40 メロウとシャルの覚醒
パーティーの佳境に入り、俺の目的も果たされた今、退屈で早く帰りたい。これ以上シシアを見せてやる筋合いもないしな。そう思っていたのに、
「城の庭園を抜けた先、一際大きな大木があります。そこに来て下さい。必ずですよ?」
なんて言い残し、シシアは生き生きして俺から離れて行ってしまった。あれだけ離れるなと言ったのに。
「ウルバ、跡を追え。」
「はい。」
ウルバと腕の良い魔法使い数人を陰ながら見張りに付けたので問題はないと思うが、嫌な予感がする。
早くシシアを追いかけたいのに一人になった瞬間、客人が蛾のように集まってきた。
「メロウ様、シシア様に何があったのですか!?」
「あれは本物ですか?」
腹立たしい事に全てがシシアの話題。
シシアを紹介してくれだの、主催するパーティーに参加しろだの、うるさい。全員吹き飛ばしてやりたいが、流石にそれは一国の王として許されない。
そうこうしている間にも時間は刻一刻と過ぎ去っていく。
パーティー会場からも見える庭園の奥にある大木。あそこでシシアが待っている。早く追いついて、先に走り去ったお仕置きをしてやらないと、そんな事を考えていた頃だった。
「失礼いたします。精霊王様、至急確認していただきたいのですが、これに見覚えはありますか?」
人間国の兵士が急いで何かを持ってきた。
「これはーーっ!?」
シシアに渡したはずのネックレスだ。
「これを、なんでお前が持っている……?」
これにはシシアが危険になった時に魔法が発動するように仕掛けておいた。
「どうして、これがっ、ここにあるんだ!?」
パーティー会場全てに響くほどの大声で兵士の胸ぐらを掴み叫んだ。
「そ、それが、庭園から一人のメイドが掛けて来て助けを求めているのです。これを緑の髪の男に渡せば分かるはずだ、とシシア様が危ないと騒いでおりまして。」
(嫌な予感が当たってしまった……)
「このパーティーに出席している中で緑の髪は精霊王様だけかと思いまして、」
「すぐに行く。急ぎ案内しろ!!」
◯●◯●
「クソがっ!」
ウルバと共有しているはずの視界が真っ暗だ。
ザリールには及ばなくとも彼だって精霊の中ではかなりの実力者には違いないはず。
(一体なにが起こっているんだ? シシア、無事でいてくれ……。)
会場を出てすぐ庭園の入り口に、一人の娘が騒いでいるのが見えた。
「お願いします。早くっ、シシア様がっ!!」
「女、説明しろ!」
「緑の髪……、シシア様の言ってた人っ!?」
銀色の髪、黄金の瞳のメイドはパニック状態で騒いでいた。俺を見つけると物凄い勢いで駆けて来ようとした。流石の勢いに、兵士数人が俺の前に着く前で女は取り押さえられ、更にパニックに陥っていく。
「離して、シシア様が危ないって言ってるのよ!!」
「落ち着きなさい。あのお方はお前如きが近づいて良い方ではない。」
兵士も躍起になって抑えようとするも逆効果。
「なんで、急いでよ、早くしないとシシア様がっ!」
泣き叫ぶ女は必死でシシアを思っているのが分かった。俺だってシシアの行方が知りたい。こんなところで時間を取っている訳にはいかない。「女を離してやれ」と兵士に伝えようとしたが、先に女が限界を迎えてしまった。
「シシア様を早く、助けてよっ!!」
取り押さえられた女が泣きながら我を忘れて叫ぶと、怒りの紅蓮の炎が上がった。突風が吹き上がり、火柱が女の周りを囲うように上がる。
「お願い……、どうか、お願い、します……。」
轟々と燃え上がる火柱は、今にも庭園の草花に引火してしまいそうなほど、灼熱に燃え上がり暴走しかけている。
「総員退避っ! 武器を持て!」
兵士達が一斉に女から離れて武器に手を掛けた。でもあれだけの魔力の前に、一般兵士では太刀打ち出来そうもない。ここにいる俺を除いては……。
