が恋しい……。
(私は本当に、馬鹿ね。)
メロウ様に恋心を向けたって意味ないって知ってるのに。あの方はシャルのものだから。
(ああ……、気付きたくなかったなぁー。)
この恋は始まる事すら許されない。
「今日は疲れたろ、ゆっくり休めよ。ハニー?」
私は、ずっと前からメロウ様が好きなんだ……。
もう見て見ぬ振りも出来ないぐらい、この心は大きくなってしまっていた。
「そう泣くなよ。すぐに俺がお前も知らない快楽を教えてやるさ。また明日、な?」
そう言うと私の額にキスを落とし、リュスは部屋から出て行った。
「……。」
リュスと入れ替わりで獣人の医者が入ってきた。医者は床に転がるナリを侮蔑し、無視すると右足首の包帯を取り替えてくれた。
「このハエ、掃除しましょうか?」
医者はナリを見て冷たく言い放つ。その態度だけでも、この国で精霊がどう扱われてきたのか少し分かった気がした。
「いいえ。放って置いて下さい。」
「分かりました、側妃様。ではなにかあればいつでもお呼び下さい。」
医者は当たり前のように側妃と呼び、丁寧な礼をすると部屋から出ていった。
残されたのは、シシアとナリ。ただ二人。
「…………刃物はこの部屋にありませんよ。」
「……。」
「私がしたみたいに花瓶でも割ったらどうですか?」
「……。」
「割った花瓶の破片でさっさと殺せばいいじゃないですか。」
私は、ゆっくりと足引き摺ってナリが動けずにいる床のすぐ横の腰掛けた。
「それともなんですか。裏切った挙句に主人には簡単に捨てられた精霊を嘲笑いたいのですか。いいご趣味ですね。」
ナリの右腕は完全に穢れで染まってしまっている。メイド服で隠れた身体部分も侵食されているのか、上半身を起き上がらせるので精一杯のようだ。
「ナリ、ごめんなさい。」
「………………はぁ?」
「本当に、ごめんなさい。」
意味がわからずキョトンとするナリに、私は何度も頭を下げた。
「な、なんであんたが謝るのよ!?」
「ごめんなさい。」
「謝らないでよ。もっとはじめに会った時みたく罵倒して罵ったらいいでしょうがっ!」
何度も謝るシシアに困惑するナリから焦りと怒りが滲み、敬語を付ける余裕すらなくなっていく。
「私が一番傷つけていたのは……ナリ、貴方だったのね。」
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