42 リュフェスの目的 1
「こいつのお陰さ。」
リュスは近づいて来たナリの頭を強く叩く。扱いはまるで人形のように乱暴だ。
「ナリは我が獣王国のスパイ。こいつがお前のドレスに細工をしたお陰で簡単に誘拐出来たって訳だ。」
あれだけ優しくしてくれてたのは、演技だったの?
今朝だって、楽しそうに支度を手伝ってくれたじゃない。それすら、全て嘘、だったの?
信じられなくてそんなことばかり考えてしまう。
「ナ、ナリ。なんで……?」
「こいつに何言っても無駄だぜ。奴隷契約で縛ってあるからな。ああ、勘違いするな、縛ってあるのは声だけ。行動したのはこいつの意思そのものだから。」
虚ろな瞳のナリが一切喋らないのはそのせいか。
あれだけいつも笑顔で接してくれていたのに、顔からは正気すら感じられない。
「お前が花瓶を割って足を滑らせたように見せかけて殺そうとしたのもこいつ。」
あれは、事故でしょ。
だって、あんなに震えて土下座までしてたのよ?
違う。そんなはずない……。
「宰相の女羽虫を黒穢にしたのもこいつ。」
私を一番先に逃がそうとしてくれたのはナリだったじゃない。一緒にメイド服を着て、ジルバル様に怒られて。それからだって、沢山の事があったわ。
「女羽虫がシシアを殺さなくても相応な被害が出れば良いと思ってやらせたんだ。あの建物が崩壊でもしてくれりゃあ良かったのにな。」
今までの全部が、本当に、演技だったの?
嫌だ。聞きたくない。
お願い、嘘って言って……。
「アヒャヒャ、驚き過ぎて声もでないか。その絶望の表情、最高にそそるぜ。」
ナリの瞳は虚ろなまま、視線は一向に合わない。それが全てを物語っていた。
「まさか頭を打って死なずに記憶を無くすとは思ってなかった。そんであれだけ嫌がっていた浄化をしまくるなんてな。」
お前もそう思うだろ、と話を振られたナリは水を得た魚のように流暢で表情豊かに「はい、ご主人様」と返答して見せた。
その顔が、表情が、いつもシシアに向けてくれていた笑顔とはまるで違う事に絶望する。
「最初はシシアを殺して羽虫野郎に罪をなすり付けてやろうと思ったんだ。フォンブール家は人間国でもかなり力がある。なんの罪もない令嬢を殺したとなればあいつもタダでは済まないだろ?」
同意を求められても、今はなにも考えられない。
絶望を前に進めない私を置き去りにして、リュスは無邪気な笑みを浮かべたまま、愉快そうに話を続ける。
「そんで女羽虫も黒穢になれば精霊国は衰退する。そうしてる間に俺達が攻め込み精霊を全滅させる。これが俺たちの目的だった訳だが……、お前だ。」
リュスは溢れる寸前まで涙を溜めた私の瞳の下をぺろりと舐め、自分の方を向かせた。
「お前が邪魔をしたんだ。」
「…………。」
怒りにも面白がっているようにも取れる赤い瞳が思考を放棄することを許してはくれない。
「ただ、予期せずどんどん面白い方に進んで行くんだから、お前の活躍は聞いてて飽きなかったぜ。」
「あんたの目的を台無しにした私を殺すためにわざわざここまで連れて来たっていうの?」
痛めつけて、絶望させて。
じわりじわりとなぶり殺す。だったら本当に上出来よ。
「アヒャヒャっ! 殺すだけならもうとっくに済ませてる。狼の狩りは一瞬なんだぜ?」
「だったら、何が目的なのよ!?」
その言葉を待ってました、とでも言いたげに口角を上げて鋭く伸びる牙を覗かせたリュスは言い放った。
「簡単さ。俺と結婚しろ。」
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