「炎の、魔法使い……。凄まじい魔力だ。」
この威力、炎魔法単体なら俺よりも強いかも知れないが、今はそんな事どうでもいい。
「皆、下がれ。魔力のない人間に止められる域を超えている。武器を下ろし、彼女を安心させろ。」
人間どもは少し不服そうではあるが、素早く現実を受け入れ武器を手放す。それを確認してから右手を翳し、大量の水を放った。おかげで紅蓮の炎は止み、辺りは夜の静けさを取り戻す事に成功した。
「シシア、様……。」
驚く事に女は崩れ落ちながらも今だに意識を保っていた。あれだけの魔法を放てば魔力が枯渇して意識を無くしてもおかしくない。
これだけ凄い魔力を保持している人間は初めてみる。普通であれば精霊国にスカウトしたいところ。ただ、それは後でクレハに任せるとしよう。
「……落ち着け、女。何があった?」
ずぶ濡れの女はようやく正気を取り戻したらしく、俺の顔を見て、ポツリポツリとあった事を話し始めた。
「シシア様は私の代わりに囮になって下さって……。私、逃げる事しか出来なくて。なんで、今になって魔法が使えるようになるのよ。この力がさっき使えていれば……、」
涙と水が一緒になって流れ落ちる彼女の表情は悔しさと後悔で滲んでいた。
「もうよい。分かった。ここまでよく伝えに来てくれた。」
王として女の肩を叩き労うが、内心は穏やかではない。
シシアが攫われた。
あれだけ護衛を付けていたのに、何故だ?
月下の乙女を口にしたなら最初から狙いはシシア。ここ数日、シシアの周りで起きていた事件の犯人か?
怒りと苛立ちが豪雨のように降り積もる。
(誰だろうと絶対に、許さない。)
『衛兵、集まれ』
風に乗せて声を発すると、すぐに数人の精霊が姿を現した。皆、一様にかなりの痛手を負っている。その中にはウルバの姿も。
「信用していたのにこのザマとは、情けない限りだ。」
ウルバは右腕から血を流し、折れた剣を握っていた。
「陛下、申し訳ござ……」
「謝罪も罰も帰ってからでいい。何があったのか話せ。」
メロウの溢れ出る怒りの魔力に皆が震え慄く中、ウルバが意を決して口を開いた。
「獣人の奇襲に、遭いました。」
「獣人だと………?」
獣風情が……、俺のシシアを奪ったのか?
ふざけた真似をしやがって、
「俺の全てを込めて、凄惨なる罰を与えてやる……。」
「あのっ!」
岩すら砕けそうな拳と上限のない魔力が垂れ流しになり、周りにいる精霊はもちろん、兵士まで凍りついている。そんな中、たった一人の娘が俺の隣に立った。
「私も連れて行って下さいっ!」
「……お前になにが出来る?」
「なんでも出来るようにします。私は、シシア様を助けたい。その為なら、なんだって!!」
メイド姿の娘はシシアに似た強い黄金色の瞳をしている。さっきの炎は勢い任せだろうが、才能はある。ここでメイドにしておくには確かに惜しい人材。
「女、愛称は?」
「私は、私の名前はシャルと申します。」
俺の魔力に当てられても震えもせず立っている精神力、意志を貫く覚悟、共に申し分ない。だが、
「今のお前では足手纏いだ。俺一人で行く。」
「そ、そんな……」
「もしお前の中にある魔力を操る術を知りたいなら精霊国へ来い。努力次第では城で雇ってやる。」
どうするかはお前次第だ、そう伝えるとシャルは濡れた髪をかき揚げ、口を開いた。
「私、必ず行きますから。シシア様に会いにっ!」
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底辺作家脱却を目指してます!!
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