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41 シシアとリュフェスと……

「ここは……?」


 目が覚めると見知らぬ部屋の中にいた。

 正確には部屋の中に置かれている檻の中だけど。

 

 高さの低い檻は立つことは出来ず、座るので精一杯。どうやらリュフェスに誘拐されたらしい。という事はここは獣王国だろうか。


「――ッ。」


 短剣が刺された部分と両足裏には包帯が巻かれていた。一応、処置はしてくれたみたい。でもまだジンジンと継続する痛みが全身を駆けている。それから……、


「これは、首輪……?」


 ネックレスの代わりと言わんばかりに黒く分厚い首輪がされていた。触って見ると小さな錠前で施錠されていて、自力では取り外せなかった。


 服もいつの間にか黒っぽいワンピースになっているし、身体中から薬草のような匂いがする。

 気絶してからどのぐらい時間が経ったのだろう。バルコニーに繋がる大きなガラス窓の外は暗く、判断ができない。


(まだパーティーはやってるのかしら?)


 またメロウ様に迷惑をかけてしまった。

 項垂れていると、部屋の扉が開く音がした。


「よぉシシア、起きたか。」

「……リュフェス。」


 ノックも無しに開いた扉から現れた忌々しい男。睨んでみるも虚勢だと簡単に見破られてしまい、彼を更に愉悦に浸らせる結果になってしまった。


「その呼び方やめて昔みたいにリュスって呼べよ。」

「嫌よ。誘拐犯となら呼んであげる。」

「つれねぇーなぁー。」


 耳と尻尾をしゅんと下げて落ち込んでみせる演技はピカイチ。ただ、表情が伴わない。リュフェスは終始、余裕綽々で見下した顔をしている。それが余計に苛立ちと不安を掻き立てられた。


「私をここに連れて来てどうしたいの?」


 こんな危険な男と世間話をするつもりはないし、早くここから抜け出して元のパーティー会場に戻りたい。


「なにが目的なの!?」


 小説でも中盤にシャルを気に入ったリュフェスが誘拐を企てシシアと結託した事件があった。しかし、メロウ様の圧倒的な魔力とザリール様の活躍で計画は未遂に終わる。

 リュフェスは命からがら獣王国に戻るが、王位を狙う兄弟に暗殺されてしまう。


 本来のストーリーが始まる冒頭で登場するはずないのに、もはや完全に小説の内容から逸脱してしまっている。


 リュフェスは今日初めてシャルを見たはずだし、一体目的はなのかさっぱり分からない。


 シャルを連れ去るならまだ分かる。どうして私なの?


「どうって、お前……。」


 リュフェスは何か考え込んでから、面倒臭そうに狼の大きな耳を垂らした。


「口で説明するのはめんどくせぇなぁー。まずは……」


 リュフェスは持っていた鍵で檻の扉が開けた。

 こちらに不気味な笑みを浮かべては、手招きする。


「出ておいで。」

「……。」

「ほら、早く。」


(檻を出たらなりされるか分からない。)


「あ゙ぁ゙ー、面倒くせぇ。せっかく優しく言ってやったのにっ!」


 リュフェスは苛立ちに顔を歪めると躊躇なく、私の短剣で刺された方の足を思いっきり掴んだ。


「――ッ!!」

 

 激痛が走り、包帯が血で滲み出す。

 リュフェスの赤い瞳が爛々と光り、長い舌が足に向かう。


「や、やめてっ!」

「俺に逆らうな。次、同じ事言わせたら犯す。足も立てなくなるぐらいぐちゃぐちゃに潰す。自分の立場を忘れるなよ。分かったな?」


 地底を這うような不気味な声と圧力。それから電撃のように駆け巡る痛さ。考えるより先に小さく頷いていた。


「じゃあ、まず、俺の名前を呼べ。」

「……リュフェス。」

「違う。教えたろ?」

「あ゙ぁ゙――ッ!!!」


 足に爪を立てられた。麻酔なしで足を縫われているような痛みに耐えられず涙が頬を伝う。チカチカと目が周り、視界が上手く定まらない。


「俺、なんて呼べって言った?」

「……リ、リュス。」


(怖い……。誰か、助けて……)

 

「そっ、いーこ。」


 満足したのか、ようやく足から手を離してくれた。

 完全に恐怖で身体は支配されており、リュスに逆らう意思は折られてしまった。


「出ておいで。」

「わ、分かった。」


 震える身体をどうにか動かして檻から出ようと試みるけど、足の痛みで思うように体が動かない。


「アヒャヒャ、小鹿じゃんか。しゃーねーな。」


 そういうと笑みを浮かべたリュスにより、無理矢理檻の外に引っ張り出され、抱き抱えられた。


「俺の首に手を回せ。変な事しようとすんなよ?」


 リュスの低音が耳元で響いた。私はまた頷き、リュスの首に腕を回す。


「ん、いーこいーこ。震えてるお前は可愛いなぁー。」


 全然嬉しくない。身体をリュスに触られる度に怖くて気持ちが悪い。目を瞑ると浮かぶのは……、


(メロウ様に、会いたい……。)


 そんな想いが届く訳もなく、リュスは近くのソファに腰掛けるとシシアを自身の股の間に下ろし、座らせた。

 後ろから抱きつくように腕を回され身動きは取れず、背から伝わる体温の熱さを受け入れる事しか出来ない。


「お前、まだ臭いな。羽虫野郎の匂いが纏わりついてる。」


 硬直するシシアの肩にリュスは顎を乗せ、スンスンと匂いを嗅ぐ。羽虫野郎と呼ぶ相手はメロウ様だ。声には明らかな悪意が込められていた。


「薬草風呂に入れてもまだこれだ。あいつの執念深さも大概だぜ。」


 精霊と獣人は昔から仲が悪い。

 互いに嫌い相手を蹴落とす隙を狙っているため、数年に一度戦争になる。メロウ様が王になってからはその圧倒的な魔力で冷戦状態になっていたはずだが。


「もしかして、私を囮にしてメロウ様を呼び出す気?」

「……はぁ?」

「だったら意味ないわよ。メロウ様には他に好きな方がいらっしゃるもの。ここには来ないわ。」


 今頃メロウ様はシャルと出会っているはず。

 あんなに可愛いのだもの。一目惚れしたに決まってる。


(私はもう、用済みなんだから……。)


「お前、それ本気で言ってるのか?」

「……当たり前じゃない。」


 リュスが目をぱちくりさせて驚く。


「アヒャヒャっ、これは傑作。まさか、記憶と一緒に恋心すら忘れちまうとわな。」

「それはどういうこ……、」


(あれ。今、物凄い違和感があった……。)


「なんでリュスが私に記憶がないって知ってるの?」


 私の記憶喪失(嘘)は極秘事項のはず。精霊国の外部に漏れるなんて、メロウ様が許さないだろう。


「そりゃずっと聞いてたからなぁー。」

「えっ!?」

「入って来い。」


 リュスが部屋の外に声を発するとすぐに扉が開かれ、見知った顔が入ってきた。


「ど、どうして、貴方がここにいるの……?」

「良い顔すんねぇー。本当に好きになりそうだ。」


 小さな羽根、愛らしい見た目。今朝も会った。


「お呼びでしょうか、ご主人様(マスター)。」

 

 リュスに呼ばれて現れたのは、ナリだった。

 

ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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